ゲームデザインのミナモト

第2回 バルーンファイト―思った通りに動かせない“慣性”が生む遊び

この記事を読むのに必要な時間:およそ 2 分

ゲームに歴史あり

今回もいろいろなジャンルのゲームの歴史を振り返りながら,おもしろさのミナモトについて考えてみたいと思います。

ゲームのおもしろさはルールだけでなく,キャラクターや演出,ほかの人とつながるためのサービスなどいろいろな要素が組み合わせられています。ですので,新しいゲームを作るとき,古い定番ゲームのルールだけをそのまま持ってきてもほとんどの場合はおもしろいゲームにはなりません。ただ,もともとのゲームが持つアイデアのポイントや,思いついた経緯などを知ることで新しいものを生み出すヒントになるのではないでしょうか。

今回は,任天堂がアーケードゲームとして1984年に製作し,後にファミコン用ソフトとしても発売された「バルーンファイト」を取り上げたいと思います。

操作することの難しさ

バルーンファイトは,風船をつけてフワフワと空中に浮かぶプレイヤーをうまく操作して,敵キャラクター(やはり風船をつけている)を倒していくアクションゲームです。敵を倒すには,自分から体当たりして敵がつけている風船を割るしかありません注1)⁠接触したときに自分の高さが敵よりも高ければ,風船を割ることができます。反対に,敵が自分よりも高い位置にいるときに体当たりをすると,自分の風船が割れてしまいます。

このゲームは,その操作に特徴があります。左右の移動はレバー(十字キー)で行いますが,高い位置に上昇するためにはボタンを押して手をパタパタと羽ばたかせる必要があります。この動きに独特の慣性が働いており,ボタンを連打することで上昇するスピードが加速され,ボタンを離すとゆっくりと落下していきます。最初のうちはうまく羽ばたかせることができず苦労しますが,慣れてくれば思い通りに空中を飛び回る楽しさを感じることができます。

この「思い通りに操作できない」という要素が,プレイヤーに繰り返し遊ぶための動機になり,学習してうまくなったときの喜びにつながっていくのです。

注1)
正確には,海に落としたり着地中に踏むなどの倒し方がありますが,基本的には風船を割ることを狙うゲームです。

隠し味かメインディッシュか

物理法則に従って慣性が働くゲームは珍しくありません。たとえば,大人気となった「スーパーマリオブラザーズ」注2でも,プレイヤーが操るマリオは操作した方向にすぐ動くのではなく,最初はゆっくりと歩きやがて加速するといった慣性が取り入れられています。

また,⁠エクセリオン」注3というゲームでは,シューティングゲームの自機操作に慣性を取り入れることで,よりスリリングなゲームとして記憶に残るものとなりました。

現在のゲームでは,物理エンジンの利用などによりリアルな挙動が再現されていることが多いので,ユーザが意識しなくても慣性が働いているものもあります。ただ,隠し味としての慣性ではなく,メインディッシュとして慣性そのものをゲームの楽しさとして取り入れるという方向も,古くからある手法として覚えておくとよいでしょう。

昔からアマチュアの方が作るPCゲームの定番ジャンルの1つに,⁠酔っ払いゲーム」図1注4があります。これは,まっすぐ歩けない酔っ払い(プレイヤー)をうまく操作して目的地に導くといったもので,移動に慣性が働きます。操作キーを押すと,その方向に加速しながら歩いてしまうので,逆方向のキーを交互にうまく押しながらコントロールする必要があります。プログラムが短く手軽に作れて,何度も楽しめるゲームです。

図1 筆者が作成した酔っ払いゲーム

図1 筆者が作成した酔っ払いゲーム

注2)
1985年任天堂発売(ファミリーコンピュータ)
注3)
1983年ジャレコ発売(アーケード,のちファミリーコンピュータなど)
注4)
筆者が作成した酔っ払いゲームの実行ファイルとソースコード(HSP)本誌サポートサイトからダウンロードできます。

世界初のアーケードビデオゲーム

慣性の法則を使ったビデオゲームは古くから作られており,特にアメリカでは人気がありました。世界初のアーケードビデオゲームとして知られている,⁠コンピュータースペース」注5には,宇宙船をロケット噴射により制御するという操作で,すでに慣性が取り入れられていました。これはもともと,大学などで使用されていた初期のコンピュータ「PDP-1」⁠1960年DEC開発)上で動作していた「スペースウォー!」というゲームを模したものです。宇宙船は,左回転と右回転のボタンで向きを変えることができ,ロケット噴射のボタンで向いている方向に加速するという操作でした。これだけで,2Dの平面上を自由に移動させることができます。さらにもう1つのボタンで敵を攻撃するためのミサイルを発射します。ゲームで使われるのは,これら合計4つのボタンだけでした。

この操作方法は,その後登場する「アステロイド」注6というゲームに引き継がれます。アステロイドは,コンピュータースペースの敵を隕石に変えてゲーム性を高めたもので,アメリカでは7万台を超える大ヒットを記録し,今でも定番ゲームの1つとなっています。

注5)
1971年ナッチング・アソシエーツ発売(アーケード)
注6)
1979年アタリ発売(アーケード)

著者プロフィール

おにたま

ゲーム制作の仕事をする傍ら,プログラミング環境「Hot Soup Processor(HSP)」を作成したり,書籍の執筆などを行っている。古くは「テクノポリス」(徳間書店インターメディア)にてゲーム製作講座を連載していたのを始めとして,「TECH Win」(エンターブレイン),「Windows100%」(晋遊舎),「日経ソフトウエア」(日経BP)などの雑誌に執筆を行ってきた。また,アーケードゲームを中心とした古いゲームの内容や開発の歴史について掘り起こしを行っており,活動の一部は講演やYouTube動画により発表している。

Webページ:http://www.onionsoft.net/

執筆書:「最新HSP3.2 プログラミング入門」(秀和システム),「無料ツールでゲームプログラミングHSP編」(エンターブレイン)ほか

コメント

コメントの記入