だれも教えてくれなかったコンテンツビジネス儲けのしくみ

第9回 高付加価値セミナービジネス

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必ず利益のとれるコスト構造を作り,価格を決めてから,サービスの内容を考える

米田が会社を設立してから3年後,年商は8億円を突破していた。既存サービスの拡販にプラスして,セミナーなど高付加価値の付帯事業が加わったおかげで,利益率は25%と高水準を維持したまま,売上の増大に成功したのだ。米田の考えていた3つ目の柱である。

セミナー事業は,そのやり方次第でまったく異なる結果をもたらす。米田は低リスク高付加価値のセミナーのみに絞った事業展開を行った。経営者や広報担当者向けに3時間5万円,2日間で8万円という強気の価格設定。定員を30名に設定し,完売で売上240万円,粗利益200万円以上,粗利益率にして83%だ。高価格で少人数なら,会場費も安く済み,なじみの顧客に直接営業をかけることも可能だから,損益分岐点である3名を確保するのは容易だ。高価格であることが,すべてにプラスの影響を与える。

運営体制も,高付加価値セミナーとそうでないものでは雲泥の違いがある。高付加価値セミナーの場合,担当者1名とアルバイト2名で,1週間に4回から6回のセミナーを開催することが可能だ。会場を同じビル内にし,1日に2つのセミナーを開催するのである。受付はアルバイト1名,進行は担当者。とはいっても,担当者は最初と最後に顔を出すだけでいい。あとは講師が進めてくれる。毎週4回セミナーを開催すると,1カ月で16回。1つのセミナーの参加者が20名,受講料2万円,会場費3万円,講師料5万円,諸雑費2万円とすると,30万円の粗利益だ。1カ月の粗利益は,480万円となる。6回開催した場合は,720万円だ。

当初,⁠内容から考えて,もっと安価にすべきだ」という社員の反対もあったが,米田はあえて高付加価値にこだわった。理由はかんたんだ。仮に3000円でセミナーを行った場合,高付加価値セミナーと同じ売上を上げるには,800人収容できる会場を抑えなければならない。資料も印刷しなければならないし,受付も多数必要になる。あらゆる面でコストアップし,最終利益はかなり圧迫される。損益分岐点も高くなるし,いざとなって営業マンが電話してもカバーできない。加えて,低価格セミナーはクレームを産みやすくなる。佐久間の言っていた「高いものほど,低品質でも許される」の逆だ。安価なセミナーは,配付資料をはじめとして,すべてにおいて一定以上の品質を確保しなければならなくなる。サービスの内容から価格を決めるのではなく,⁠必ず利益のとれるコスト構造を作り,価格を決めてから,サービスの内容を考える」のが米田の考え方だった。

社員が半信半疑なら「やってみせる」しかない

⁠しかし,セミナーには独特のノウハウが必要なんじゃないでしょうか?」⁠

米田の説明を聞いても,社内の営業マンたちは半信半疑だった。米田の言うとおりだとしたら,話がうますぎる。そんなに楽な商売をほかの会社が放っておくはずがない。

⁠僕を信じていい。これは良質な顧客リストがあればできるモンキービジネスなんだ。我々には,有料コンテンツ販売で作ったリストがある。自信を持っていい」⁠

営業会議で米田は繰り返し力説したが,社員の反応はいまひとつよくなかった。こうなったら,実際にやってみせるしかない。

⁠鈴木さん,やってみないか?」⁠

米田は,やる気はあるものの,営業成績がふるわない若手の鈴木に声をかけた。鈴木は,学生時代にメデューサデザインでアルバイトをしていた少年だ。データ解析が得意で,卒業後,佐久間からメデューサデザインに誘われたものの,⁠ビジネスの現場を肌で感じてみたい」と言って,米田の会社に営業として入社した。かわいい顔をしているので受けは悪くないが,相手の男性担当者から今ひとつ信頼を勝ち得ていない。

⁠え? 声をかけていただくのはうれしいんですが,無理です。今の仕事だけでも大変なんです」⁠

鈴木は,可愛い仕草で頭をかいた。

⁠なにが大変なんだ?」⁠

⁠手持ちのクライアントさんが20社ありますし,新規開拓もしなければなりませんし……」⁠

⁠新規開拓はいい。これから3ヵ月はセミナー事業に集中してくれ」⁠

⁠そんな……売上がたたなかったら,どうするんです?」⁠

⁠僕の言うとおりにやってくれればいい。責任をとりたくないなら,この3ヵ月の営業成績は問わないことにしよう。良くても,悪くてもね。ダメでも悪影響はないが,良い結果が出ても反映されない。それでいい?」⁠

米田がそう言うと,鈴木はしばし黙った。鈴木なら,リスクをとるだろうと米田は踏んでいた。

⁠いえ,いい結果が出たら評価してください。ダメだった時は,マイナス評価でかまいません。やるからには責任もってやりたいんです」⁠

それから数日間,米田は鈴木につきっきりで,セミナーの企画,告知文章の作り方などを伝授した。すべてメデューサデザインで聞きかじったものばかりだ。

蓋を開けてみると,セミナーは1週間で定員40席が満席になった。これに意を強くした鈴木は,米田に教えを請い,次々とセミナーを立ち上げていった。B2Bの営業と異なり,セミナーは効果的な告知と,効果分析が重要だ。鈴木のデータ分析能力を生かせる。鈴木が望んだ形とは違うかもしれないが,これもまた⁠現場⁠なのだ。

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著者プロフィール

一田和樹(いちだかずき)

11月6日東京生まれ。バンクーバー在住。

シンクタンクにてIT関連市場調査,製品開発を担当,独立後,インターネットプロバイダなどIT企業の役員,社長を歴任。人材育成にも長け,社長を務めた会社の社員の半数が起業した。

2010年島田荘司選 第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞。サイバーセキュリティミステリを中心に執筆,その他,ファンタジーやマンガ原作などもこなす。筆が速いことと,多彩な芸域が特徴。

@K_Ichida

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