漫画から学ぶマネジメント

第5回『ああっ女神さまっ』森里螢一から学ぶ折れない心で成長するスタンス

主人公・森里螢一という人物

森里螢一けいいち猫実ねこみ市の大学に通い、そこの自動車部に所属する大学生。機械いじりとバイクが好きで、背が低いことがちょっとコンプレックスな青年です。ある日、先輩たちに頼まれ学生寮で留守番をしていた彼は、間違い電話をきっかけに一人の優しき女神ベルダンディーと付き合うことになり、そしてその出会いをきっかけに、人としても、一人の男性としても成長していきます。最初は少々弱気なところが目立ち冴えない青年だった螢一は、周囲の人たちや愛するベルダンディーからも頼られる人物に成長していきます。

作品の全編を通してわかることですが、螢一は優しく思いやりのある性格をしています。その性格がゆえに貧乏くじを引くことも多く、自動車部の先輩たちからは大変な雑用や損な役回りを押し付けられることもしばしば。また女神と付き合っているがゆえに現実離れしたトラブルも数多く経験をします。ですがそういうインシデントに対して途中で投げ出したり、いい加減に片付けることはありません。常に真摯に対応し、困難に対してはベストな解決法を探しあがく様子が描かれます。作中でも、絶望的困難な状況から活路を見いだす彼の活躍がたびたび描かれます。彼のこの姿は、エンジニアのスタンスとして学ぶべきところのように思えます。

一生懸命で正直な人はそれだけで才能と言える

そんな螢一の人柄と活躍を表すエピソードがあります。ある日、彼の所属する自動車部が出場するバイクレース大会がありましたが、2週間前になって部長・副部長が風邪で休みとなり責任者不在となる出来事が起こります。そこで部員たちによって、螢一が責任者の代役として選ばれました。

しかし大会に向けて問題が山積みで、大会に向けたマシンすら用意できていません。急ぎ、部員たちが必要なパーツをかき集めバイクレース用のマシンを組み上げたり、不足している資金を補うため螢一の妹が商店街からスポンサーを見つけてきたり、周囲に助けられながらなんとか大会の準備が間に合いました。当然その裏には女神であるベルダンディーの支援もありましたが、おせっかいをしたかも? と不安げなベルダンディーに対し彼はそれにも心から感謝し、大会当日を迎え良い結果を残します。

そこに部長と副部長が現れ、明日からお前が部長だ、と言われます。実は部長たちは今年卒業を控えていたため、次の部長を見極めるための試験でもあったというオチでした。部長に指名された螢一は、自分はガラではないと断ろうとしますが「部長はガラでやるんじゃないんだよ。一番大事なのはな、仲間を動かす力、つまり、人徳ってやつよ。」と言われ、螢一は部長になることを受け入れ心からの感謝の言葉を述べます。⁠人の幸福は心の底からありがとうを言える事が何回あるかで決まると思う」と胸で思いながら。

好きこそものの上手なれ

螢一は機械いじりが趣味で、作中ではバイクのようなハードウェアからコンピュータのソフトウェアまで幅広く触っている姿が描かれます。

そんな螢一ですが、大学3年時のエピソードでは就職活動をまったくしていなかったため、年の暮れになって焦って就活を始めるという展開になります。しかし彼が希望の二輪業界の求人はすでに締め切っていました。ですが偶然にも大学の先輩がバイクのパーツメーカーに就職しており、そのつてでその会社の社長と面接する機会ができます。そして社長は、会うなり螢一の手のひらを見て合格を出します。毎日機械いじりをしていた螢一の手にはオイルがしみついており、ここまで汚れているのは好きだからこそ、日々取り組んでいるからこその証と見抜いての合格だったのです。

しかし安心したのもつかの間、授業の単位が足りていないことが判明し留年してしまい、この合格はなかったことになってしまいます。ですが、彼の腕を買っていた自動車部の初代部長の誘いで、バイクショップの立ち上げメンバーとして招かれ、螢一は就職が決まります。

ここまでは作中の話なのですが、作者である藤島康介先生自身も好きや好奇心を活かし成長されている方で、この作品を描き続けている間に画力も格段に上がり[1]⁠、のちに大作シリーズとなる「テイルズ オブ シリーズ」「サクラ大戦シリーズ」などのゲーム作品のキャラクター原案者としても名を馳せました。また趣味の車やバイクを中心としたメカニカルなものへの造詣の深さから、藤島先生がメカニックデザインを担当したゲーム作品も存在します。また量子力学などで語られるシュレディンガーの猫をモチーフとしたシュレディンガーのクジラを作中に登場させたり、好奇心で学び得た知識を、作品を盛り上げる材料としても活用しています。

折れない心になるために

僕がこの作品を読み始めたのが中学生のときで、幅広い分野に好奇心を持ち、多趣味なことや学び得たことを活用するための思考をするようになったり、制約の中でもあがいてベストを考えることを覚えたりしたのは、この作品や作者に出会うことができたからだと思っています。最初からすごい人はいなくて、仮に才能はあったとしてもそれを磨き続けることが必要。大事なのは好きや好奇心を動力にして一歩一歩学び続け、素直でまっすぐに成長して可能性を広げること。そのためにGrit(やり抜く力)とResilience(しなやかに乗り越える力)が必要なことをこの作品から学んでいった気がします。

孟子の言葉に、⁠天のまさに大任をこの人に降さんとするや、必ずまずその心志を苦しめ、その筋骨を労し、その体膚を餓えしめ、その身を空乏にし、行いにはその為すところを仏乱せしむ。心を動かし、性を忍び、その能くせざる所を曾益せしむる所以なり。」という言葉あります。意味としては「天が人に重大な役割を与えるときは、必ず心身を疲れさせ精神を苦しめるような困難を与える。それは体と心を鍛え、大役を任せるに足る人物に育てようとしているからである。」といった意味の内容です。孟子のこの言葉は、⁠ああっ女神さまっ』という作品を通しての螢一の成長と重なる言葉だなと感じます。

マネジメントに携わる人は多くの問題を抱えながらその解決に奔走し、困難な状況に置かれ、日々悩んでいる方も多いことでしょう。そのようにマネジメントに悩んでいる方、成長に悩んでいる方は、この作品と作者を知ることで初心に帰って学びを得られるかもしれません。ぜひご一読ください。

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