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第46回確率の数学 確率とは [前編]

子供達に初めて柔道の立ち技を教えるとき、多くの場合背負い投げが選ばれることでしょう。背負い投げならば、誤って相手を投げ落としてしまわないように、しっかりと両手で保持することが出来ます。相手に背を向けるまで回転し、腰を落とし両手を用いて投げますので多くの運動量と敏捷性を養えます。相手が大きく宙を舞いますから、見ていて華々しく、技を掛けた本人にとっても大きな満足感があります。

しかし、試合でいきなり背負い投げを仕掛けても、なかなかうまく技が決まりません。背負い投げという大きな技を決めるためには、相手を押し引きし、相手のバランスを崩す必要があります。足払いやフェイントといった小技を交え、十分に機を見計らって技に入らなければ、自分が技を掛けられやすい体勢になってしまいます。

華々しい大きな技を掛けるためには、そこに至るまでのいくつもの技の連係が必要なのです。

さて、今回から始まる確率の数学にも、まさにそのような側面があります。高校までに学習したごく簡単な順列組合せと確率の数学に、少々応用の知識を加え、連係させて、実際の問題解決やプログラムコードに活かしてみましょう。さあ、新しい学習の始まりです。

図46.1 技は基本の組合せ
図46.1 大技は小技の組合せ

確率とは

確率の数学で用いる言葉とその意味を確認しましょう。

確率の数学で考える問題は、⁠ある事柄」が起こるまで結果がわからない種類のものです。例えばコインを投げ上げて、表が出るか、裏が出るかといったことです[1]⁠。このような事柄を確率の数学では事象[2]といいます。事象はアルファベットの大文字AやBを記号に用います。

コインの投げ上げを例に取ってみると、その結果は「表が出る」という事象Aと「裏が出る」という事象Bで全てです。この際「コインが立った」というのは無しにします。すると、コインの投げ上げということに関しては、AとBで全ての場合となります。起こりうる全ての事象の集合を全事象といいます。記号には、全体集合を表すUを用います。

コインの投げ上げの結果、どのような結果になるか実際に実験してみること、あるいは頭の中で考えてみること(思考実験といいます)を、試行[3]といいます。

コインの投げ上げ試行の結果、事象Aになる確率は、次のように計算します。

n(A)とは、事象Aに含まれる要素の数、ここでは1です。n(U)は二つの要素を含みますから2となります。P(A)「事象Aの確率」を表し、式46.5のように計算します。

確率[4]とは、ある事象が全事象の中で占める割合のことです。割合が高ければ頻繁に起こるでしょうし、割合が低ければ滅多に起こらないことです[5]⁠。

ここで、注意すべきことがあります。

全事象の数を数え上げるためには、それぞれの事象が等価である必要があります。等価でなければ数え上げる意味がありません。事象を等価に扱うために、確率の数学では、⁠一つ一つの事象が同様に確からしいという前提を用います。本当に確かかどうかは問わないことにします。そうすることで話を単純化し、考えやすくするのです。例えば、コインの投げ上げでは、表が出るか、裏が出るか、同じ割合で起こるのだと「仮定」します。この仮定がなければ、確率の計算に意味がなくなってしまうのです。

また、確率の計算を行うためには、全事象の数n(U)が必要になります。つまり、今のところの確率の定義では、無限に組合せが考えられるような問題の確率は計算が出来ないのです。

確率で考える

さいころを例に取り上げて確率を考えてみましょう。イカサマではないさいころを振って出た目は、どの目も偏って出ることはないでしょう。さいころを振ったらどの目が出るか、という試行について、1が出る事象、2が出る事象・6が出る事象、全て「同様に確からしい」と仮定することが出来そうです。

では、⁠1回さいころを振って1の目が出る」事象(事象Aとします)「2回さいころを振って出た目の合計が奇数である」事象(事象Bとします)について、はいくらになるでしょうか。計算してみましょう。

事象Aは、考えられる6つの場合のうちただ一つだけですから、次のように確率を計算します。

事象Bの確率は次のように計算します。

事象Aと事象Bの比は、次のように計算できます。

確率が3倍異なることがわかりました。

ここで取り上げた二つの事象は、大変単純でわかりやすいため、わざわざ計算する必要もなさそうですが、基本的な考え方、そして確率がぴしっと数値で表れることを示す例として良いと思われます。もう少しややこしい事柄の確率を比較する際も、ややこしいのは全事象の数を求めることと、問題としている事象の数を求めることです。今回ここで示した例と、手順は全く変わりません。

問題 さいころを2回振って出た目の合計が3である場合の確率と5である場合の確率を求め、比較しましょう

せっかくですからこんな計算問題を解いてみましょう。問題文を見ただけだと、二つの事象の確率は同じように思えます。もし、確率が異なるならば、どのくらい異なるのか知りたいところです。合計が3になる場合を事象A、合計が5になる場合を事象Bとし、最終的にを計算してみましょう。

解説

組合せの数が少ないので、全ての場合を表にしてみましょう表46.1⁠。これが一番確実な方法です。

表46.1 さいころを2回振って出た目の合計が3の場合と5の場合
 2投目
123456
1投目1 A B  
2A B   
3 B    
4B     
5      
6      

n(目の合計が3)=2、n(目の合計が5)=4ですね。このように考えてみると、2回さいころを振ってでた目の合計を当てる賭けをしたならば、7に賭けるのが良さそうだとわかります。

確率は、⁠全事象に対してある事象がどれだけの割合か」を計算して定まります。⁠さいころを2回振って出る目を合計する」という事象が全事象Uです。事象Aと事象Bの確率の比は式46.25から式46.32のように計算します。

事象Aと事象Bの確率の比は1対2であることがわかりました。同様に思えた確率は、実は倍も異なっていたのです。事象Aは事象Bの半分の割合でしか起こらない、逆には事象Bは事象Aの倍起こりやすいと言えます。数値でぱしっと割合を得られると、曖昧模糊としていた確率も、なんだかすっきりと納得できてしまうから不思議ですね。

今回はここまで

次回はさいころをシミュレーションするプログラムを作成します。今回の問題で求めた確率の値が、プログラムを実行した結果得られるかどうか確認します。お楽しみに。

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