[自転車イラスト紀行]徒然走稿

第二十六回「鍾乳洞」

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子供の頃、夏になると毎年のように広島県にある帝釈峡に行っていた。

今はすぐ近くを高速道路が通っている。数年前、中国道を走っていて『帝釈峡パーキングエリア』をみつけびっくりした、パーキングエリアと帝釈という言葉が頭の中でまったく結びつかなかった。

あの頃の帝釈は、東京から岡山に出て、岡山で新見線に乗り換え、新見で芸備線に乗り換え、えっちらおっちら山の中をはい上るように走っていって、東城駅で降り、親戚の車に乗り換え、やっと辿りつく場所であった。その昔は車も通ることが出来ずに牛の背にゆられていったそうである。

叔父に「一度原爆ドームを見てみたい」とせがんだら、⁠広島市街に出るよりも東京に帰った方が早い」と言われた。それくらい都会から隔絶されていたのである。

が、帝釈峡は昔から有名な観光地でもあった。

父の生家があった上帝釈から神龍湖まで、帝釈川に沿って遊歩道が整備されていた。自然の浸食によって出来た天然橋・雄橋をはじめとした奇岩があちこちに顔を出し、その間から滝の流れ落ちる渓谷美を楽しむことの出来る、今でも人気のスポットである。

子供の頃は、⁠渓谷美」などというものはどうでもよく、帝釈川で泳いだり、遊歩道を行き来している観光馬車に乗せてもらうことの方が楽しくて仕方なかった。馬車がくぐれるほど大きな雄橋(おんばし、と読むのです。雌橋_めんばし、もありました)も、一度見てしまえばもうそれでおしまいで、わざわざ行ったりはしなかったのだけれど、遊歩道のとっつきにある白雲洞には何度も足を運んだ。

帝釈峡にはたくさんの鍾乳洞がある。その中で一般に公開されているのは白雲洞だけだった。ひんやりとした空気をくぐって洞窟の中に入ると、そこには別世界が広がっていた。

様々な形の鍾乳石がオレンジ色の電球に照らされて、いやが上にも妖しげだった。石のつららのような形の鍾乳石が天井が垂れ下がり、うねうねと落ちてくる滝のような形の鍾乳石が壁を埋めていた。地面からにょきにょきと生えている石筍。石筍と鍾乳石がくっついて出来た石柱。まさに地下に作られた魔宮そのものだった。

一見、時から忘れられたように見える鍾乳石たちが、今でもゆっくりと成長し、流れ落ちていることを知ったときは本当にびっくりした。

僕の鍾乳洞の記憶は「白雲洞」にはじまる。白雲洞が僕の中に植え込んだ洞窟探検の楽しさは鍾乳石よりもずっと早いスピードで成長して、出向いた先でみつけた小さな洞窟にも首を突っ込まずにはいらないほどになっている。

秋芳洞、阿武隈洞、入水鍾乳洞、風穴、氷結、日原鍾乳洞、倉沢鍾乳洞、橋立鍾乳洞、岩屋岩窟……それからえ~とえ~と……名前が出てこないけど、あちこち鍾乳洞にそちこち洞窟に防空壕。

まだまだ行ってみたい「穴」がたくさんある。生き物の本能である体内復帰願望に任せて全国の穴場を巡ってみたい、と思う今日この頃であり明日その頃である。

あきる野鍾乳洞ラン(東京・あきる野市)

地図:旺文社・でか字マップ「東京多摩」JR武蔵五日市駅~十里木交差点~木和田平/蕎麦うどん・木の小屋~養沢鍾乳洞(閉鎖中⁠⁠~養沢神社~大岳鍾乳洞~三ツ合鍾乳洞~JR武蔵五日市駅

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夏はやはり涼しいところに行きたい。

できればその道中も涼しいところを通っていきたい。

涼しい道中といえば、やはり水の近くが良いだろう。

水の近くといえば川沿い、川を辿れば沢になる、沢の先には洞窟がある。

洞窟があればもぐらねばならぬ。

というかなり強引な理屈によって、今回は足下にあるのにまだ訪れていなかった、あきる野の鍾乳洞を巡る旅です。

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スタート設定はJR武蔵五日市駅。

実際には日野から多摩川沿いを自走しています。ですので、前置きを少し。

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多摩川沿いを上流に向けて走るときの最初の休憩ポイントは睦橋手前にある福生南公園。ここは広い原っぱと木陰のある絶好の休憩ポイントなのだけど、しっかりとしたアスレチックも完備されていて、ともすると休憩なんだか疲れに来たんだかわからなくなるポイントでもあるのです。

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睦橋で多摩川を渡ります。小川交差点にある熊野神社で恒例(らしい)の骨董市をやっていました。掛け軸から箱火鉢、日本刀やモデルガンまで売っている本格的な骨董市ですが、どの出店の人も気軽に相手をしてくれました。気の利いたグラスをみつけ、買って帰ろうと思っていたのに「一回りしてから」の間に売れてしまっていたのは残念。

スタートの武蔵五日市駅に着きました。

武蔵五日市駅前の元はコンビニだった店舗はレンタサイクル屋になっていました。電動サイクルも扱っているので、坂だらけの周辺散策にお奨めです。

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駅前を過ぎ、秋川沿いを3kmほどいくと十里木の交差点です。どでかい「新発見・三ツ合鍾乳洞」も看板が出ていますから矢印に従って右折します。この後も「新発見!」という文言にやたらと出会うのですが新発見されたのは昭和50年代です。

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十里木から下りきった落合橋から川遊びを楽しむ人が見えました。と~っても暑い日だったのでうらやましい限りです。

街道沿いには素敵な家屋が軒を連ねているので、上り坂ばかりにらみつけていないで周りを見ながら走りましょう。胸を反らせば気道も開いて呼吸が楽になります。

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ゆるゆると斜度を増してゆく坂をじわじわ上っていきます。気温が高いだけに沢から吹いてくる風がひときわ気持ちよく感じます。

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木和田平に土日しかやっていない、しかも11時から品切れまでで営業お終いの「蕎麦うどん処・木の小屋」があります。

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店の脇に自転車を停めようと思ったら、店主が出てきて「庭に停めることが出来るからそのまま入っておいで」と声をかけてくれました。

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店の裏には養沢川が流れていてきれいな水で顔を洗うことが出来ます。川の中に「ここから子供プール」という看板が出ていました。どうして「ここから」なのかわからないのですが、水がきれいなことは確かなようです。

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木の小屋のデッキです。ここで食事を頂きました。自転車はカメラマンの後ろあたりに停めてあります。

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お品書きを眺めている間に、お芋の煮っころがしと蕗の炊いたの、塩らっきょうが出てきました。結構なボリュームです。美味しい麦茶を大きなポットごと出してくれたのは嬉しい限り。ポット2つ分を飲みきってしまいました。

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つづいてキュウリと自家製辛味噌。この辛味噌が美味しくてお土産に買って帰りました(350円⁠⁠。冷や奴につけても茄子と炒めてもよく重宝しています。

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そうこうしているうちに本命のお蕎麦登場。汁がピリッとしてまさに関東のお蕎麦(650円⁠⁠、という感じ。この他に天ぷらの盛り合わせ(500円⁠⁠、お奨めの辛みうどんを平らげました。

かなり満腹になり、そうとうゆっくりしてから出発。

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木の小屋から上ること2km。本日ひとつめの鍾乳洞・養沢鍾乳洞です。この看板の後ろに自転車を置いて……

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石段の続く急な山道をえっちらおっちら500mほど登り詰めていくと、木の間から白い建物が見えてきます。

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ここが養沢鍾乳洞を管理している山小屋です。草に覆われています。

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そう、養沢鍾乳洞はとっくの昔に閉鎖されているのです。でも、来てみたくて登ってきたというわけ。同行者にはぶーぶーと文句を言われました。

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小屋の中にはヘルメットとロウソク(左手の机の上)が残されています。養沢鍾乳洞には照明が無く、ここでヘルメットとロウソクを借りて洞内にはいることになっていました。洞内には鎖場やハシゴの箇所があり、小さい子やお年寄りは止められることがあったそうです。閉鎖残念!望む再開!!

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養沢川沿いに戻り、上ってきた道を戻ります。大岳鍾乳洞へは大岳沢沿いの道を右折するのですが、その手前に養沢神社があります。ここは水神をお祀りしているようで、狛犬ではなく阿吽の龍神が神社を守っていました。鍾乳洞は水神をお祀りしていることが多いのです。

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神社横の橋を渡って沢沿いの道を大岳鍾乳洞へと向かいます。

勾配はきついけど、すぐ横を大岳沢が流れ、暑さも忘れる気分の良い道です。途中から道がダートになりました。

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気分の良い、などといっていたら目の前にどーんと砂利(石灰岩かな)の採掘場が現れました。左にいる巨大なショベルカーは私たちの通過するのを待ってくれています。ダッシュで右手の鉄骨で組んであるトンネルへ。

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トンネルを抜けるとすぐ大岳鍾乳洞です。奥に見える売店で料金を払ってヘルメットを借ります。ヘルメットが結構臭うのでかぶるのを躊躇してしまいますが、しっかりかぶらないと後悔します。

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鍾乳洞の入口です。洞内から冷気が霧になって漂ってきました。一人ではいるのは勇気がいります。

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これが洞窟の中。ごらんのように狭い箇所がいっぱいあります。天井からギザギザの岩がボコボコと飛び出している間をくぐっていくのです。ヘルメットがボコボコぶつかります。どおりでヘルメットが傷だらけなわけです。被ってなければ頭がボコボコになっているところです。

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再び養沢川沿いに戻って、すぐに三ツ合鍾乳洞への道を右折します。ひたすら「新発見」を売りにしている鍾乳洞です。

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新発見への道は、近くともきびしい。かなりの斜度で押しが入りました。

新発見だけあって、とてもきれいな入口です。道内も広くヘルメットも必要ありません。見事な鍾乳石もあるにはあるのですが、目の細かい緑色の網に囲まれていてなんだかよくわかりません。いたずらを防ぐ気持ちはわかるけど、見る側の立場になって考えてほしいものです。あっという間に出口でした。

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これは洞内ではなく、出口横の階段をさらに登り詰めた「奥の院」の鍾乳石です。天井から空が見えています。ここが最初に発見されて下に鍾乳洞があることがわかったそうです。奥の院にはおかしな網はないので。じっくりと鍾乳石を堪能することが出来ました。

三ツ合鍾乳洞は奥の院にいかないと料金分の価値はありません(行っても無いかも…⁠⁠。

さて、竜頭蛇尾の観はありましたが、全体としては非常に楽しいコースでした。養沢鍾乳洞の先には七代の滝、綾広の滝があり、そこまでいけば御岳山頂もすぐです。大岳沢をもう少し遡れば大滝があります。次の機会には滝をポイントにすえて走ってみようと思います(紅葉の時期がいいかな⁠⁠。

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帰路の多摩川土手から、この季節には珍しく富士山をはっきりと望むことが出来ました。

あきる野市観光協会
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