[自転車イラスト紀行]徒然走稿

第二十一回「無料キャンプ場」

この記事を読むのに必要な時間:およそ 4 分

画像

この夏,久しぶりにキャンプをすることが出来た。

子どもが学校に通っているときは毎年欠かさず一週間から二週間くらい,野外宿泊を楽しんでいた。

宿で泊まるのが嫌いなわけではないが,まずチェックイン,チェックアウトが面倒くさい。

1日部屋を専有するために料金を払っているのに,なんで3時まで入れてもらえなくて,翌日は10時に追い出されなくてはいけないのか。見栄えと量ばかりの料理にもうんざりする。何よりも宿代が高くて,家族で一週間も滞在したら1月分の稼ぎが軽くふっとんでいってしまう。

その点,キャンプ場はいい……と,いう話の流れにしたいところだけれど,実のところ最近のキャンプ場ときたら旅館や民宿よりもたちが悪いところが多い。

なんとチェックイン,チェックアウトの時間が決まっている。門限があって,夜になるとゲートを閉めてしまい車が入れなくなるところもある。1家族に駐車場1台分のスペースをあてがって,テント1張り三千円,利用料大人1人二千円,子ども千円,日帰りなら半額,ゴミはすべて持ち帰ってください。花火禁止,ペット禁止,たき火禁止うんぬん……自然の中にお邪魔するのだからルールは大事だけど,これではキャンプではなく,お小言教師つきの移動教室みたくなってしまう。

自分たちで考え,自分で行動を制限することが大事なのだ。

あれれ,なんだか説教くさくなってしまった。

一週間から二週間もの滞在となると,先ほどのような料金体制では予算的に無理だ。

かくしてわが家のキャンプ計画は,無料キャンプ場,を探すところから始まる。

無料……なんというすばらしい響きだろう。

昔から言いますね,ただより安いものはない。

そう,昔から言いますね,ただより高いものはない。

無料キャンプ場に関しては,この格言のどちらも正しい。

ただなのだから,家族で何日滞在してもお金がかからない。

基本的に一つの場所に居を構えているから,二,三日すると,なにやらキャンプ場に住み着いているやつがいるぞ,と町の噂になって,いきつけのお店もできたりして,地元の人と仲良くなって,作物のお裾分けがあったりする。

なによりも人がこない。人がいないから,子どもがころげまわっていても犬が走り回っていてもどこからも苦情がこない。あたりに人家もないから夜中まで騒いでいようと,フクロウが迷惑そうに鳴くくらいだ。

なぜ人がいないのか?

キャンプ場が辿りつくのに困難な場所にあることが多い。大抵,集落を数キロ離れた山のてっぺんや,森の奥にあったりする。脇が深い溝の道路は道幅も狭く街灯も無い。案内看板もとうに朽ちていて判別できない。初めての場所なら夜に到着するスケジュールは避けた方がいい。

無事辿りついても,キャンプサイトの手入れがされていないので,地面がグズグズだったり,道だと思って入り込んだら大きな切り株があって車の前部を思いっきり乗り上げたりする。

トイレはまずぽっとんである。手入れもされていない。トイレ掃除の道具を持参することをお奨めする。

この夏,訪れたサイトはトイレ掃除はゆきとどいていたけど,電気がつかない。昼間でも扉締めて大の用をたす気になれなかった。

おまけに天井を見上げたら,私の大嫌いなカマドウマ(便所コオロギというやつですね)が数百匹,びっしりと群れをなしていた。

トイレがあるだけいい。トイレが朽ち果て,床が抜けそうで恐ろしくて入ることの出来ないところもあった。

水場が無い。新潟のとある山のてっぺんにあったキャンプ場は水場がなかった。いや,無いというわけではない。水場と称する場所には手押しポンプの井戸があり,「飲用できません」と大書きしてあった。

人はいないけど,野生動物は多い。

福島の山奥では,夜になると猿がやってきて,テントの上に飛び降りてきた。

伊豆では野犬の群れに食料を全部たいらげられたし,今回は夜,テントの脇の森の中で,何か大きな動物が木から落ちる音がした。

キャンプ場の入り口には「クマ出没中」との看板が出ている。

なんだ,人を脅かすような事ばかり書いて,無料キャンプ場に来るな,とでも言いたげではないか,とのお叱りを受けるかもしれない。

そうなんです。無料キャンプ場は素敵です。素敵なんだけど,人がたくさんいると台無しだから,来ないでほしいのです。

著者プロフィール

杠聡(ゆずりはさとし)

イラストレーター,ライター。東京都日野市在住。技術評論社刊の単行本カバーなど広告,出版でのお仕事をベースに,自転車旅行で出会った風景や人を題材にした作品づくりを続けています。

URLhttp://www.yuzuriha.com

コメント

コメントの記入