「中の人」が語るETロボコンの魅力─何が面白いのか、何に役立つのか

第6回(最終回) 10年目のチャンピオンシップ大会とアンケートから考えるETロボコンの未来

連載最終回を迎えて

ETロボコンの技術教育がはじまった2011年5月から連載がスタートし、今回はチャンピオンシップも終わった年末に連載最終回となりました。

1回目は全体解説、2回目は競技や技術の解説、3回目はモデル教育や審査の解説、4回目は性能や制御の解説、5回目は交流や就職に関する話をしてきました。今回は2011年11月に開催されたETロボコン・チャンピオンシップの結果報告と、ETロボコン2011参加者アンケート結果を報告し、来年に向けた話で連載を締めたいと思います。

10周年記念大会は走りとモデルが高次でバランスよく実現

2011年11月16日(水)と17日(木)に、横浜パシフィコの会議棟にてETロボコン2011チャンピオンシップを開催しました。地区大会にて優秀な成績をおさめた精鋭52チームが全国から集結。

例年、チャンピオンシップは40チームの参加で大会を開催していましたが、10周年記念大会であり52チームを招き、ハイレベルな競技を繰り広げました。結果は、モデルと走りの相関が高次でとれた理想的な結果となり、10周年を記念する大会に相応しいコンテストになりました。

競技会は、昨年実施した展示会場ではなく、パシフィコ横浜の会議棟の大きな会議室での開催です。

競技会場の模様
競技会場の模様

参加チームが調整等を行うピットは、隣の別会議室に設置されました。直接は競技の様子を見る事はできないですが、壁に大きくUStream中継が実施され、多くの参加者が実況を見ていました。

競技結果は、北海道地区の"Champagne Fight:リコーITソリューションズ⁠株⁠ES事業部 第1開発センター ES第1開発部"が1位、常勝チームである東海地区の"HELIOS"が2位に。

前半のベーシックステージを20秒台で走るチームもあり、当走行体で実現できるスピードの限界にまで達したのではないかと感じました。また、2011で追加された通称"尻尾"を使い、2輪のタイヤと3点で走行する尻尾走行も目立ちました。

スピードを上げ疾走するロボット
スピードを上げ疾走するロボット

そして忘れてはならないのは、高校生チームが地区大会で優勝し、チャンピオンシップに出場したことです。過去のモデルを勉強し、大人顔負けのモデルと走行を見せてくれました。受験を控えるメンバも多いようでしたが、下級生もチームにいるので来年以降も楽しみです。

表彰式では、2011で新設された表彰が2つ、情報処理学会の若手奨励賞とIPA賞です。

情報処理学会の若手奨励賞は、"はばたき隊:九州大学院システム情報科学府情報学専攻"が受賞、またIPA賞は、"BERMUDA:⁠株⁠富士通コンピュータテクノロジーズ"が受賞。日本におけるソフトウェアに関する学会と、行政機関がETロボコンに賞を出すようになったのは、10年という活動の賜物と言ってもよいと自負しています。

他の表彰として、例年賞を出しているTOPPERS賞は"雷鳥33号金沢行き:NECソフトウェア北陸"が受賞、そしてETロボコンの目玉であるモデル表彰は、最高位エクセレント・モデルは"HELIOS:⁠株⁠アドヴィックス"が受賞となりました。

総合優勝は、競技部門2位、モデル部門エクセレントとなった"HELIOS:⁠株⁠アドヴィックス"となりました。総合準優勝は"おやじプログラマーず:⁠株⁠エィ・ダブリュ・ソフトウェア"、総合3位は"Champagne Fight:リコーITソリューションズ⁠株⁠"という結果になりました。

総合優勝 HELIOS(⁠⁠株)アドヴィックス)
 総合優勝 HELIOS((株)アドヴィックス)
総合準優勝 おやじプログラマーず(⁠⁠株)エィ・ダブリュ・ソフトウェア)
 総合準優勝 おやじプログラマーず((株)エィ・ダブリュ・ソフトウェア)
総合3位 Champagne Fight(リコーITソリューションズ(株⁠⁠)
 総合3位 Champagne Fight(リコーITソリューションズ(株))
図1 総合評価結果のプロット
図1 総合評価結果のプロット

上図で、縦軸が走行競技の結果であり、上が1位で順に下にと読みます。横軸はモデル審査結果であり、右がエクセレントモデルで順に左へと並びます。右上にプロットされているのが総合優勝の"HELIOS:⁠株⁠アドヴィックス"です。モデル1位、走行競技2位であるのが読み取れます。

走りだけ、モデルだけというチームが少なく、バランスがよい分布であり、我々実行委員会が求めていた理想に近い形になったと考えています。

ETロボコンは交流が重要です。その重要な交流を促すのが懇親会です。横浜パシフィコ隣にあるクイーンズスクエアの食堂を貸し切り、多くの参加者が技術者と学生関係なく交流していました。実行委員含め約300人の大懇親会であり、学生割引や懇親会の重要性をアピールした効果が出たと喜んでいます。

懇親会でスタッフと話す参加者
懇親会でスタッフと話す参加者

モデルワークショップは走行競技と同じ会議室で実施し、約280名の受講者が集まりました。

ワークショップの模様
ワークショップの模様

ワークショップはETロボコン・チャンピオンシップの参加チームだけでなく、地区大会参加者や一般参加者も聴講可能なET2011のセミナとして実施しました。例年通り、全体のワークショップを実施後、個別の審査委員がモデル解説ツアーやミニワークショップを実施し、最後はモデル相談所というチームと審査委員がモデルを見ながら個別にディスカッションする場を提供しました。

モデル解説ツアー
モデル解説ツアー

2011アンケート結果は良好

ETロボコン参加者には毎年アンケートを実施しています。全参加チームのモデルを共有する条件として、アンケート回答をしてもらっています。ETロボコン参加の社会人は、幅広いドメインでの開発に従事しており、組込みソフトウェア産業実態調査に近い分布と言えます。一番多いのは自動車などの運輸系の開発ですが、他もエンタープライズ系も含めバランスよく分布しています。

図2 ETロボコン2011(社会人)参加者アンケート・参加者の業務内容
図2 ETロボコン2011(社会人)参加者アンケート・参加者の業務内容

また社会人参加は、新人もしくは2、3年目が50%以下だったのが約60%と伸び、若手の育成に利用が進んでいることが読み取れます。我々実行委員会としては若手技術者の育成が目的であり嬉しい傾向となりました。

図3 ETロボコン2011(社会人)参加者アンケート・参加者プロフィール
図3 ETロボコン2011(社会人)参加者アンケート・参加者プロフィール

ETロボコンの開発で最も注力しているのは、企業参加チームは"モデリング"が約36%で、次いで"安定性などの走行品質"が27%になっています。年々、プログラミングや走行性能から、モデリングにシフトしている傾向にあります。学生もモデリングから走行品質に興味がシフトしており、作るということからキチンと品質を考える傾向にシフトしているのは嬉しい傾向です。

図4 ETロボコン2011(社会人)参加者アンケート・開発でもっともと注力したところ
図4 ETロボコン2011(社会人)参加者アンケート・開発でもっともと注力したところ
図5 ETロボコン2011(学生教員)参加者アンケート・開発でもっともと注力したところ
図5 ETロボコン2011(学生教員)参加者アンケート・開発でもっともと注力したところ
図6 ETロボコン2011(社会人)参加者アンケート・参加の効果があった分野
図6 ETロボコン2011(社会人)参加者アンケート・参加の効果があった分野

さらに嬉しい傾向としては、企業参加チームの会社における理解です。就業時間内に作業させてもらったチームは約30%に達し、会社の方が地区大会を観戦に来たチームは約85%と多くなっています。これらは年々増加し、会社の理解も深まってきており、ETロボコンが教育のプラットフォームとして認知されてきたと考えています。

難所の数や内容に関しては、約85%が適切と回答し、2011は70%、2010は55%であったことから、実行委員会としてがんばった甲斐がある嬉しい結果です。さらに、効果の満足度は、企業参加チームでは昨年までは60%台でしたが、今年は約80%が効果に満足していると回答しています。

図7 ETロボコン2011(社会人)参加者アンケート・効果は期待に対し満足するものであったか
図7 ETロボコン2011(社会人)参加者アンケート・効果は期待に対し満足するものであったか
図8 ETロボコン2011(学生教員)参加者アンケート・効果は期待に対し満足するものであったか
図8 ETロボコン2011(学生教員)参加者アンケート・効果は期待に対し満足するものであったか

学生チームの参加目的は89%が教育目的参加で、その期待効果は約70%で逆に昨年80%台から下降してしまっていますが、学生に来年も参加したいか?と聞くと、99%が参加したいと回答。これは増加傾向にある嬉しい結果です。

ETロボコン参加者アンケートは、2012年1月中旬にはホームページで公開される予定です。ETロボコンへ参加を検討されている方はぜひご参考にしてみてください。

10年目のETロボコンが終わり、来年のETロボコンが動き出す

ETロボコン2011チャンピオンシップはハイレベルな競技が繰り広げられ、無事に終了しました。総合評価の分布もバランスよく開発されたことがうかがえる結果であり、アンケートでも満足度は高い結果となり、ホッとしています。

11/19にチャンピオンシップのモデルWSで2011年の全イベント終了となりましたが、12月中旬にはETロボコン実行委員会・全国企画会議が開催され、2011年の総括と2012年に向け動き出しています。

ETロボコン2012も例年通りの開催に向け準備を進めています。2012年2月14日にはETロボコン2012開催概要の記者発表会を予定しています。その後、各地で実施説明会を開催できるように準備します。詳しい日程等はホームページで発信していきます。

全国で約300人におよぶボランティアで運営されているETロボコン、11年目はもう動きだしています。すでに各地区で日程や場所の調整がされています。実行委員会と参加者が共創するのがETロボコンです。参加経験者が実行委員会に参加し、教育機会を提供する側になるスキームが出来ています。

毎年、同じ時期に同じように教育機会を提供する。─これを実現するために、皆さまのご指導、ご支援をお願いします。

ETロボコンの教育や会場でお会いしましょう。

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