モヤモヤ議論にグラフィックファシリテーション!

第48回 会議室で[絵巻物思考]を使って,会議の流れを変える人になる練習問題

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[本当の顧客]のことを話し合っているか

その話を[表情+セリフ]に描こうとする作業は,⁠本当の顧客]のことを思い出させてくれます。そのときに「そもそも,だれを描けばいいのかわからない」と思えたら,⁠本当の顧客]については誰も語っていない証拠です。

そんな[だれ(人⁠⁠]が描けない議論は実際,とても多いです。次の話も,よくある[だれが(人⁠⁠]が描けない困った議論。ある営業部門長からの相談でした。

  • 「新しいサービスをクライアントに提案しても,なかなか成約につながらない」
  • 「十分な説明をしているつもりだが,どうもクライアントの心に刺さっていない」

営業パンフレットには次のように書かれていました。

「当社のクラウドサービスで御社のワークスタイルの変革を促進します」

営業部門長のもう1つの悩みは「営業しているメンバーも,サービスの価値を伝えきれていない」⁠営業しているメンバー自身が言葉では説明できても,そもそも何が本当にいいのか腹に落ちていないようだ」とのことでした。

さて,あなたならどんな絵を思い描いて,どんなアドバイスをしますか? こんなモヤモヤからは早く抜け出して,もっと大事な人[本当の顧客]について語り合ってほしいです。

まず,営業部門長やメンバーの方たちが,なぜモヤモヤしているのか。⁠表情+セリフ]を描いてみようとしたら見えてきます。ここでも注意点は,商品説明をする営業マンの[表情+セリフ]や営業を受けているクライアントの[表情+セリフ]を描くのではありません。営業パンフレットに書かれている「提案の中身」を絵にしようとすることです。

すると,今の提案のままでは「絵に描けない……」が正解です。⁠ワークスタイル」という[人]の話をしてるのに,⁠人]は描けませんね。このサービスの価値を享受する[本当の顧客]はだれか? そのサービスでだれがどう嬉しいのか?

このサービスで本当に喜んでほしい[本当の顧客]は,⁠ワークスタイルを変革したいクライアント企業の社員]のはずですが,今の提案の言葉だけでは,絵筆は迷います。⁠御社のワークスタイルの変革を促進します」と言われても「うちの社員の働き方がどう変わるの?」⁠それで彼らはどう嬉しいの?」という疑問しか出てきません。

具体的な絵に描けない提案は,クライアントにもイメージが湧いていない。⁠生産性が上がります」と言われても,従業員が喜ぶ姿が思い浮かばない限りは「それイイね!」と即答できないのも想像がつきます。

[本当の顧客]である[ワークスタイルを変革したいクライアント企業の社員][表情+セリフ]が描けたら,クライアントの心をつかむ話ができるはずです。そのためにも[本当の顧客]についてもっと具体的に語り合う必要があります。そこで,営業部門のメンバーの方々に次の質問をしました。

  • 「クライアントさんは,今現在,社員のみなさんのどんな働き方に困っているのでしょうか」
  • 「このサービスで, 社員のみなさんはどんな嬉しい働き方に変わるのでしょうか」

すると,皆さんは「う~ん」⁠悩みはクライアントによって色々違うから……」と黙ってしまいました。

しかし,個別の絵を描けてこそ,クライアントの心に刺さります。

これまでの営業スタイルは,一方的にシステムや機能の提案をしていたそうです。それを,まずはクライアントさんにヒアリングから始める営業に変えてみてはどうでしょう。

従業員のみなさんが今の働き方で「どんなことにうんざりしているのか/何に困っているのか/イライラしているのか」まずは聞いてみるのです。特に[ネガティブな表情+セリフ]「感情を共有」してみると,その中には必ずその会社のクラウドサービスで解決できることがあるはずです。そうすれば,これまでの「生産性を上げます」といった一般的な営業トークとは,まったく違う言葉を伝えられるはずです。

[人]の話をしているのに[人]が描けない[絵筆が困る会議あるある]

[人]の話をしてるのに[人]が描けないという現象は,多々会議で遭遇します。でもここまで多いと,正直「描けないのは,それはそれでしょうがない」と思います。それよりも,⁠人]が描けない議論をしていることに「いち早く気づけて軌道修正できること」がとても大事だと思えてきます。

その「気づける感度」を上げるために練習問題をもう1つ。みなさんの会社でも無意識のうちにやってしまっているかもしれない会議です。⁠人材]の話をしてるのに[人]が描けない。次はある外資系企業の中長期戦略会議での実話です。

「新規事業を立ち上げるにしてもリソースが足りない」

「じぶんの組織のHC(ヘッドカウント)を確保するのもやっとなのに」

ある役員から新規事業が提案され,それに対して多くの事業部長から反対意見が出た場面です。⁠リソースが足りない」とはここでは「人が足りない」という意味です。⁠HC」とは「ヘッドカウント」の略で,つまり頭数,雇える人数の上限を意味します。その会社では全員が当たり前のように「エイチシー」と呼んで使っていました。賛成合意を得られないまま議論は難航していました。

さて,このゴールのみえない話し合いから抜け出すには? ⁠絵巻物思考]を使って,どう話し合いの流れを変えましょうか。まずは,どんな絵を描きますか。事業部長たちが[足りない,確保したいと思っている人]はどんな[表情+セリフ]に描けそうですか?

この時点では,今回も「絵に描けない」と思えたら正解です。⁠人]の話をしているのに,主役である[人]についてだれも何も喋っていないのですから,⁠だれを描けばいいのか」が想い浮かばなくて当然です。

ちなみに実際の現場では,延々と続くやりとりの中,わたしの右手は次のようなこんな絵を描いてしまいました。

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もはやイタズラ描きに近いですが,ソース瓶やダルマしか描けず,いつまでも[人]が描けない……。さすがに絵筆が苦しくなり,議論の最中に手を挙げて助けを求めました。⁠頭数って,……それって,だれでもいいんですか!?」と。

その新規事業に「どんな人材」が必要なのか。⁠だれが」どんな活躍をしているのが嬉しいのか。そんな話からもう一度議論し直してみてほしい。

無意識のうちに[人][人]として扱っていない。こうした議論は本当に多いのです。⁠人]に共感してもらえないと実行されない話をしているのに,悲しいことに[人]を忘れた[人]が描けない会議。

「議論が迷走しているな」とか,⁠不毛だな」⁠辛いなこの議論」と感じたときに,⁠あれ?[本当の顧客]について話をしていないぞ」ということに気づけることは,今,多くの会議で求められている視点の1つだと思います。そして同時に,議論の中身を[本当の顧客][表情+セリフ]が描ける会話に変えていくことは,プロジェクトで求められている未来に導くリーダーシップの1つだと思います。

著者プロフィール

やまざきゆにこ

様々な議論の現場で,グラフィックファシリテーション(=グラフィックレコード+グラフィックフィードバック+グラフィックダイアログ)を実施する。300人超のシンポジウムから,企業も国籍も違う参加者の集まる研究会,組織を横断したプロジェクト,経営者・リーダークラスのビジョン研修,組織研修,顧客との協働プロジェクトなど多岐に渡る。企業・組織の事業判断・意思決定,プロジェクトや個人の意識・行動変革の一助になればと"絵筆を持って"活動中。

グラフィックファシリテーター(graphicfacilitator)は,やまざきゆにこの商標登録です。

グラフィックファシリテーション.jp:http://www.graphic-facilitation.jp/

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