ゼロからはじめるPSP ─Personal Software Process

第3章 記録による改善 ~ アスケイドにおける事例の紹介

2008年8月15日

この記事を読むのに必要な時間:およそ 3 分

記録することによる効果

通販番組で言うところの「体験に基づく感想」であって,必ずしもその効果を保証するものではありませんが,昨今流行の「レコーディング○○○」よろしく,⁠記録すること」そのものによる私自身が体験した効果を紹介したいと思います。

作業密度の向上

記録を始めるにあたり,ツールの使い勝手の問題もあって,先述したように所要時間の記録精度は15分単位に妥協しました。しかし,どうやらその際に私の中で:

記録精度が低いなら,実体を記録に合わせよう

という(幾分本末転倒な)心理的トレードが発生していたらしく,以前であれば作業を中断していた状況でも,時間枠一杯まで何分か残っている場合には,⁠もう少し頑張ろう」と作業を継続するようになりました。

そのため,記録を始めた当初は急激に作業密度が濃くなってヘトヘトだったのですが,自分で自分の心理的な変化にしばらく気付かなかったことから,ずいぶん首を傾げていたものです。

さすがに最近は当初ほどの密度を維持できてはいませんが,記録していなかった頃に比べれば,それでも隙間時間の利用効率はずいぶん向上しているように思えます。

段取り意識の顕在化

記録を行うことで:

  • 先ほどまでやっていたことは何か?
  • 今やっていることは何か?
  • 次にやることは何か?

といったことに対して,次第に敏感になってきます。

こうなってくると,たとえ気乗りしなくても,しょうがないと思いつつ「今すべき事」を実施するようになってきます。

ライフハックやGTDを扱った書籍等でもたびたび書かれていることですが,このような行動を何度か繰り返すうちに,実は着手して最初の数分を乗り切ってしまえば,乗り気か否かに関わりなく,案外簡単に集中状態に突入できることが体感できます。

気分転換の能動化

ここまでは,どちらかというと「頑張る」方の効果でしたので,ちょっと目先を変えて「休む」方の効果も紹介しましょう。

記録をつける前の私の休憩の取り方は,⁠何となく気が乗らない」とか「ひと段落ついたから」といった理由で始まり,⁠気分が乗ってくるまで」ズルズルと休む,というものでした。

一転して,記録によって自分の作業実績が自覚できるようになると,作業実績に応じて積極的に休憩を取る大義名分ができます。何と言っても「集中力が続くのは~時間まで」とか,⁠~時間に~分は休憩を挟もう」といった情報(しかも偉い人達のお墨付き)世の中に溢れる程あるのですから,休憩することに対する後ろめたさなど,欠片も必要ありません。

「記録内容」を元にした改善

以下,⁠記録内容」を元にした改善の基本的な着目点について説明します。

「予想」「実績」の比較

この手の記録を元にした最も効果的な改善は,⁠予想」「実績」を比較/検討することです。自分が作業に着手する時点で想定していた所要時間内に,作業を終えることができているか? できていないのであれば,どの部分が想定外の時間を消費しているのか? といったことを確認します。想定外の時間を消費している要因がわかれば,その要因を取り除く対処を行ってください。

また,⁠総所要時間」⁠= 何時間で作業を完了したか)だけでなく,⁠総経過時間」⁠= 何時から何時まで作業に要したか)の視点で見てみるのもおもしろいと思います。⁠総所要時間」はそれほど多くない割に,⁠総経過時間」が長い場合,例えば:

●別な作業の割り込みが頻繁に発生する
担当割り当て・環境に問題がある可能性があります。
担当割り当てや実施順序を変更したり,作業場所,時間を工夫することで,作業への集中度向上を図ってみましょう。
●休憩がやたら多い
作業着手に無駄に時間を要するようであれば,苦手意識,モチベーションの低下が考えられます。⁠別な作業」が頻発している場合も,実は無意識に逃避している可能性があります。
まずは,苦手意識/モチベーション低下があることを認めた上で対応策を講じましょう。ストレス対処の手法等が参考になると思われます。

こういった分析は,一種の「自己ハック」⁠self hack)ですから,人によっては「そういった内省的な分析は苦手」という人もいるでしょうが,自己レビュー時の「第三者の目で見る」心得と同じ要領で,突き放して眺めてみるのが肝要です。

また,対策を講じる場合,⁠頑張る」とか「注意する」といった精神論をベースにすると,大概改善されません。この点に関しては, "『⁠⁠失敗をゼロにする」のウソ』"(飯野 謙次 著)などで「失敗学」に触れてみることをお勧めします。

「予想」「実績」の比較は,必ずしも即効性はないかもしれませんが,⁠予想」の精度や作業の効率が徐々に向上していくはずです。

ペース配分の確認

休憩・作業が妥当な精度で記録されている場合,一定以上の作業密度で作業しているなら,1日あたりの総稼動時間は8時間程度が限界です。

もちろん,⁠興が乗ってきた」場合や,スケジュール上「しょうがない」場合であれば,その限りではありませんが,連日十何時間も稼動している状況は明らかに不適当と言えるでしょう。一時的に生産性が上がったとしても,成果物の品質水準の維持や,中~長期的な生産性で見た場合,⁠トータルではかえってマイナス」というのはよくあることです。

●過負荷状態
⇒ リーダーと話し合って状況を改善
●在席時間が長いだけ
⇒ ダラダラと会社に居るのを止めてサッサと帰宅

といった対処が必要です。

ポジションを意識する

もしもあなたがプロジェクトのリーダーである場合,⁠顧客対応(メール授受含む⁠⁠」や「管理業務⁠⁠,場合によっては「環境整備」といった「非開発」(Unified Processで言うところの「補助ワークフロー」系)分類に属する作業が,総稼動において最も多くの時間を占めているはずです。

もちろん,リーダー自ら実装をしないと間に合わない状況(体制)であったり,後進の教育的見地から「顧客対応」「環境整備」をやらせたりするような状況もあるかもしれません。しかし,基本的にリーダーの役割は:

メンバーに効率良く作業をやってもらってナンボ

と言えます。早い話が使いっ走りですから,メンバーの「開発」系作業を阻害する要因の除去や,効率アップに貢献する「非開発」系作業は,積極的にリーダーが引き受けましょう。

その一方で,プロジェクト規模が小さくても,⁠非開発」系作業は意外と時間を要するものですから,リーダーが抱え込んでしまっている「開発」系作業は,可能な限りメンバーにやってもらいましょう(当然,度を越した割り当てはメンバーの信頼を失いますが…⁠⁠。

また,もしもあなたがプロジェクトのメンバーで,かつ「開発」系作業を主業務とするポジションであるにも関わらず,⁠非開発」系の作業に忙殺されているようなら,リーダーに相談することをお勧めします。

著者プロフィール

藤原克則(ふじわらかつのり)

Mercurial三昧の日々が嵩じて, いつの間にやら『入門Mercurial Linux/Windows対応』を上梓。凝り性なのが災いして,年がら年中アップアップな一介の実装屋。最近は仕事の縁が元で,OpenSolarisに入れ込む毎日。

ピックアップ

「LINE DEVELOPER DAY 2019」レポート

LINE(株)は11月20日・21日に技術カンファレンス「LINE DEVELOPER DAY 2019」を開催しました。DAY1・DAY2の様子を注目セッションとともにお伝えします。

技術的好奇心を満たせる2日間 ―「LINE DEVELOPER DAY 2019」へ行こう

今年で5回目を迎える技術カンファレンス「LINE DEVELOPER DAY 2019」。LINEのエンジニア3名がイベントに先駆けて見どころを紹介します。

業務を改善する情報共有の仕掛け~DevOpsの実現,RPAの導入に向けて~

ソフトウェア開発の業務改善をテーマに,DevOps実現の手順やそれを助けるツールとの連携,RPAによる社内ドキュメントの管理や効率化について解説します。

大人気動画コミュニティアプリの運用の内幕―MixChannel(ミクチャ)を支える技術

若者世代から圧倒的な人気を誇るライブ配信&動画投稿コミュニティアプリ「MixChannel」(ミクチャ)の裏側(レコメンドシステムやサーバサイド開発など)について解説していきます。

バックナンバー

No12(2009.04)

今回のSoulHackで主に取りあげるのは,梅田望夫の「ウェブ時代をゆく」という本です。

No11(2009.03)

今回のSoulHackで取りあげるのは,阿部謹也の「世間学への招待」と他1冊の本です。

No10(2009.02)

今回のSoulHackで取りあげるのは,山本七平の「空気の研究」という本です。

No9(2009.01)

今回のSoulHackで取りあげるのは,アーノルド・ミンデルの「紛争の心理学」という本です。

No8(2008.12)

今回のSoulHackで取りあげるのは,河合隼雄氏の「カウンセリングを語る」という本です。

No7(2008.11)

特集:2008年度日本OSS貢献者賞受賞者インタビュー

No6(2008.10)

特集:エンジニアの実践的キャリアアップ思考法

No5(2008.09)

特集:事例でわかる,プロジェクトを失敗させない業務分析のコツ

No4(2008.08)

特集:ゼロからはじめるPSP

No3(2008.07)

特集:今こそ使える! プロトタイピング

No2(2008.06)

特集:「開発スタイル」開発法

No1(2008.05)

特集:エンジニアが身につけたい基本スキル 2008

-->