グラフ仕事人六道数人~陥りやすいデータ分析の誤りと効率的なグラフの利用方法

第6回 因果関係はプロクルステスの寝台 その3:見かけの相関,実際の相関~統計的観点からだけでは因果関係は特定できない

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  • 「さて,お父さん,答えていただきましょう」

六道数人は,獲物をいたぶる爬虫類のような目を父である様也に向けた。不細工な男がやれば滑稽なだけだが,いにしえの妲己のかくもという妖しい美貌を持つ数人がやるとぞくりとする凄みと魅力がある。傍観していた母親の美希も数人に見とれて涎を垂らした。

  • 「あうあうあう」

様也は哀れなアシカと化していた。とっさに言葉が出ない。追い詰められたときに,なんでもいいからそれっぽいことを言えないのはコンサルタントとして致命的だ。

  • 「哀れな虫けら」

数人の唇から麗人にそぐわない罵りのつぶやきが漏れると,様也は無言で頭を垂れた。ぽたぽたとテーブルに血の涙が落ちる。美希がわざとらしく,大きなため息をつく。

ケース1:キャンディのパラドックスのチャート

  • 「では,教えてさしあげましょう。ケース1の場合は,年齢という要因が未婚/既婚,およびキャンディの消費量に関係している可能性があります。年を重ねればキャンディの消費量は減るし,既婚者の率も高くなる。そのため見かけ上,キャンディの消費量と既婚者の数の間に相関が見られた可能性があります」

様也はいつまでたっても愚行を重ねる人類の下位カーストらしく,うなだれて天使の導きをメモした。

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  • 「この手の間違いはとてもよくあります。⁠きちんと朝食を食べると成績が良くなる”。もっともらしく聞こえますが,調査を行ったところ,朝食をきちんと食べていることと,成績に有意な相関が認められたためだそうです。しかし生活習慣がちゃんとしていたり裕福な家庭の子だからという未知の要因の影響も考えられます。」
  • 「“暴力的なマンガやアニメが犯罪を助長する⁠というのもそれっぽく聞こえますが,もともと暴力的な人は暴力的なマンガやアニメも好きで犯罪にも手を染めやすいと考えたほうが自然という解釈もできます。暴力的なマンガやアニメを好きでも現実では暴力的でない人もいるわけですからね。自分の都合の良いように因果関係をねつ造してストーリーを作っている人はたくさんいます」

ケース2:ソーシャルネットワークのパラドックスのチャート

様也がメモを書き終わったのを確認した数人は,続いてケース2の解説に移った。

  • 「次にケース2では,経済記事を読む利用層は有料セミナーにも関心が高く申し込みやすいという可能性が考えられます。これが相関に現れなかったのは,経済記事を嫌いで読まない層がマイナスに作用していたため可能性があります。つまり経済記事が掲載されると好きな層がアクセスし,売上に貢献する一方で,好きではない層はアクセスしなくなるため,合計のアクセス数は増加しない。売上に貢献している利用者の属性を特定し,その属性と経済記事へのアクセス状況を見れば確認できます。合わせて嫌いで読まない層も確認すべきでしょう」

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  • 「せっかく有益な知見を得られる機会だというのに,見かけ上の相関が失われることでチャンスも失われてしまいます。十分に注意しましょう」

ケース3:ゲーム大会参加者のパラドックス

  • 「このケースでは,2つのゲームの経験値が10,000以上のプレイヤーのみが対象となっており,偏りのある集団を対象に相関関係を見ています。合計値による制限があるために生じた相関である可能性があります。これはわかりやすいケースですが,実際には会員制サービスなどで,これに似たような間違えを犯していることは少なくなさそうです。Twitterのフォロワー,メールマガジンの読者,購買者リスト,複数の条件を設定した広告出稿による集客などにも同様の偏りが潜んでいる可能性があります。限定された対象を調査するときは,十分な注意が必要です」

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  • 「いずれにしても,統計的観点からのみでは因果関係は特定できないことは決して忘れないでください。頭の中を整理して,因果関係のダイアグラムを作っておけば,こうした間違いは回避できます」

アポロンのように凛として語る数人の前で,様也はシーシュポスのごとき永遠の疲労を感じた。

  • 「おとうさん,コンサルタントは疲労を感じる神経があるとつとまりません。もっとしたたかに愚鈍になってください」

数人の皮肉とも励ましともつかない言葉に,様也はただうなずくのだった。

著者プロフィール

原隆志(はらたかし)

シンクタンクで7年間市場および新製品開発などの調査研究に従事した後に独立し,大手IT企業のコンピュータ・ネットワーク市場調査,新製品開発調査およびコンサルティングを行う。その後,インターネットプロバイダなどのネット関連企業の役員を歴任。『インディペンデントリサーチャー養成講座』など多数の調査分析セミナーの講師を務めた。2015年9月刊『直感でわかるデータ分析』(技術評論社)

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