テストリーダへの足がかり,最初の一歩

第8回 テスト実装(中編)

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状況を立て直す

黙って聞いていた大塚先輩が口を開きました。

大塚先輩:
中山君,どうやらいったんここは状況を立て直すことが必要だね。
中山君:
建て直し…ですか?
大塚先輩:
現在のメンバである小川君と千秋ちゃんは中山君の方針が見えないから,いったいどのように動けばいいかわからくなっているだろう。
千秋:
たいした指示もなく,今までのことはひとまず忘れろって言われても,どうしたらいいかわからなくなっちゃうわ。
小川君:
差し出がましくて申し訳ないのですが,中山さんが今後の作業をチームとしてどのように行っていきたいのか,そしてどのようなことを私達に望んでいるのかが見えないので,判断に困ることがあります。
大塚先輩:
ということだ。ここは,メンバの声を聞いてみて,チームの形を共有してみたらどうだい?
中山君:
そうか,僕は常に言いっぱなしで,背景や意図といったものについては説明していませんでした。
中山君:
皆さん,ごめんなさい。この際細かいことでもいいので,疑問があれば言ってください。

メンバの生の声を聞く

メンバが増えてきたり,作業が忙しくなってくると,どうしてもメンバとのコミュニケーションがおろそかになってきがちです。ですが,コミュニケーションが希薄になると,プロジェクトにおけるさまざまな情報の伝達が行われなくなってしまいます。実作業のこともあれば,プロジェクトの問題点,改善につながる情報,メンバの体調やメンタルの状況などさまざまです。情報が流れないということは何か大きな問題が発生した場合のエスカレーションも行われなくなるということです。

こうなると,ある日突然問題が顕在化して,いわゆる「炎上」状態となりかねません。日ごろからメンバの声を聞くことはリーダとして必要な仕事です。常にメンバのことを気にかけたり,ときに懇親会を開くなどして生の声を聞く努力を怠らないようにしましょう。

プロジェクトの方向性を伝える

プロジェクトの進む方向性を伝えることは,リーダの仕事の中でとても大切なことです。⁠プロジェクトの方向性は,テスト計画に書いてあるのでそれを読めば分かる」と言ってメンバに説明しないリーダもいます。しかし,それは間違った姿勢です。自らの言葉で説明し,メンバが誤解しているようであれば,即座に正すようにすべきです。

このような状況を立て直さなければならない事態に陥った場合は,プロジェクトが何に向かって進んでいるのかを説明しなければなりません。ただでさえ蛇行しているのですから,プロジェクトに軸を作らなければ,立ち直らないからです。

プロジェクトの目的やゴールを再確認する

個人ごとの作業が増えてくると,どうしてもその個人レベルでの視点で物事を見がちになり,ひとつの作業を終わらせることが目的やゴールと錯覚してしまいます。そこで,今一度本来のプロジェクトの目的やGoalはなんであるかを確認し,各自の作業の位置づけを確認してもらいます。これにより,プロジェクトの中で自分がどの役割と責を担っているのかが明確になり,作業がブレなくなります。

また,目的を共有することで皆の意識の方向を同じ方向に向き,プロジェクトの目的に向かって全員が一丸となることができます。⁠われわれは今回何をするのか」⁠なんのためにするのか」などを常に意識する文化の醸成もリーダの仕事かもしれません。

今一度指揮系統を確認する

プロジェクトが混乱しているとき,多くの場合指揮系統や報告ルートも混乱しています。誰から指示を受けて誰に報告すればよいのかわからないのであれば,責任の所在が不明確になったり,報告が適切に行われなくなってしまい,さらなる混乱を招きます。

千秋ちゃんはこのあたりの説明をされていないため,大塚先輩を事実上のリーダとして理解し,中山君をリーダとして意識していません。つまり,千秋ちゃんの報告は中山君ではなく大塚先輩にされることになり,本来その報告を受けるべき中山君はその内容を知らないままになってしまいます。

体制図はこれを防ぐためのひとつの策です。単なるメンバ構成図ではないことを意識しておかねばなりませんし,リーダとしては指揮系統や報告ルートをメンバに対し徹底しなければなりません。

膠着したら仕切りなおそう

大塚先輩:
話し始めるといろいろと問題点が出てくるね。どうだい,中山君?
中山君:
えぇ,いかに自分がリーダの仕事をしていなかったか痛感してます。
大塚先輩:
そこでだ。いったんここで仕切りなおしてみたらどうだい。
小川君:
そうですね,私もそう思います。これだけ話が盛り上がってくると際限がなくなってきて,愚痴レベルの話も出てきますし,雑談になってもいけませんから。
千秋:
そうね,一度クールダウンしたいわね。随分長いことしゃべっちゃったし,もう疲れちゃった。
中山君:
実は僕も頭がパンパンです…。
大塚先輩:
じゃぁ,そうしよう。休憩だ。

会議は長いと能率が低下する

大塚先輩はメンバに疲労の色が見え始め,膠着し始めたのを察知して,会議の仕切り直しを提案しました。だらだらと会議していても意味がありません。むしろ少し時間を置いて,各自の頭の中が整理できた段階で再開したほうがよほど能率があがります。中山君は自分の頭がパンパンであることもあり,一度仕切りなおすことにしました。

3時間後,メンバは再度会議室に集合し,冷静になった頭でチームの状態やプロジェクトについての情報を整理・確認して意識をあわせることができました。そして,その場で小川君から作業レベルでの問題点や疑問も共有しておこうという提案があり,トレーニングの件もあるのでまずは千秋ちゃんの作ったテストケースを見ていくこととすることになりました。

さてさて,どうなることでしょう。

[後編(第9回)に続く…]

著者プロフィール

鈴木三紀夫(すずき みきお)

1992年,(株)東洋情報システム(現TIS(株))に入社。複数のエンタープライズ系システムの開発に携わり,現在は社内のソフトウェアテストに関するコンサルタントとして活動中。ASTER理事,JaSST実行委員,JSTQB技術委員,SQiPステアリング委員 他。

著書


池田暁(いけだ あきら)

2002年日立通信システム(現日立情報通信エンジニアリング)に入社。設計,ソフトウェア品質保証業務を経て,現在は開発に関する設計/テストツールの導入や,プロセス改善に関する業務に従事。ASTER理事,JaSST実行委員,品質管理学会・ACM正会員。

著書

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