モヤモヤ議論にグラフィックファシリテーション!

第14回「議論を上手に整理したい」思っている人へ

グラフィックファシリテーターのやまざきゆにこです。さて、前回に引続き、「どうやって議論を整理しているんですか?」という質問に答えます。

グラフィックファシリテーション(※以下「GF⁠⁠)では、最初からきちんと〈整理する〉つもりで描いていません。議論をまずは、ただ、ただ〈拾う〉のみ。しかし、⁠GFで"構造化"はできないのか」⁠GFで議論はまとめられないのか」というと、全くそういうことはありません。⁠出来上がったグラフィックを後から見直すと、ある関係性が見えてきたり、新たな分類ができたりと、必ず何かが〈整理〉されているんです。

今回はそんな「GF」が教えてくれる〈整理〉の仕方から、日々の議論の進め方に使える思考のヒントを探ってみます。

"時間差"で整理されてくるものがある

Q1:頭の中を整理するときにグラフィックで構造化することで理解が深まる。
チャートもその一つですし、ビジネスの世界では有効な手段。
ゆにさんの「GF」では、どうやって議論を整理しているんですか?

A1-1:しばらくすると、グラフィックが、時に全く違う視点で
〈整理してくれる〉から、面白い!

GFは、絵にする記録作業(下記①)の珍しさに目がいきがちですが、じつはGFの底力は、絵になったものから見えてくること(下記②③)を読み解いて、次のアクションにつなげられるところなんです。

当日の『グラフィックファシリテーション』は以下の流れで進みます。

私はまずは、ひたすら黙って部屋の後ろで壁に向かって筆を動かしています(上記①⁠⁠。そして1~2時間して議論が小休止するようなタイミングで、⁠なぜこんな絵を描いたのか」といった説明をその場でみなさんにフィードバックします(上記②⁠⁠。時間にしては5分程度の簡単なものですが、そのとき必ず特徴ある絵や色を見つけることができるんです。

先日のグラフィックでは、〈水色の雲で囲んだ絵(下記左の絵)〉と〈緑色の地面の絵(下記右の絵)〉があちらこちらに現れているのに気づきました(下記以外にも複数出現⁠⁠。

画像 画像

それらをよくよく見てみると、次の2つに分けられていることがわかりました。

  • 左の絵:〈水色の雲で囲んだ絵〉=ネット上のサービス利用シーン
  • 右の絵:〈緑色の地面の絵〉=実社会での携帯利用シーン

絵をタタキ台にして、こうした発見や気付きをフィードバックしながら、皆さんとこれまでの議論を振り返り、対話を深めていきます(上記③)

A1-2:「GF」では、
〈整理する〉は"後から"ついてくる

当初から〈整理する〉つもりで描いていれば、きれいに紙の上方に〈ネット上〉の利用シーンを描き、下方に〈実社会〉での利用シーンと、分けて描けるのでしょうが、実際その会議では「今期の課題/来期の施策」という議題で進行していました。サービス利用シーン〈ネット〉と〈実社会〉に分けて議論されてはいませんでした。そのときの私も、描いている時点では、⁠外を歩いている絵になったから→緑色に塗ってみた」だけ、⁠ネット上のサービスを楽しんでいる様子は→さっき(外の絵)とは違う色(水色)で囲んでみた」だけです。

最初は出来上がった絵を振り返っても、それぞれ何のつながりもない絵がバラバラと描かれているだけに見えます。特に参加者が自由に発言する場ではたいていそういう絵に仕上がります。

でも、そんな絵こそ改めてじっくり見直すと、例えば今回のように〈水色〉や〈緑色〉の絵が「それぞれ仲間同士の絵だった」ということが見つかります。すると、ものすごく〈発散〉しているだけのように見えていた議論が、一気に〈収束〉していく、といったことが起こるんです。

GFの"議論を絵にする"という手法には、議論の中で聞こえてくる微妙な違和感、空気感が絵そのものや色、大きさ、形に現われるという特徴があります。そしてそれが意外に議論を〈整理する〉上で、大事な要素になっています(※絵を描かなくても感情を拾う方法は主に第13回で紹介⁠⁠。

"次の日"に整理されてくるものもある

Q2:ゆにさんの「GF」では、ゆにさんが最後に
みんなの議論をイラストで整理してくれるということですか?

A2:当日、そして後日と、
2段階でグラフィックが〈整理してくれる〉!

前述した当日の『グラフィックファシリテーション』の作業の後、後日、次の作業を行います。

〈水色の雲で囲んだ絵〉と〈緑色の地面の絵〉が「それぞれ仲間同士の絵だった」ことを読み取れたら、実物の絵を切り取って、並べ替えたり、束ねたりと〈整理〉したくなりますが、通常は、デジカメで撮影したデータを使って、後日、そのデータ画像をパソコン上で切って並べ替えてと再編集して、報告書にまとめて納品します(※サンプルレポートは第8回に掲載⁠⁠。

そんな、1日、2日、1週間と時間を空けて、レポートとしてまとめる(=議論を振り返る)作業の中で、必ず新たな気づきや発見があるんです。このときはバラバラの絵を切ってつないでいくと、サービスのグッドサイクルが出来上がりました。そして、そのサイクルの一番最初の絵にあったのは、商品のことがよくわからないなあと首をかしげている顧客の顔。いろいろな発言が絵になりましたが、並べ替えたことで、一番最初に手を打つべき課題の絵や、グッドサイクルを邪魔しているいくつかの絵が見えてきて、それぞれの緊急度・重要度も明らかになりました。

画像

報告会を行うこともしています。よくあるのは経営ボードへの報告です。実際に描いたグラフィックを改めて壁に貼って、私がそれをストーリーテリングします。日にちを置いてもう一度みんなで議論を振り返る作業もまた、新たな気付きを得ます。自分たちの思考の癖や見落としていた大事な視点に気づかされたり、初めてグラフィックを見る人がいると、全く違う角度から疑問が投げかけられることで、さらに新たな対話が生まれていくこともあります。

研修を終えた後のほうが、研修を受けていたときより探究が深まっていく経験はありませんか? それと全く同じ感覚です。後日、日を空けてグラフィックを読み取る作業は本当に面白い。

グラフィックを描いたのは私ですが、私自身は他人が描いた絵を見るように分析しています。それは、みなさんが私に描かせてくれた絵だからです。グラフィックが教えてくれる。グラフィックが〈整理〉してくれる。グラフィックそのものからコンサルティングを受けている感覚です。だから「グラフィックコンサルテーション」と呼んでいます。

議論を上手に"1つに"まとめたいですか?

設定していた議題、課題、ゴールイメージのとおりに
流れていかないのが議論

GFで〈拾う〉→〈振り返る〉という作業を繰り返すと、当初予定していた会議のアジェンダや目標設定とは、全く意外な切り口で突然整理されたり、想定していたゴールとはまったく違う新たな方向へまとまっていくことが多々あります。グラフィックの中でこうしたことを体感するたびに、⁠整理しよう」とすることが時に意図的な作業のように感じてしまい、⁠議論から生まれた本来の姿にどこまで即しているのかなあ?」と思ってしまいます。

限られた時間の中で日々議論をしていると「整理しよう」と先を急ぐのは当然かと思います。何かしらのアウトプットも必要でしょう。そんな議論の流れ方はどこか「1つのゴールに絞り込んでいく」ような印象を受けます。スピード感を持って議論の流れを「1つのゴールに絞り込んでいく」進め方は、例えば、すでに、明確な数字目標を実現するために何かを判断・決断する会議には向いていると思います。

画像

しかし、例えば「課題が山積みで何から手をつけていいか、もう一度整理したい」と集まったのに、議論の時間がなくなってきて、突然アウトプットを出そうと、なんだか力技でゴールに絞り込んでいくような感じを受けるときがあります。⁠みんなのゴールイメージがバラバラなので整理したい」と言っていながら、どこかすでに決まったゴールに議論が押し進められてく感じを受けたときもあります。

そんな進め方を感じたとき、私の右手は、どこか"上手く""意図的に"まとめられていく違和感を覚えますし、その推し進めるスピード方に「待って~」と言いたくなるときがあります。

推し進めて絞り込んでいく〈整理〉術と
拾ったものを再編集する〈整理〉術

「ゴールに絞り込んでいく」議論のまとめ方に比べると、GFの整理の仕方は次のようなイメージといえるかもしれません。

これまで1時間議論してきた、たくさんの発言カードが神経衰弱のときのように机の上に散らばっている。そこで、仲間同士のカードを束ねてみたり、関係しているカード、連鎖しているカードを並べ替えてみたり、という作業をしている。〈整理する〉というより"編集しなおしている"という感じ。

画像

このとき、カードの束ね方も1つとは限りません。だから同じカードを複数枚用意する必要もあります。

結論を急ぐ会議に慣れていると、こうした作業は、もどかしく、じれったいように思えるでしょう。でも、ちょっと立ち止まって、これまでのカードを振り返り眺めてみると、〈束ねて一気に捨てられるカード〉もあれば、並べ替えたら優先順位が明確になって〈一番最初に手をつけるべきカード〉が嫌でも見えてくる。結果として目に見える具体的な結論が現れてくるという効果があります。本音を拾いやすいGFでは、きちんと出てきた発言カードを"編集"するという作業は、本来〈整理〉されていくはずの姿にとても近いのではないかと思っています。

答えを急いではいけない議論も
共存している

たった2~3時間の議論でも〈振り返る〉作業というのは、効率を要求されるビジネス社会では、手を出しにくいと思います。でも、

  • 本当の「効率のよさ」って何でしょう?

決裁を目的にした会議には当てはまりませんが、新規サービスを企画・検討するような会議では、特に斬新なアイデアを探しているせいか、みんなが前ばかり向いているように感じることがあります。⁠前回までの議論はなんだったの?!」と言いたくなるぐらい、大事なものが足元に落ちているのに、それに気づかずどんどん歩いて行く感じ。たった2、3時間の会議でも「1時間前の議論はなんだったの?!」と思うぐらい、毎回新しい議論が展開される。その一方で、必ずといっていいほど「あれ? 前回もその議論してましたよね?」といった堂々めぐりの発言も聞こえてくる。

いったん立ち止まって〈振り返る〉という作業は、遠回りしているように思えます。でも、結局は、後から一足飛びに追い越してトップに走りだせるようなパワーを秘めているんです。そしてこの作業は一度やっておくだけで、もう二度も三度も同じ議論を繰返さなくて済むという、効率のよさも発揮してきます。

1時間でも2時間でも人が集まったら、その議論は〈拾う〉→〈振り返る〉価値が必ずある。それがたとえその日の会議で想定されたゴールにそっていなくてもです。これはもう「宝の山!」と常々思っています。

議論を進行し、まとめる立場の方にとっては、邪魔な発言も多いと思います。でも議論のまとめ方を少し変えてみたいと思うのなら、試しにこう考えてみてはどうでしょうか? 2つのタイプの議論が共存している、と。即効性のある打ち手を絞りだす議論をしている一方で、同じ時間に、実は後から一気に大きな影響力を発揮する打ち手を見つけ出せる議論(発言)も共存している、と考える。

会議や研修を主催すると、主催者側としては、ついつい、最後はうまく整理されたアウトプットを欲しくなります。でも、アウトプットは必ずしも1つではないし、その日うまくまとまらず気持ち悪さが残っても、後日きれいに整理されたりするんです。議論を〈整理〉するという作業には、そんな「時間差がある」ということを覚えておくだけでも、いろんな発言が大切に思えてくると思いますがどうでしょう?

逆に、会議や研修に参加する立場になったとき、どうも自分の発言が流された感じを受けたら、もしかして今の議題や話している相手と「時間差」があっただけなのかもしれません。お互いの「時間軸」をすりあわせてみると、その発言を今取り上げるべきか、ちょっと脇に置いておくものか、交通整理ができるかもしれないなと思いましたが、どうでしょうか。


さて次回は、議論を絵にしたその先のこと、どうしたら「絵に描いた餅」で終わらせないようにできるか、ということについて書いてみたいと思っています。

ということで、今日のところはここまで。最近すっかり不定期便になってしまっていますが(すみません!⁠⁠、次回も楽しみにしていてください。グラフィックファシリテーターのゆにでした(^-^)

おすすめ記事

記事・ニュース一覧