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第37回 YAPC:国際的なイベントなのだ,ということはお忘れなく

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国内だけで話を決めていいのかしら

アジアと呼ばれる地域の広さや多様さを思えば,そもそもそのすべてをひとつのYAPCでまかなうのが適切かどうかは大いに議論の余地はあります。また,言葉の壁を別にすれば,日本の首都圏が世界でも有数のYAPC好適地であることも間違いありません。だから,現実問題として,少なくとも極東地域におけるYAPCは来年も東京で,というのは無難な選択肢ですし,しかるべき手続きを踏めば,中近東を含むほかのアジア地域のグループからも特に異論は出ないだろう,とは思います※3⁠。

※3

YAPC::Europeが実質的には西ヨーロッパでしか開催されず,東欧についてはYAPC::Russiaに任せてしまったように,アジアの場合も東と西,あるいはさらに南まで考慮して2つないし3つに分割できれば話はもう少し簡単になるのでしょうが,それぞれの地域にいますぐ独立してYAPCを運営できるだけの地力があるかはまた別の話。前回,今回と,少なくともイスラエルからは来日してくださっている方がいるので,現状ママでもアジア全域をカバーするという名目は立っています。

ただし,これは運営側に立つ方だけでなく,参加者のみなさんにももう少し意識していただければと思うのですが,YAPC::AsiaはTokyo/Japanese Perl Workshopではありません。会場にしろ,会期にしろ,本当はJPAや日本の参加者が自分たちの都合だけで決めてよいものではないはずです。

北米やヨーロッパでYAPCが持ち回りになっているのは,もちろん開催地や参加者の負担軽減といった側面もありますが,それ以上に,なるべく多くの地域のPerl Mongersグループを活性化させる――交通費をかけてまでは参加したくないけれど,近所で開催してくれるなら参加したい,という層を取り込む――ため。

日本ではよくYAPC::Asiaは世界最大のYAPCである,という言い方がされていますが,これは単に日本の首都圏人口がほかの開催地の人口に比べて圧倒的に多い,というだけのことで(計算の仕方にもよりますが,およそ3500万人というのはダントツの世界一です⁠⁠,会場がどこに移ってもついていく,というコアな参加者の数で比べれば,YAPC::AsiaはおそらくまだまだYAPC::NAやYAPC::EUには及ばないでしょう。それでもこの5年で首都圏のPerlコミュニティはずいぶん成長できていますし,多くの人を取り込めました。YAPC::Asiaの存在がそれを加速したのは誰もが認めるところと思います。

「人が集まらない」というのは地方.pmに限らず万国共通の悩みですが,世界の都市圏人口上位10傑のうち東京を含む8つまでがアジアに集中していることからもわかるように,のびしろの点では,アジアは,アメリカやヨーロッパ以上のポテンシャルがあります。5年もYAPCを独占してきた首都圏在住の我々は,ぼちぼちその果実を近隣の方々にも何らかの形でお裾分けすることを考え始めても罰は当たらないと思いますが,いかがなものでしょう。

イベントを開催するときは

YAPCの先駆者であるYAPC::NAやYAPC::EUの主催者たちは,あとに続く主催者たちのために,その名もYAPCというモジュールを用意して※4⁠,大きなイベントを開催するときの心構えや注意点を説いたり,主催者(および過去の主催者)専用のメーリングリストを用意して,必要な手続きの説明や金品の支援などを行ったり,⁠今年のYAPC::Asiaでは使われませんでしたが)Actというイベント運営を支援するサービスを開発・提供してきました。また,YAPCの収益は特定の開催地ではなくPerlコミュニティ全体の利益になるよう,各種プロジェクトの助成金に回したり(助成金を管理しているThe Perl FoundationはYAPCの運営母体として設立されたYet Another Societyの別名です⁠⁠,翌年の開催地に軍資金として提供する,といった工夫も続けられています。

※4

YAPCモジュールはCPANにも上がっていますが,これはその後2004年のYAPC::NAを取り仕切ったジム・ブラント(Jim Brandt)氏や,2006年のYAPC::Europeを取り仕切ったバービー(Barbie)氏らによって大幅に加筆修正され,現在は連載第34回でも紹介したように,TPFのリポジトリ上で管理されています。

http://code.google.com/p/tpf/source/browse/trunk/yapc/

これらの情報はyapc.orgyapceurope.orgをはじめとする公式サイト群にまとまっているので,YAPCに限らず大きめのイベントを開催するならぜひ一度は目を通しておいていただければと思いますが,どちらにも共通して強調されているのは,⁠YAPCは立場も考え方も異なるさまざまな人が集まり,学んでいく場であることを忘れないように」ということ。小さなところでは,食事や宴席を用意するなら体質や思想信条の理由で食べられないものがある人がいることをお忘れなくとか,可能な範囲でバリアフリーにしてあげましょうとか,地元以外から来る方のために宿泊施設の手配や交通機関の案内をしてあげるといいですねとか。差別を助長したり,疎外感を与えるようなことは避けましょう,という話もありました。現地の言葉を話せない人でも移動や滞在に問題がないか,というのもポイントのひとつになっています。

また,プログラマのイベントではネットワークや電源の重要性はどれだけ強調してもしたりませんし,宣伝・広報は,参加者を集めるという直接的な目的だけでなく,ほかのイベントに参加者やスピーカー,スタッフをとられないようにする,という意味でも重要,という話もあります。開催候補地の人に「今度はここで,こういう形でイベントをしたい」と宣言してもらって,賛同を得るというプロセスの長所も説かれていました。

YAPC::EU(と,いくつかのYAPC::NA)では終了後のアンケート結果を専用のサイトで公開しています。この結果は,運営者にとっての資料としてだけでなく,スピーカー(あるいはこれからスピーカーになりたい人)にとっても大いに役立つはずです。

もちろんこのすべてを主催者が考慮しなければならない,というわけではありません。主催者は本番が近づくにつれて仕事を減らすべきだ,というのはどんなイベントでもあてはまる注意のひとつですし,⁠Delegate it!」こそが長続きのコツでもあります。

さて,情報は提供しました。これをどう咀嚼するかはみなさん次第です。

著者プロフィール

石垣憲一(いしがきけんいち)

あるときは翻訳家。あるときはPerlプログラマ。先日『カクテルホントのうんちく話』(柴田書店)を上梓。最新刊は『ガリア戦記』(平凡社ライブラリー)。

URLhttp://d.hatena.ne.jp/charsbar/