[聴く]を仕事にする女性達との三者座談会。座談会の最後に,“聴く力をどうやって養うか”というテーマについて語られました。
- 座談会参加者:
- ●通訳者 奥山ちとせさん(以下,奥山)
- ●メディエーター 田中圭子さん(以下,田中)
- ●グラフィックファシリテーター やまざきゆにこ(以下,ゆに)
- 〇読者代表&記録係り ワタナベアキコさん(以下,ワタ)
- 〇オブザーバー 本連載担当 タカハシさん(以下,タカ)
※それぞれのプロフィールは,第23回をご覧ください。
ゆに:効率性やスピード重視の[話し手市場]とは対照的な[聴き手市場]が,これからの企業に新たな流れを起こしていくと思うのですが,どうでしょう?

会議室のキーマンになるであろう[聴ける人]
ワタ:「その人が言いたいことと,その人が本当に聴いてほしいことは違う」というのは結構大きなキーワード。「会議であの人がいると進むぞ」という本当のキーマンは「あなたの聴いてほしいことはこうなんですよね」というのを言ってる気がします。実際わたしの職場にも,「○○さんが今言いたいのはこういうことで」という整理をよくしてました。
ゆに:あえてそれを「[聴く力量]がある」と評価したいんだけど,まだまだ世の中的にはその力量をフォーカスされてはいないよね。
ワタ:資格とかもないし,認定はされてないよね。それに,わりとそういう人は会議中に頻繁にしゃべらない傾向にあると思うんです。
ゆに:確かに。
奥山:おそらく,聴くことに集中している…。
ゆに:同じように,もつれたものをほどくのが好きで,黙って聴いてる…。
ワタ:そして,ほどいている間に会議が終わる,みたいな。
ゆに:一見すると,リーダーシップがないように思われている人も多いかも。
田中:人から言われたりもしますよね,「黙ってるね」って。でも,黙っている時間も,メディエーションでは大切にしています。「この人はなんで沈黙しているのかな? 何を考えてらっしゃるのかな?」と観察している。沈黙がこわくてつい話したくなっちゃうけど,話せばいいわけではないですよね。
ゆに:うんうん。寡黙な人が言う一言のほうが,すごい筆が進むという体験は何度もあって。その絵を後から見た社長が「これだよ,これ」って指差すということも本当にあるので。
ワタ:プレゼンの仕方とか「話す」ことなどは会社でも教わるけど,「聴く」ということは教わらないですよね。この「聴く」は,コーチングで習う「傾聴」とも違うものだと思うんです。なにかこう,「生で流れている発言に対して,どうクリティカルな発言をしていくか」「聴いて消化したうえでどうアプローチしていくか」というもの。これを手探りでも,みんなでやっていかないといけない状況になっているんじゃないかと思うんです。
"養成ギブス"のおかげで,[聴ける人]になれる?!
田中:私がメディエーターのときは,事前の受付時の相談情報は一切入れないで無の状態でのぞみます。聞いてしまうと,こうしたほうが良いんじゃないかとか,自分の先入観がどんどん出てきてしまうので。あえて無の姿勢で,初めてその方に耳を傾けられる状態をつくっていきます。
ワタ:メディエーターさんと,エスノグラフィーのフィールドワーカーは似ているかもしれないですね。私も事前準備はしないんですよ。先入観を入れていかない。観たものからしか言わない"事実起点"のルールがあります。
奥山:私は,事前に分からないことは徹底的に勉強していきます。ちょっとでも頭の中にないと,言葉として聴き取れないんです。あるいはその言葉が出て来ても信じない。「それウソ!(そんなはずがないから聞き間違いだ)」って思って拒否しちゃう。特に,言葉以上に概念を知らないと怖い。だから,事前の勉強は,いつも怖いくらい必要だと思う。
ゆに:私は奥山さんとまったく同じ。奥山さんはそれだけインプットして,当日聴くときに,田中さんのように気をつけていることありますか?
奥山:ゆにさんも連載で「たくさん準備していって,その場になったら白紙」って書いてらっしゃいましたよね。私は「先取り」しないようには気をつけてますね。先に知っているものが聞こえてくると,嬉しくて飛びついちゃうんです。「あ,あれを言うだろう」「だって事前資料にこう書いてあったから」と。でも,それで言い始めたら違ったというときがあるんです。何度か失敗したことがあって。
ゆに:私は事前情報から自分なりの仮説まで,目一杯持ちこんで会議にのぞみますが,即時に絵にしなければいけないという"養成ギブス"にはまっているので,嫌でも全て真っ白にならざるをえない。"養成ギブス"のおかげで,こんな私でも聴けるんだ,とも思います。みなさんにも,そんな養成ギブスみたいなものって何かないですか?

田中:メディエーターという役が養成ギブスになっているんだと思います。自分の先入観や提案というものをできるだけ引っ込めて,相手の話を「聴かなきゃ聴かなきゃ」という部分はまさしく養成ギブス。海外の先進国は受付もメディエーターも一緒の人がやるんです。でも,ゆにさんみたいに,いっぱい事前情報を入れても,その場では白紙になれる状態までいかないと本当に難しい。
奥山:私は人が話したら,とにかく反対の(もう一方の)言語で言わなきゃ!(笑)。
ゆに:脊髄反射,ですね。一緒だ(笑)。
奥山:誰かが何かを言ったら「反対(もう一方の言語)にしなきゃっ」と思っているあまりに,それに必死になっていると,本当になんかもうただただ,たれ流し状態で「それは訳さなくていいでしょう」って苦笑されたりする(笑)。
ゆに:(笑)。でも,だからこそ「降りてくる」んだと思いませんか?
奥山:それはあるかもしれないです! 「自然に入って来るような状態」。でも私はそうなるまで,結構立ち上がりの遅いところがあるから,長丁場のほうが好きなんです。
ゆに:わたしの「降りてくる」という状態は,耳から聴いたものが,脳に行かず,ダイレクトに筆にドーンと届いて動いているとき。まさに脊髄反射。たまに「色使いにどんなルールを決めて塗っているんですか」と聞かれるんですが,頭使って考えて使い分けてる暇なんてなーい!
奥山:よく分かる(笑)。
ゆに:でも逆に,脊髄反射で塗った色を後から見直すと,似たようなものはちゃんと同じ色で描いていたり,それが本質だったりするから,常にその域でいたいなとも思います。
ワタ:"養成ギブス"か~。それがあるから,全ての発言を公平に扱えて,話し合いを客観的・俯瞰的に見ることができるんだろうな。だからこそ時には参加者よりも早く議論の本質や課題に気づくこともある。まさにそれは「あの人が発言すると何かが違う」に該当するスキル。「第三者」の視点で話し合いに参加していると思っていた3人が,「話者」の視点になりきって話を聴いていることが本当によく分かる。


