[自転車イラスト紀行]徒然走稿

第六回「街を走る」

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「東京って思ったより坂が多いよね」

23区内を自転車で走り回ってみた人との会話によく出てくる言葉だ。

確かに東京は坂が多い。とはいえ,いわゆるママチャリではない(アシスト付は別),ロードやマウンテンタイプにかかれば,整備された都内の坂くらいはどうということはない。難所で有名だったという九段坂にも,その面影を見ることが出来ない。

都内を走るときの大敵は坂ではなく,段差とバス,そしてタクシー。

『段差』

ロードで車道を走っている,車は渋滞気味。

路肩に駐車している車(これも困りもの)を避けるため,右側にふくらむ。相図の手信号を送っているのに,さっき抜いてきた車がクラクションを鳴らす。「前に車が詰まっているんだぞ,どうやって先行しようっていうんだ」一瞥をくれてさっさと先に進む,と,「自転車は歩道を走りなさい!」大音響でパトカーが騒ぎ出した。

冗談じゃあない,そんなに広い歩道じゃあないんだ,おばさん達は横に広がって壁が歩いているし,親子連れも,車いすの人だっている。

第一,走っているところは軽車両のレーンなんだ,そんな大声はレーンをふさいでいる車に向けてくれ。

どうせこっちの方が速い,声を置き去りにして先を急ぐ。前方の交差点に,制服を着た,声の仲間が飛び出してきて両手を広げる(危ないなあ)。「どうして言うことをきかないんだ」,こうなると彼らには言葉は通用しない,仕方なく歩道へ。

歩道,といいながら,道のつくりは自動車優先。車の出入りのために数mごとに設けられた段差でガタガタだ。高圧の細いタイヤをつけたホイールで※1段差のショックをひろいながら考える,「あの人達は,専用レーンを車よりも速いスピードで走っていたのが目に入らなかったのだろうか。近所のお買い物ならともかく,離れた目的地に向かって,本来の性能で走っている自転車は歩道を走ってはいけない,歩道は自転車の走るところじゃあない。」

ガタンガタン,と,歩道がなじる。しゃくにさわるけど耐えられなくなって,脇道へとそれた。

『バス』

停留所の少し手前,青信号でヨーイ,ドン,になってしまったバスが「本当に都の基準を守っているのか」疑りたくなるような黒煙を上げて,追い抜いていく。追い抜いたと思ったら,目の前で止まる,昇降が始まる。右を抜けるチャンスを逸して,排気ガスを浴びながら待つ。

もう何度目のイタチごっこ。お互いに意地になっている……のかな。

この待ちがなければ,とっくにおさらばしているんだけど。

「よし,こんどこそ本気でお別れしよう」

意を決して,バスと同時に走り出す。「ありがたい」少し先の信号が赤にかわった。車は詰まってきている,バスの速度がゆるむ。ペダルに力をかけて左から抜きにかかる。

「え」 バスがスルスルと左ににじりよってくる。停留所はさっき越えたばかり,ウィンカーもつかない,抜かさせないつもりなのだろう,が,こっちはもう車体の影に入ってしまっているのだよ。

「おいおいおい」 まさに肩をこするようにしてすり抜ける。すり抜けざまに運転手の顔をにらみつける,向こうも見ている。

やっぱり意地の張り合いになっていたんだな。

『タクシー』

バスは停留所があるから,まだ動きの予想はしやすい(幅寄せは論外だけど)。しかし,タクシーはそうはいかない。

確かに,タクシーはどこで客を拾って,どこに降ろすかはしだい。どこにでも停まるから意味がある。

でもね,前を走っている自転車を加速して追い抜いて,いきなり──目の前で──路肩に寄るのは止めて欲しい。そのまま普通に減速すれば,自転車はあっという間に先に行ってしまうのだから。

タクシーに限らず,車に乗っている人は,自転車のスピードは(たとえママチャリでも),考えているよりもずっと速い,ということを覚えておいて欲しい。

軽車両なのに,歩道に追いやられ,本来の運動性能を発揮できないどころか,押して歩く羽目におちいり,歩道でも邪魔にされてしまう,なんてこともあるけれど,自転車乗りの側も,十分な注意と優しさ(と,細かい道まではっきりのっている地図)を持って走れば,都会を移動する手段として,自転車を使うことほど快適なことはない。

普段利用している地下鉄が,いかに大回りで走っていたのかを実感できるし,数km,いや数百mごとに,見所満載。とても楽しいものです。

著者プロフィール

杠聡(ゆずりはさとし)

イラストレーター,ライター。東京都日野市在住。技術評論社刊の単行本カバーなど広告,出版でのお仕事をベースに,自転車旅行で出会った風景や人を題材にした作品づくりを続けています。

URLhttp://www.yuzuriha.com

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