モヤモヤ議論にグラフィックファシリテーション!

第24回聴き手座談会(2)意外と知られていない聴く”世界~聴けるとは

[聴く]を仕事にする女性達との三者座談会。まずは、通訳者 奥山ちとせさん、メディエーター 田中圭子さん、そしてわたしを含む、3人の[聴こえている世界]の話を中心に会話が広がっていきました。


チャネラー? 口寄せ? 降りてくる、降りてくる~?!

ゆに:みなさんにも、発言者の"本当の声"みたいなものが聴こえているという体験があると思うんですが、いかがですか? 本当はその人は「こうしたい」と思っているという声

奥山:通訳者として、アメリカの研究所と日本のメーカー、日本の研究所の共同プロジェクトで、私が目になり耳になりということをしていましたが、そのときアメリカ側のある方に「チャネラー」と呼ばれ、私は自分の役割を「口寄せ」とか言ったりしました。

ゆに:チャネラー?

奥山:あの…、⁠降りてくる、降りてくる」なんて…。

全員:(笑)

ゆに:その感覚、わたしもあります!

奥山:ただ、たとえばプロジェクトの中で、ニックさんになり、クドウさんになりというのは、すごいキツイところもあって。お互いのもどかしい思いを、その人になって言っている状態と言ったらいいかな。時には夢にでてきましたね。

ワタ:1分1分、違う人になっている!

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田中:すごくわかります。メディエーションでの話し合いは、1対1の近隣問題もあれば、家族問題で兄弟親戚が集まる十何人の話し合いもあります。メディエーターは当事者のみなさんが顔をあわせたテーブルで一緒に話を聴きますが、最初は顔も見たくない相手と席をいっしょにするので、ワーッと言葉を一方的に言う方もいるし、黙っている方もいる。

ゆに:うんうん。

田中:すると、AさんがBさんに対して発言していることに対して、メディエーターはまるで自分が責められているように感じてしまうこともあるぐらい、それぞれの気持ちに共感してしまうところもあるんです。それはそれで、第三者としてメディエーターは自分自身が何に共感して、何を思っているのかを感じなければならないのですが、AさんやBさんにとってはじつはそんな第三者が一緒にいるからこそ安心できる場になっているというところもある。

わたしたち、「必死で」聴いてます

奥山:通訳は、純粋に言葉だけを追いかけていて。ものすごくメモは取ります。逐次通訳なら、徹底的にメモするというのはもう通訳訓練の1つ。

ゆに:グラフィックファシリテーションとそっくり。

奥山:それで、すごく面白いのが、エンジニア研修の通訳をよくやっていて、内容が専門的・技術的なものだから本当は分からないはずなんですけど、私は本気で聴いているじゃないですか。とにかく聴くしかないから必死で聴いている。そうすると、そのエンジニアの人たちよりも、問題の答えが先に分かるときがある。

ゆに:わたしも、あります!受講者よりも先にわかること。

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奥山:聴き方が半端じゃないから。メモを取っているし、理解しようとしているし、そして繰り返して言っているからだと思うんです。人の言ったことを自分の口で繰り返している。だからものすごく中身が頭に入ってくる。ゆにさんも「記憶力がすごい」と誉められることがあるって書いてたでしょ。あれも自分で聴いたものを消化して表現しているからだと思うんです。それをしている人間の頭の中の焼きつき方は、だいぶ違うんじゃないかと。理解とその残り方は明らかに違うと思います。

ゆに:本気で聴いてますよね。やっていることの9割は耳をダンボのように大きくして聴いているという感覚。⁠話しかけないで!」というくらい、もう、聴くことで精一杯。よく「描き方を教えて下さい」と言われますが、描き方なんて気にしてられない。逆に描き方を気にしていると、話が聴けなくなる。

田中:(笑)

ゆに:「こんなに必死で聴いているから、出来た絵になんと言われてもへっちゃら」みたいな覚悟で描いてますね。そのために、体力温存してのぞむだけ!というぐらい。

「感情のもつれ」をほどいてます

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田中:メディエーターの役割は、例えば「2階の洗濯機の音がうるさい」という苦情があったとして。今までの紛争解決では、⁠騒音が何デシベル」とか、⁠何時から何時までは音は出してはいけません」とか、法律とかルールの枠の中で解決する方法だったのですが、それだけではなくて。やっぱりお互いの事情を理解し合って、では、次にどうすればよいのか、お互いがじっくりゆっくり話し合っていきましょうと。

ゆに:「じっくりゆっくり」というのがいいな~。

田中:そのためには、当事者同士だと感情的にエスカレートしてしまったり、言えなくなってしまうことがあるので、お互いが安心できる場を作って、一緒に話し合いましょうと進めていくのがメディエーターですね。

ゆに:日本メディエーションセンターのホームページを拝見したときに、感情のもつれという言葉が新鮮でした。⁠もつれ」を絵に描こうとすると、本当にぐちゃぐちゃになっちゃって。

田中:ある家族の中で、兄弟親戚がお母さんの面倒を誰が看るんだともめている。兄弟の中で何十年も鬱積していたものが爆発して出てきたり、兄弟や親族の中で派閥ができたり、いろいろこじれにこじれてしまって、もうどうしようもない。お母さんを助けるためには、その何十年間の確執を、まずお互いの解決の糸口をなんとかしないといけない。

ゆに:「解決する」ではなく、「解決の糸口」を探すんですね。

田中:みんな心ではお母さんに感謝しているけれど、言葉では「おまえがやれ、おまえがやれ」と、否定的なことばかり出てきてしまう。そこを「本当は皆どう思ってるのか」⁠何が問題なのか」⁠どうしたいのか」をどう引き出していくのがメディエーターですね。

ゆに:奥山さんや私が会議室で付き合っているのも、「ぐちゃぐちゃもつれた」時間なのかもしれない。その「もつれ」をほどかず、目標や解決策に急いでも、みんなはもつれて引っかかったままだから進まないのかも。

「言葉になっていない部分」を拾っています

ゆに:「奥山さんの通訳は違うよね」と言われる理由は、話し手の言葉を言葉そのまま訳すのではなく、その人が何を言いたいかということまで踏み込んで、分かりやすく訳していることを評価されていると聞いています。でも、アメリカの研究者と日米の研究者と日本のSEと、それぞれの価値観のギャップも相まって、結構きつかったのでは?

奥山:すごく面白くもありましたよね。議論が抽象的で、概念を語るから、視点の違いについてあえて通訳することがありました。皆さんパワーポイント資料で説明されますが、それをフラット(2次元)に見ても、この方の言っている概念はこれであるとは伝わらなくて。ゆにさんと共通していると思うんですが、資料を3次元的に見てその資料に向かって指差して、この人はこっちから見て話をしている、あの人はこっちからこう見てるのと、説明しようとしたこともあります。

ゆに:へー、3次元ってグラフィックと同じ感覚ですね。

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田中:メディエーターは発言や動作から「今こういうふうに思ってらっしゃるんですね」と言葉にしていくことがあります。特にメディエーションの後半、つまりお互いの信頼関係が築けてからですが、例えば「顔も見たくない」と言われたら「顔も見たくないのは、何か傷付けられたというお気持ちがあるんですか?どういう事情なのかもう少しお話ししただくことできますか?」という感じで。後半になると、「この人はこう言ってるけど、実はこうじゃないか」というのが第三者だからこそ見えてくる部分があって。言葉になっていない部分をいかに観察して、当事者の方がお話ししやすくなるように優しく引き出していくかという作業。

ワタ:私は「エスノグラフィー」を使ってお客様の業務を分析して課題を報告する仕事をしているんですが、似てますね。観察対象者に1日はりついて、出社前から待機して、どんな電話がかかってきてどう話したか、すべてメモに起こしていく。⁠今、こう感じたから。そうされたんですよね?」という質問もします。本当に一日そばで観ているので、彼女かというぐらい(笑⁠⁠。途中から、一挙手一投足が分かるようになって、考えていることがどんどん伝わってくる。その人が何を感じているか、言葉にはなっていないものも、体を通して聴いている感じがしています。

田中:メディエーターのトレーニングでも、当事者の人が書類を机の上でトントンと整えたり、ペンをポンって投げ出したりする動作を観るんです。⁠耳で聴く」を超えて、⁠聴」という字を分解した「耳と十の目と心」で観察している感じ。

ゆに:今日は身体を通して、⁠言葉になっていないことを聴いてる」人達が集まっている気がしてきました!

[本気で聴く]には、体力いります

奥山:ゆにさんがさっきおっしゃってた「体力温存してのぞむだけ」というのが面白いなって思ったんですけど、⁠田中さんに)やっぱり体力いりますよね、ものすごく。

田中:すっごい体力必要です。座って聴いてるのに。

ゆに:(笑⁠⁠。そうですか。

奥山:いっぱい寝ていかないとだめだって考えてらっしゃいます?

田中:そうですね。

奥山:やっぱり(笑⁠⁠。

ゆに:奥山さんは、言いたくないことまで言わされるっていうのが象徴的で(笑⁠⁠、溜まるんでしょうねー。

奥山:すごーく溜まっていくときがありますね。

ゆに:田中さんは、かなり吐き出せないのでは?

田中:吐き出さないですね。たとえば「2階の洗濯機の音がうるさい」という苦情なら「防音マットつければいいじゃない?」と、ここまで出かかるんですが(笑⁠⁠。

全員:(笑)

田中:自分の価値観と違う部分を認めていかなければいけない部分はきついですね。それを2人同時に目の前で話をされていても、⁠でもさ」と言えない(笑⁠⁠。

奥山:私も本当に口出しができない立場なので、それでも何か抵抗ができると思うのは、「この人は話が整理できる人だ」というのは参加者の中で見えるときがあるんですね。そうするとその人に、目線で発言をうながしてます。

田中:(笑⁠⁠。ビーム送ってる。

ゆに:わかります!「あなたがいないと場がまとまらないのよ」っていう。私もそういう人がパーッと見えてきます。

ワタ:会議に参加していて、「あの人が会議にいると確かに違う」という人がいて、私もああなりたい。では「自分がそこに辿り着くには何が必要なのか」というと、それが見えなくて。「それってどういうスキルなのか?」というのが分解できない。

ゆに:それをきっと皆が知りたがってるね。

(そのヒントを探して、つづきは次回に)

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