ライフハック交差点

第14回GTDの生みの親 David Allenさんインタビュー特別編(2)「頭を空にする」習慣と、GTDへの信頼の作りかた

最速の仕事術「Getting Things Done(GTD⁠⁠」の提唱者David Allenさんへの独占インタビューの2回目です。

前回はウォームアップもかねてGTDの周囲から質問をはじめて、David Allenさんの考える私たちの「思考」の秘密という話題へと進みましたが、ここでいったん話を引き戻して、GTD初心者にありがちな質問を聞いてみました。

それは私がGTDを始めたときにも感じていた"「頭が空な状態」にするにはどれだけのことを書き出さないといけないのか?"という疑問です。

どこまで頭をクリアーにしないといけない?

(以下、MH⁠⁠:
⁠技術評論社発行『Life Hacks PRESS』を指し示し)これがライフハックの専門誌のLife Hacks PRESSで、多分ライフハックを日本に初めて紹介した雑誌だったと覚えています。1冊目がGTDの特集で、つい先日発行された2冊目では時間管理を特集しています。私もここで執筆しているのですが、自分自身がすべてを上手にできているという自信なんてありませんから、何がうまくいく方法なのか、さまざまな模索しながら書いていたんです」

David Allen(以下、DA⁠⁠:
⁠私自身、GTDの本を書いていたときは、こんなことを思いつくのは自分が地球上で最後の人間だと思っていたよ。きっと大きな会社の頭のいい人たちは、こんなことはすでに知っているだろうと思ったものさ。しかし実はそうした人たちが最もこうした手法に飢えていたんだ」

MH:
⁠ではGTDを必要としていて、初めて実践する人へのアドバイスについて質問させてください。GTDを実践できるようになるためには、GTDの手法を習慣化することが必要だと思うのですが、初心者にとって最も難しい、重要な習慣はなんだとお考えですか?」

DA:
⁠本を読んだだけの人が今やっていることに付け加えて実践できることはいくつかあると思う。まずは何よりも、頭のなかにあるものをもっとたくさん書くようにするという習慣だ。GTDでは頭のなかで思いついた、その場でできないコミットメントはすべて書き出さないといけない。それが第一歩なんだよ」

MH:
⁠でも初心者にとって必ずしも自明でないのは、⁠何を、どこまで書き出さないといけないのか』ということですよね?」

DA:
⁠クリアーになるまで、すべてだよ」

MH:
⁠そのクリアーの状態についてなのですが、よく悩むのが『どれだけ書き出せば、頭が空になるのか』ということだと思うのです。極端な例を持ち出すと『コンピュータの電源を入れる』とかそういったマイナーなことまで、思いついたことは全部書かなきければいけないのでしょうか?」

DA:
⁠まず理解しないといけないのは、君の脳が気になって仕方がないものというのは、君の周囲にあるものが念を押してくれないものだということだ」

「たとえば人生には『未完了』なものなんていくらでもあるけれども、周囲のものが思い出させてくれると信頼しているものに関しては、君は気に留めていないはずだ」

Kathryn Allen(Davidの奥様⁠⁠:
⁠洗濯物をしなきゃとか…そういうたぐいのものとかね」

DA:
⁠そうそう。例えばキャサリンと私がスーパーに買い物に行く時に、⁠買い物リスト』をわざわざ作ったりするようなことはないのさ。ただ二人で店にいって、品物が並んだ棚の横を歩けば、品物自体がリマインダになってくれて何を買えばいいのか思い出させてくれるんだ。私たちが今ここに座って『ああ、あれを買わなきゃ』なんて気に病んでいないのは、店に行きさえすれば店の棚がそれを思い出させてくれると、棚を信頼しているからなんだ」

「コツとなるのは、同じことが2度以上気になった場合だ。なにかが気になるのが一度きりだったら、思考をはんすうしているだけかもしれない。⁠あれやろうなあ、これやろうかな』と頭の中で散歩をしているだけという場合だ」

「でも同じことを2度考えたなら、それは今はまだ完了していないことについて『私は○○をしなければいけない、したいと思っている、する必要がある』と気にしているというシグナルで、それが私のいうオープン・ループなんだよ。脳が『きみ、これをやると約束したよね』⁠これを実行すると決めたよね』という具合に心理的なリマインダを繰り返し君自身に向かって発している状態なんだ」

「あそこの壁の色や、あそこに立っている人についてとか、この建物について考えようとしているときは、意識的になにかに焦点をあてた思考をしているわけだけれども、オープンループが生じている状態というのはそれとは決定的に違うものだ。言うなれば、建物について集中して考えようとしている最中に『くそっ、そういえばパンを買わなきゃいけないんだった』と思いつくような、そんな考え事のことを指しているんだよ」

「集中しようと思っていたのに、横からやってきて僕の集中を奪ってしまうもの。これがオープン・ループというもので、こうした考えがゼロになるまで、すべてをキャプチャーすることができればそれで十分なんだ」

左から、Kathryn Allenさん、David Allenさん、堀 E. 正岳さん
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システムへの信頼が鍵

MH:
⁠どんなものがリストに入って、どんなものが入らないのかがわかるようになるまでには経験をためることが必要になりそうですね」

DA:
⁠頭のなかに何かがあって気になっているのなら、それが『なぜ気になるのか』という理由を引き出して、適切に処理しないといけない。⁠ずっと気になっているもの』というのは、私自身がタイミングよく思い出して処理できると自信をもっていないものなんだよ」

「たとえば、ほとんどの人は来週の金曜日の午後三時に自分がどこにいるかを気に病んではいないけれども、それはなぜだと思う? 将来に起こることが好きであるか嫌いであるかにかかわらず、それはいずれやってきて、その時点でどこにいなければならないかはカレンダーに記録されていることを信頼しているからなんだ。いいかえるなら、自分の行動が好きであれ嫌いであれ、自分の人生が好きであれ嫌いであれ、それを忘れて頭を空にすることはできるんだよ」

「必要なのは、なぜ『気になっている』のか、その理由を問いただして信頼のおけるリストや、カレンダーに入れてしまうことなんだ。カレンダーは昔から使われていたけれども、私がGTDでやったのはそのほか全てのものについてカレンダーのような『約束』を入れる場所を作ったことにすぎない」

「たとえば電話なら、⁠誰に』⁠何の用件電話するのか』をリストにしておいて、時間と電話がある状況で自分が電話をすることを信頼していれば、もう頭のなかで『電話しなきゃ』とイライラする必要はない。というのも、⁠まてよ、このリストは僕の脳みそよりもずっと賢く電話についてのすべてを管理してくれてるじゃないか。もう頭のなかでこの件について悩むのはよそう』システムを信頼して頭脳を開放できるからなんだ」

GTDをマスターするまでに必要な時間

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DA:
⁠よく言われるのが、⁠David、すべてのものを紙に書き出したつもりなんだけれども、まだ頭のなかにあるよ!どうすればいい?』という質問で、⁠いったいどのくらいの間実践しているんだい?』と聞くと、答えは『一週間』だったりするんだ。私は『君の脳がシステムを信頼するようになるまで、2ヶ月はやってみろ』とアドバイスするようにしているよ」

MH:
⁠システム自体がなじむまでに時間がかかるというわけですね」

DA:
⁠君がそれを信頼できるようになるまでの時間がかかる、というわけだね。カレンダーをみるのと同じくらい無意識にシステムを使えるようになるまでには、人それぞれそれなりの時間はかかるだろうね」

MH:
⁠いままでカレンダーみたことがないという人が初めてカレンダーを使い始めたら、使い方はおろか、それを毎日みる習慣ができるまで何年もかかるかもしれません。それと同じですね」

DA:
⁠その通りだ。たとえば最近私は61年の人生で初めてアシスタントを雇ったのだけれども、こんどはそれにあわせて『カレンダーをみる』ように自分に念を押さないといけない自分を感じているよ。というのも、彼が私の知らない何かを知らないうちにカレンダーに付け加えたかもしれないわけで、私にとっては今までにない初めての状況なんだ。システムが変化するとともに、自分の習慣もそれにあわせて変えなければいけないのだよ

MH:
⁠よく初心者の人が陥るように、GTDというのはなにか水晶のように透き通った完璧なやりかたがあるというよりも、環境に応じて適応させないといけないということですね」

DA:
⁠原理は水晶のようにクリアなんだ。でもその原理をどのように世界に適用するかというシステムの部分は常に変わっていく。それは世界自体が変わってゆくからなんだよ」


私にとって今回のハイライトは、⁠オープンループとは周囲のものが注意を喚起してくれない全ての気になること」という定義をDavidから引き出せたことでした。これは今までの英語で耳にした他のインタビューでも聞いたことのなかった明快な答えで、GTDの理解が一歩進んだ気がします。

また、頭をちゃんと空にしたら、次は「拡張された脳」であるToDoリストやカレンダーが適切にすべてを捉えているという「信頼」が鍵になるのだという点は、非常に示唆に富むものだったと思います。GTDのシステムの善し悪しではなくて、それを信じているかどうかが鍵というのは、GTDを理解する上でいくら強調しても足りないくらい重要な点だったと思います。

さて次回は、さらに実践的な、システムの維持とバランスの取り方という話題へとすすみます。GTDという仕事術の本質のさらに深いところへ切り込んでいきますよ。

次回もお楽しみに、Happy Lifehacking!

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