組込み教育委員会

3-1 組込みスキル標準(ETSS)第3回

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はじめに

11月はET2007も開催され,たいへん忙しい雰囲気が漂います。筆者は9月から出向元の沖通信システム(株)に半分だけ復帰し,ETSS担当研究員と開発現場の並列処理に四苦八苦する日々です。

注)
組込み総合技術展Embedded Technology 2007)。11月14日(水)~16日(金),パシフィコ横浜で開催。

スキルとは?

今回はETSS(組込みスキル標準)の理念とも言える技術スキル(技能)について解説します図1)。次号以降のETSS解説には必須の話ですので,難解かもしれませんがご理解をお願いします。

図1 技術とスキルの峻別

図 技術とスキルの峻別

ETSSでは技術「要求に対する結果を導くために,経済原則(コスト条件など)を満足するように手順化・体系化された再現可能な工程(プロセス)」と定義しています。また「技術は明示的に知識化することが可能であり,文書や製品あるいは教育などの手段によって不特定多数の人に伝達することが可能であるという特性を持つ」としています。

これに対してスキル(技能)「要求に対する結果を導く技術全体あるいは技術の一部(サブ工程)を実行する個人の作業遂行能力」と定義しています。さらに「スキルは個人に依存するものであり,言語化あるいは機械化された知識だけでは伝達できない特性がある。スキルは技術を利活用する訓練を含む経験の積み重ねから個人の中に熟成されていくもの」としています。

簡単に言えば知識情報である技術を,実際に作業できる能力がスキルということになります。プログラミングのスキルは人によって生産性が大きく違うことは周知の事実です。デバッグのスキルも「あの先輩はいとも簡単にバグを見つけられる」といったように,人に依存したものがスキルと言えます。これはプロジェクトマネジメントに関しても同様です。PMBOK的なプロジェクトマネジメントの知識を知っているだけでは,プロジェクトをマネジメントすることは困難です。開発対象システムの勘所やステークホルダへの精通度合い,実際に人を動かすコミュニケーションスキルなどが重要なのです。

ETSSは組込み製品開発という「ものづくりの現場」において,実際に作業遂行できる/できないというスキルを可視化することで,開発に貢献する人材育成や人材活用のために開発されたツールです。座学形式の研修受講経験があるだけではスキルがあるとは言えません。スキルには,キチンとした訓練や,実戦経験が必要です。

ETSSニュース

誌面の関係からETSSに関係するニュースから厳選したトピックスを紹介します。

SEC関係

組込み産業実態調査2007結果の第2弾公開

9月末,経済産業省とIPAは「組込み産業実態調査2007」分析結果の第2弾を公開しました。6月に公開した情報に加え,さらに詳細の分析を行った情報を公開するもので,スキルレベルの分布と品質や生産性の関係などを明らかにしています。

開発力強化のために闇雲に多くのスキルを向上させる施策を打つのではなく,目的に合わせて必要なスキルアップを図るといった際の指針としても使えるような分析結果が含まれています。スキルアップ計画を立案する際に,参考にされてはいかがでしょうか。

情報処理技術者試験の新試験制度(案)公開

9月上旬,IPAは新たな試験制度の具体化を検討し「情報処理技術者試験 新試験制度の手引(案)」を公表しました。加えて,利用者からの意見を募集しました(意見募集は9月末で〆切済み)。

今回は,未経験者を対象としたITパスポート試験の新設や,組込みシステム開発も含むITアーキテクト試験の新設などが目を引きます。ITパスポート試験は,初級シスアドの跡を継ぎ,IT関係の仕事へ広く門戸を開く試験であり,CBT(Computer Based Testing)で行われる予定です。

組込み開発の観点で見ると,既存のエンベデッドシステム試験はそのまま残り,前述のITアーキテクト試験やプロジェクトマネージャ試験など,ITシステム開発に限定せず,組込みシステム開発も対象となっています。内容についてはぜひとも公開ドキュメントを読んでいただき,自分や自社における適用を検討してみてください。

業界関係

モデルベース開発のスキル標準が作成・公開

計測・制御に関するツールとして著名なMATLABのユーザ団体であるJMAAB(Japan MATLAB Automotive Advisory Board)では,ETSSをベースにした自動車業界におけるモデルベース開発エンジニアのためのスキル標準「ETSS-JMAAB」を作成・公開しました。

近年,自動車業界では,複雑・高機能化が進む車両制御システム開発にMATLAB/Simulinkをコアツールとしたモデルベース開発の手法が広く使われるようになってきましたが,そのためのエンジニアの数が不足しているのが現状です。ETSSの業界団体実装例として,類似の開発を行う企業での活用が進み,質の高いレベルでの競争が行われることが期待されます。

福岡で日韓IT人材交流フォーラム開催

まだ残暑の残る9月18日,組込み開発で大きく盛り上がる福岡にて「第2回日韓IT人材交流フォーラム」が開催されました。組込み製品開発ではライバルである韓国と日本。今後の日韓人材交流や,ETSSを使った人材育成や活用によるアジア全体での開発力強化が期待されます。

あとがき

IPA/SEC設立から丸3年が経過しました。筆者も自社とIPA/SECのかけ持ちで非常に忙しい日々ですが,より現場感を持ってETSSに取り組めるという効果があります。このような経験も踏まえ,ETSSを今後も改版し続け,より使いやすいツールに仕上げていく予定です。

著者プロフィール

渡辺登(わたなべのぼる)

沖通信システム入社以降,キャリア向け通信機器などの組込みソフトウェア開発に従事。2003年から経済産業省の組込みソフトウェア開発力強化推進委員会でETSSを策定。2004年から独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)のソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)に出向。ETSSの普及活動や教育カリキュラム作成など人材育成施策を担当。組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)理事。

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