お知らせ

・運営関係

電子出版サイト開設にあたり② プラットフォーマーが築く電子出版市場

皆さん,こんにちは。技術評論社の馮です。

前回は,日本における2010年の電子出版動向を振り返ってみました。今回はその延長線として,市場はどうなっていたのか?またユーザの反応はどうだったのか?そのあたりについて見てみます。

ガラケー文化

日本における電子出版ビジネスというのは,2002年頃から注目を集めています。それでも,市場規模としてはそれほど大きくなく,過去何度も「今年は電子出版元年!」と言われ,元年のママ終わることがありました。

しかし,あるジャンルに関しては順調に成長し,今では一大市場にまで成長しています。それが,携帯電話コンテンツ,いわゆるガラケー向けのコンテンツです。インターネットメディア総合研究所が発表したデータ(2010年7月)によれば,2009年度の電子書籍市場規模は574億円と推計され,そのうちコミックを中心としたケータイ向け電子書籍市場が513億円と,全体の89%を占めています。

このように,日本における電子出版ビジネスというのは,ガラケーを中心に形成されてきています。

iPhoneの台頭

2008年以降その様相が変わってきました。iPhoneの登場です。2008年にiPhone 3Gが登場したのを皮切りに,2009年6月にiPhone 3GSが登場してから,日本でも一気にスマートフォンのシェアが拡大し始めました。MM総研の調査によれば,2009年度通期のスマートフォン出荷台数は234万台,うち79%がiOSと,iPhoneのシェアが非常に大きくなっています。ちなみに,2008年度の出荷台数は110万台ですから,2008→2009と,非常に伸びていることがわかります。

この数値からもわかるとおり,日本のスマートフォン市場の形成の裏にはiPhoneの台頭が大きく関わっているのです。

iPhoneの台頭は,スマートフォンを普及させたことに加えて,「App Store」というプラットフォームでの新しいビジネス市場の誕生にもつながりました。これは,ガラケーのキャリア課金と同じように,ユーザはAppleを通じてコンテンツ・ソフトウェアを購入する形を取ります。

この,ユーザの購入アクションが一元化されている点は,iPhoneのビジネス戦略が成功した最大要因と言えるでしょう。ユーザにとっては,iPhoneを通じて,手軽に自分の欲しいコンテンツが買える環境が整備されているわけです。

ただし,一方で,一元化に起因する課題もいくつか見えてきています。その部分については今後のエントリで紹介します。

2010年に入りAndroid OS端末が躍進

さて,2010年に入ると,ここ日本でもGoogleのAndroid OSを搭載したスマートフォンや電子書籍に特化した専用端末が続々と登場しています。

Android OS搭載端末については,NTTドコモ,ソフトバンクモバイル,auとすべてのキャリアから発売されています。とくにauは,「Android au」というキャッチコピーによる大規模な販売戦略を行うなど,ユーザ獲得に力を入れています。

電子書籍に特化した端末も発売され始める

専用端末に関して言えば,SHARPのGALAPAGOSシリーズや,SONY READER,biblio Leafなど,日本のハードウェアメーカがこぞって日本展開を始めています。

特徴的なのは,対応フォーマットは同じでもデバイスごとに用意されているストアが異なる点で,このあたりは日本の「ガラパゴス」の悪い側面を踏襲してしまっているとも言えるでしょう。

プラットフォーマーに権力が集中

電子出版ビジネスに関して言えば,どのデバイス,どのコンテンツとも,現在はAppleやAndroidマーケット,各キャリアなど,いわゆるプラットフォーマー(課金と配信を管理する事業者)が最大権限を握っている状況です。言い換えると,コンテンツを作る側からユーザの間にいるプレイヤーの存在感が大きいことでもあり,これは,元々あったガラケー文化から引き継がれている点と,日本の出版ビジネスという特殊な流通事情が関係していると言えます。

プラットフォーマーが強くなることは,良い面(例:コンテンツの一元管理)もあれば,悪い面(例:ユーザの利便性低下)もありますが,僕が今危惧しているのは,ユーザとコンテンツを置き去りにした状態でプラットフォーマーの展開だけが先走りしてしまうと,ユーザにとってもコンテンツ制作者にとっても好ましい状況になりづらいという点です。

当然ながら,自由競争の市場を醸成するためには複数の競い合いが必要でありますが,さらなる電子出版市場の拡大に向けて,この分散したプラットフォームから,集約あるいは共有といった考え方が必要になると思っています。そのために,コンテンツを作る側がもっと意識的に,積極的に展開する必要があると考えます。

2010年は電子出版「元年」だったのか?

非常に駆け足でしたが,プラットフォーマーにフォーカスを当て,電子出版について思うことを書いてみました。

1つ言えるのは,2010年は(何度目かの)電子出版「元年」だったこと,そして,これまでの元年と異なるのは,2年目に当たる今年,2011年に入り,まだまだ市場が動いていて,各プレイヤーが積極的に取り組んでいる点です。

またこれからは,AppleのiBooks,Amazon,Google eBookstoreなどの,電子出版界の黒船が来日するのではないかと言われています。

この状況において,僕たちコンテンツプロバイダーがどうしていくべきか,その答えを皆さんに提供できるよう取り組んでいます。近々リリースの,技術評論社の電子出版サービスにご期待ください。

お知らせ一覧