リクルートライフスタイルの技術力を追え!

第1回[インフラ編]柔軟性とスピードの両立を目指してクラウド活用を決断

「じゃらん」「ホットペッパー グルメ」を始め、数多くの大規模サービスを展開するリクルートライフスタイルでは、⁠ギャザリー」図1などの新サービスの提供も積極的に進められています。ビジネスを拡大し続ける同社にとって、その足元を支えるインフラ環境の見直しは急務となっていました。そこで目をつけたのがパブリッククラウドです。今回、株式会社リクルートライフスタイルの山崎賢氏写真1⁠、そして小林智則氏写真2に、パブリッククラウドを活用することに決めた経緯や今後の展望などについてお話を伺いました。

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迅速にサービスを立ち上げられるスピード感が魅力

――リクルートライフスタイルでは、いくつかのサービスでパブリッククラウドサービスを積極的に活用し始めているとのことですが、なぜでしょうか。

山崎氏:とにかく便利だったということが1つです。今後のITの進化を考えると、ソフトウェアのレイヤからインフラを制御する方向に進んでいくでしょう。その先駆けがパブリッククラウドサービスだととらえています。

インフラを運用する、その中で何らかの設定を変えるといった作業を支援するサービスは、パブリッククラウド側が提供しています。それらを積極的に活用することで、迅速に新規ビジネスを立ち上げられる。そういったスピード感が魅力になっています。

――AWSを利用されているそうですが、グローバルでも、また日本国内においても多数のサービスが提供されています。その中からAWSを選んだ理由はどういった部分にあるのでしょうか。

山崎氏:AWSは圧倒的なシェアを持つことに加え、ほかのパブリッククラウドサービスと比べると機能の網羅性の観点でも一歩先に進んでいると評価しています。それと実績ですね。とくに大規模なサービスの展開を考えると、やはり実績がなければ不安が残ります。その点AWSであれば、グローバルな大規模サービスで利用されていますし、国内においても他社の大規模サービスがAWSに完全移行したといった事例もあります。こういった実績もAWSの採用を決めた理由の1つです。

図1 昨年リリースされたキュレーションマガジン「ギャザリー」
図1 昨年リリースされたキュレーションマガジン「ギャザリー」

既存インフラのパブリッククラウドへの移行可能性を検討

――現状はAWSをどの程度利用されているのでしょうか。

小林氏:現時点では、おもに新規サービスで積極的にAWSを活用しています。大規模サービスについては、リクルートテクノロジーズが運用しているデータセンターで、物理サーバを使って運用しています。

山崎氏:ただ大規模サービスについても、今後パブリッククラウドへ移行できないか考えてはいます。大規模サービスの運営にも十分に耐え得る、リクルートライフスタイル独自のインフラ基盤が構築できないかを検討しています。

――移行を検討されているということですが、もはやオンプレミスにメリットはないという判断でしょうか。

山崎氏:もちろん、たとえばすでにサーバがある場合、コスト面でオンプレミスに分があるケースもあるかもしれません。また、もう1つあるとすればセキュリティでしょう。オンプレミスを前提としたセキュリティポリシーがあり、そのポリシーへの準拠が求められるといったケースです。長らく運用されてきた社内のルールは、すぐには変わらないでしょう。そこでオンプレミスという選択になることはあると思います。

上位レイヤやインフラの境界線をなくす

――現状のAWSの利用形態について教えてください。

小林氏:既存のものに関しては、Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)やAmazon Relational Database Service(RDS)をそのまま箱として使っているのがメインです。今後は、AWSの使い方をさらに進めて、Amazon OpsWorksやAWS CodeDeployといった機能を活用したいと考えています。

――開発効率やコスト面から判断し、積極的にAmazonのサービスを利用していくということでしょうか。

小林氏:基本的にはそうですが、その1つの上のレイヤにはリクルートライフスタイル自身が管理できるインフラという概念があります。そこでパブリッククラウドを使うという形になっているわけです。ここで目指しているのは、1人のエンジニアが上位レイヤの開発からインフラの設計までを担える環境の提供です。

たとえばトラブルが発生し、それに対処するといったことを考えたとき、誰が主体的になって動くかあいまいになることは多いと思います。アプリケーションエンジニアが対応するのか、それともインフラ側で対策を講じるのかが明確でないと、誰かが解決するだろうという状態になってしまう。これは避けなければなりません。そのため、アプリケーションに強い、インフラが得意だといった違いはあっても、その境界線をなくしていくことを目指しています。

山崎氏:サービスやアプリケーション側とインフラ側の境界線は今後なくなっていくだろう、と。それを実現してくれるのが各種パブリッククラウドサービスではないでしょうか。その中で、たとえばアプリケーションエンジニアはパブリッククラウドサービスを効率よく利用することが求められるようになるでしょう。リクルートライフスタイルのエンジニアもそうなるべきだと思っています。

リクルートライフスタイルが求めるエンジニア像

――そのように判断することになった背景には、どのような理由があったのでしょうか。
写真1 山崎賢氏
写真1 山崎賢氏

山崎氏:リクルートライフスタイルとして、スピード感を持ってビジネスを展開していくことが根幹にありました。そのとき、自分たち自身で管理できるインフラを手に入れないと、サービスをスピーディに展開できません。パブリッククラウドを活用してスピードを担保しつつ、さらに個々のエンジニアがコントロールできる範囲を広げていく。それにより柔軟性のあるサービス展開や運用を実現していこう、ということです。

――そのように考えたとき、リクルートライフスタイルのエンジニアにはどのようなスキルが求められるのでしょうか。

山崎氏:そもそもAWSの利用はそれほど難しいと考えていません。簡単に使えることがパブリッククラウドサービスの利点だと考えているので、AWSを使うこと自体のスキルはあとから習得してもらえばいいかなというレベルです。それよりも求めたいのは、エンジニアとして線を引かないことです。ここから上はアプリケーション、ここから下はインフラ、などと、これまではいろいろな線引きが発生していたと思うんです。ただ今後は、それをすべて包括し、サービスのためのエンジニアリングであるという意識を持てるかを重視しています。

小林氏:そうですね、ザ・インフラエンジニアといった人、あるいはアプリケーションだけを書くという人は、リクルートライフスタイル全体を見るとそれほど必要ではなくなりつつあります。それよりも、開発したサービスに対して高速にPDCAサイクルを回し、どんどん改善できる、あるいは継続的デリバリーができる、そういったエンジニアが求められていると感じています。

インフラまで1人で対応することのメリット

――パブリッククラウドサービスを活用していくことを伝えたとき、社内のエンジニアの皆さんの反応はいかがでしたか。

山崎氏:エンジニアからはあまり反論はなかったですね。むしろ、その方向に向かうべきという意見が多数でした。

小林氏:そうですね。ほとんどのエンジニアが、パブリッククラウドを活用すべきだと思い始めています。そう考えていない人もいますが、やはり少ないですね。

――エンジニアであればインフラまで含めて対応できるべきという意識が、エンジニアの皆さんにあったということでしょうか。
写真2 小林智則氏
写真2 小林智則氏

小林氏:インフラまで対応したいというよりも、自分が関わっているサービスにおいて、Webサーバのチューニングぐらいでいちいち誰かに頼むのではなく、自分で修正したいといった意識がすごく強くなっているのかなと感じています。

山崎氏:たとえばアプリケーションとインフラといった形で分業制になると、部門間の調整が発生し、どうしてもリードタイムが生まれてしまいます。するとスケジュール上のバッファを摘むことになり、結果として開発スケジュールは延びてしまいます。それなら自分たちで対応したほうが速いですし、要求を理解している人が直接対応するほうが安全で正確でしょう。そういった意識はありますね。

オンプレミスからパブリッククラウド移行における課題

――これまで運用してきて、AWSに満足している部分、また逆に課題を感じている部分としては、どういったことが挙げられますか。

山崎氏:従来のオンプレミスのインフラは最大のピークに合わせてサーバリソースを用意するため、平時は10%程度しか使われていないといったことが少なくありません。これに対してAWSにはオートスケーリングなどのしくみがあり、リソースを最適化できます。これは大きなメリットです。

一方、今後解決する必要があると感じている課題は、ストレージのパフォーマンスです。リクルートライフスタイルでは、クラスタ構成を実現するためのしくみであるOracle Real Application Clustersでオラクルデータベースを利用しているほか、大量のメモリを搭載したストレージサーバに表領域を置くなど、パフォーマンスを重視した環境になっています。AWSのS3やRDSではこのパフォーマンスを再現できず、大きな性能劣化が生じてしまいます。マイグレーションにおいては、この問題を解消する必要があります。

小林氏:システムをAWSに合わせれば規模に関わらずサービスを展開できますが、たとえばオンプレミスで頑張ってチューニングしたシステムをそのままAWSに移行しても想定したように動かないし、それだけ巨大なインスタンスも提供されていません。現在はこうした課題を1つずつ潰していくフェーズですね。

合言葉は「許可を求めるな、謝罪せよ」

――リクルートライフスタイルでは今後も活発にサービスを展開するためにエンジニアを積極的に募集しているとのことですが、どういった人が求められているのでしょうか。

山崎氏:エンジニアは技術的好奇心が強い人が多く、ビジネス的な価値などとは遠いところにいる人が少なくありません。でも、僕はそれでいいと思っています。技術がどれだけの金銭的価値を生み出すのかといった話をするつもりはまったくなく、できればエンジニアとして技術の本質を理解し、良いものを生み出していける人と一緒に働けるとうれしいですね。

実はリクルートライフスタイルには、⁠許可を求めるな、謝罪せよ」というキーワードがあります。それぞれの担当者が当事者意識を持ち、わざわざ許可を求めなくても新しいことに積極的にチャレンジすべきだという意味です。仮にそれで失敗しても謝罪すれば良い。会社として大きな成功を目指していく中では、個々人が挑戦しなければなりません。そういった部分に共感できる人であれば、リクルートライフスタイルで活躍できるのではないでしょうか。

小林氏:挑戦ができる人、そしてきちんとユーザに向き合える人ですね。提供したサービスを継続的に改善していくことを考えたとき、エンジニアとして新しいものを作りたいという興味と、ユーザからのフィードバックの双方がガソリンになると思うんです。リクルートライフスタイルのエンジニアには、そのバランスも求められていると感じています。

――本日はありがとうございました。

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