秩父札所巡りで出会う建築物は実に多彩だ。
多彩だ,といっても日本建築についてなんの知識も持っていないのだから,神社仏閣の建築物となると「なんか形が違う」という程度にしか区別がつかない。
しかしこの「なんか違う形」がどうも気になる。
その意味するところを知りたくなった。
気にしていたらタイムリーなことに購読している大人向け情報誌で「日本の建築」の特集をやっていた(※1)。
とても入り込みやすく編集してあったので,頭の中で秩父札所の建築物と記事の内容がシンクロした。
もう少し詳しく知りたくなり,市立図書館へ行っていくつか入門書的なものを借りてくる。私の町の図書館は上限30冊まで借りることが出来る上,一応レファレンスサービスをやっているのでこういう時は便利なのである。
- 『雑学3分間ビジュアル図解シリーズ 神社・寺院・茶室・民家 違いがわかる!日本の建築』(宮本健次:著 PHP刊 1300円 2010/09)
タイトル通りのじつにわかりやすく,即席の知識が欲しい人間にはもってこいの一冊。いわゆるHowTo本の作りなので紙もしっかりしたものを使っているから携帯するのにちょうどいい。だけど"図解"というわりには絵があまりにお粗末。見開きで一項目を解説しているため見やすいが内容は浅い。
同じ著者の『図説 日本建築のみかた』(学芸出版社刊 2520円 2001/03)は,実際の建物を使って解説をしてくれておりわかりやすい。建物のガイドブックにもなるからツーリングのお立ち寄り場所を決めるのにも役に立つ。イラストも緻密で好感が持てる。
が,携行するにはちょっと重い。
さらに足を踏み入れるならビジュアル本ではないけれど,『天下無双の建築学入門』(藤森 照信:著 筑摩書房刊 2001/09 777円)が建築の各部位(土台,床,天井など)をエッセイ風にとりあげて解説してくれていて初心者にもとっつきやすい。
さらにさらに奥深く……は,入っていきません。
秩父札所の建築物の上っ面だけを楽しむならこれだけで十分。
実際に持っていくなら『雑学3分間~』でしょうね。現地で必要になると思われる部分にあらかじめ付箋を噛ましておくと便利だ。
かくして,にわかマニアになる。
北海道の離島,利尻・礼文に行った時はそのときのメンバー全員が"にわか植物マニア"になった。
これは我々のグループに限ったことではない,これらの島を訪れた人はほぼ例外なくにわかマニアになってしまうのだ。
その原因はこの島独特の植性にある。
なんせ北にある島なので,本州では2000m級の山に登らないとお目にかかることの出来ない高山植物が海岸線にポンポンはえているからだ。
その代表格はレブンウスユキソウ(エーデルワイスのお仲間)とレブンアツモリソウだ……ったかな?
本棚を探って……ありました。
『礼文 花の島・花の道』(宮本誠一郎,杣田美野里:著 北海道新聞社刊1995/05)ご当地で手に入れた植物図鑑。
によると,それで間違いないようです。
それにしてもこんなにいろんな花があったのだね,すっかり忘れていました。
そう,このあたりが"にわか植物マニア"の"にわか"たるゆえんなのです。
現地で図鑑片手に,花を求めてあちらへこちらへ,バシャバシャとシャッターを切り,スケッチまでしてしま……っていたのが,島から離れるとどうでしょう,その知識はかけらも残っていない。
いや,当初はかけらくらい残っていたのだろうが,現時点では,先ほどの二種の名前がうる覚えで出てくるくらいで,そのとき撮りまくった花の写真がどこにあるのかすらわからない。
図鑑がすぐに出てきたのだって奇跡に近いと言えるだろう。
懲りることなく,またしても,にわかマニアになる。
詰め込んだ知識をぶらさげて現地に入る。
本当のマニアなら,ひとりうなずき,自身の知識を確認するために携行した図版を繙くのであろう。
にわかマニアはそんなことでは気が済まない。
古びた本堂を,社を見上げて,
- 「この作りはいわゆる神社建築というやつだね」
- 「屋根に反りがなくてひさしが伸びて向拝が設けてあるから仏教伝来以降の様式だね」
- 「屋根の下,あの破風板,破風板ってわかる? そうあそこ,あそこから下がっているのは懸魚といってね,蕪方とか梅鉢紋の形をしたもの,くりぬいた穴がイノシシの目のように見える猪目なんて様々な形があるんだけど,なんのためにああやってあるか知ってる?」
などと,全部本に書いてあることを丸暗記しているならまだしも,付箋を頼りにページを繰りながら解説してみせる。
本を見せて「ほらこれ」といってしまえば話は早いのだが,そうはいかない。
ひとりで見て,ひとりで納得していればよさそうなものだが,そうもいかない。
カラオケと一緒で,誰かが聞いてくれるから張り合いがあるのである。
いつのまにやら離れて軒の彫刻を見ている同行者の脇に楚々とよりそい,
「あれは獏かな,一番上は麒麟だと思うよ,こういう彫刻が何故飾られているかというと……」
またしてもさりげなく離れる人を3分間でわかる図録を片手に追いかける。
まるで落語の『寝床』で番頭を追いかけながら義太夫を聴かせる大旦那のようだ(※2)。
そこまで自覚していても,にわかマニアは知識をひけらかしたい。
なぜなら今ひけらかしておかないと,すぐに忘れてしまうからなのである。
- ※1)
- 『サライ 2011年9月号』
- ※2)
- 『寝床』義太夫が殺人的にへたくそな大旦那がお披露目会を催し,周囲に迷惑をかけるという古典落語。落語が初めてという方には古今亭志ん朝の高座がお奨め。

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