組込み教育委員会

7-1 組込みスキル標準(ETSS) 第7回

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はじめに

前回は組込みスキル標準(ETSS)について,個人での活用シーンおよび効果について紹介しました。今回は開発プロジェクトと組織での活用シーンや効果について紹介します。また,実際にETSSを導入された事例についてもいくつか紹介していきます。

ETSSは「人材の育成」「人材の有効活用」を実現するための指標やしくみを規定するものとしてまとめられています。スキルを体系的に整理できるフレームワークとしての「スキル基準」を中心として,職種/専門分野を定義した「キャリア基準」,教育の指針としての「教育研修基準」から構成されています。

開発プロジェクトでの活用シーンと効果

このような目的,構成をもったETSSは開発プロジェクトでどのように使えるのでしょうか。IPA/SEC(ソフトウェア・エンジニアリング・センター)では次のような例を紹介しています。

  • ① 開発チームの強み・弱みの把握
  • ② 開発チームに必要なスキルの把握
  • ③ 新規・未経験分野のリスク分析
  • ④ 開発工程に合わせた人材の配置
  • ⑤ 調達(必要な協力会社,海外リソースの把握)

①から③はスキル基準のフレームワークを用いて開発プロジェクトに必要とするスキル定義を行い(スキルの洗い出しと整理),メンバーのスキル診断を実施します。

個々のメンバーのスキルを積み上げたところでプロジェクトが必要なスキルとのギャップが明らかとなり,そのまま進めたときのリスクが見えてきます。④,⑤については設計,実装,テストなどの各工程にどのようなスキルを持ったメンバーをどのように配分できるか,足りない人材はどのような職種なのかがキャリア基準の利用により明確にできます。名乗っているだけの職種でなくスキルの裏づけのある職種の人材をより定量的に把握することができることになります。

図1に各工程に合わせた人材配置のイメージを示します。

図1 プロジェクトでの活用:開発工程に合わせた人材の配置

図1 プロジェクトでの活用:開発工程に合わせた人材の配置

組織での活用シーンと効果

組織ではどうでしょうか。組織の場合,開発プロジェクトよりもより中長期的,戦略的な取り組みが必要となります。

  • 事業部保有スキルの把握(技術のたな卸し)
  • 事業戦略の立案
  • 事業戦略に沿った人材育成計画と調達計画
  • 新人・他分野からの異動者の即戦力化教育

開発プロジェクトでも速戦的な教育は必要ですが,組織の場合はより「個人のスキル ⇔ 組織のスキル」を教育的見地から考えておく必要があるでしょう。スキル,キャリアを明確にしたうえで解説している教育研修基準がお役に立てるシーンとなります。教育研修基準ではさらに詳細な教育プログラムの科目設計まで説明しています。

ETSS導入事例

開発プロジェクトや組織での活用シーン,効果を紹介してきましたが,読者のみなさん御自身の立場に置き換えてみていかがでしょうか。例としてあげた事項がまさに人材に関わる課題とその解決へのヒントになりそうだと感じられるのではないでしょうか。

SECではETSSを導入するに際してのノウハウの収集,ETSSの有効性の確認を実証実験という形で実際の企業,団体などと進めています。取り組み自体が始まって間もない,取り決めにより紹介できないところがある,など制約も多いのですが一端を紹介します。

組織での事例

業界団体例
ETSSのスキル基準フレームワークに基づく技術要素スキルを検討し(対象ドメインのプロファイル)のべ200名超のスキル診断を実施しました。
コミュニティ例
対象ドメインの設計に関わる技術者の育成目的で活動開始しています。ETSSに準拠したスキル基準・キャリア基準のリリースその後も継続的な検討を重ねています。
企業例
スキル診断結果と人材育成につなぐ,人材育成プロセスの試行を始めています。

代表的な目的,成果,課題などは表1にまとめます。

表1 ETSS導入における代表的な目的,成果,課題

目的スキル診断結果と人材育成につなぐ,人材育成プロセスの試行
開発ドメイン対象技術者の育成。およびそれを目的とするスキル基準,キャリア基準の策定
開発ドメインに必要な技術項目の整理。ETSS活用による人材育成のトレンド評価
成果改善の緒となる人材育成プロセスの確立
教育対象ポイントの明確化
保有スキル,育成トレンドが可視化できることの確認
必要技術の抽出・整理。および技術定義の未成熟ポイントの明確化
課題診断精度の信頼性
スキル診断,育成対象者への意識浸透のばらつき
実業務の改善とのリニアリティ不足感

おわりに

ETSSが公開されてから3年が経過しました。ETSSを利用されている企業,団体も増えてきています。事例の課題として挙げられている事項は,使い方に関する重要な示唆であり,またみなさんが必要とされるところと思われます。今後このような導入する際に役に立つ情報を紹介していく予定です。

著者プロフィール

室修治(むろしゅうじ)

独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)。

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