モヤモヤ議論にグラフィックファシリテーション!

第50回 分り合えない会議こそ「悲しみ」の共有を 〜気持ちを汲み取る究極のグラフィック「ナミダ」

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「ナミダの声」を聴き出す練習:あなたは本当はどうしたい

あなた自身の,じぶんの「ナミダの声」にも耳を傾けてみませんか。あなたの目にもナミダを描いたら「もしかしたら泣いているかも……」しれません。そして同時に,じつはあなたが本来,望んでいる関係やありたい状態,本当は欲しいこと・したいことが見えてくるかもしれません。そんな「わたしは本当は○○したかったんだ」という,じぶん自身も気付いていなかった心の奥底の声に気付ける体験は,他の人たちの「ナミダの声」に耳を傾ける練習にもなります。

作業としては簡単です。ノートと鉛筆を用意します。そして自分が抱えるネガティブな気持ち,愚痴,不満,不安といった感情を,じぶんのために紙に書き出します。⁠なんとかならないかな」とか「なんだか嫌だな」と,じつは思っていることはありませんか。普段じぶんでも意識していない「モヤモヤしている気持ち」を探る作業なので,どんなことでも構いません。思いつくまま,感じるまま,筆の進むまま書いてください。

ネガからナミダ

ネガからナミダ

ポイントは書く内容が「同じことを繰り返す」まで書くことです。つまり「もう特に書くことが無い」という「ネガを吐き出しきった」サインが表れるまで書き出せると,あなたの心の奥底にしまっていた究極のネガ「ナミダの声」⁠たとえば次のような声)が聴こえてくるはずです。

  • 「こっちが何も言い返さないと思って……(ナミダ)⁠
  • 「業者扱いするな。ばかにしやがってー!(ナミダ)⁠
  • 「ワタシだって早く帰りたい!でも投げ出せないじゃない(ナミダ)⁠

注意点として「不満なんて特にない」と思って,ちょっとでもポジティブになると「ナミダ」まで行き着きません。とことんネガティブな気持ちだけを書き出してください。そのうちに「ナミダ」を書きたくなるような,あなたの「本当の心の声」が書ける瞬間があります。

そしてもう1ステップ。そんな「ナミダの声」が書き出せたら,あたなの心が望んでいる本当のありたい姿を次のように「ポジティブな言葉」にひっくり返して言ってみてください。あなたは本当はどうしたがっているのか。

  • わたしは本当は「対等に扱ってほしい!」
  • わたしは本当は「自分に自信がない……。もっと自分に自信を持ちたい」
  • わたしは本当は「自分からアピールできるようになりたい」
  • わたしは本当は「ありがとうと言ってくれるだけでいい……。お互い思いやっている関係になりたい」

ナミダからハート

ナミダからハート

人を動かしたければ「プレゼン上手」より相手の気持ちの「汲み取り」上手に

その人が「発している言葉」「本当の気持ち」は必ずしも同じではなかった。それをわたしは絵筆から教わりました。特に,ネガティブな発言をする人ほど,じつはその状態を一番「なんとかしたい」と思っている人でした。怒っている人ほど,じつは本気で未来のことを思っていました。でも,周りの人には伝わらなくて……心の中で泣いていたのです。

そこで提案です。相手の気持ちの「汲み取り上手」を目指してみませんか。

一般的には「プレゼン上手」を目指そう,努力すべきは「聴き手」より「話し手」という風潮があります。しかも「伝えるのが下手」だと「何を言いたいのかわからない」と切り捨てられやすい世の中です。けれど,これまで300を超える会議に立ち合ってたくさんの人のプレゼンを絵にしてきましたが,正直「プレゼン上手」なんて……まずいませんでした。それどころか,その逆に「うまく言葉にならない」会話にこそ,本当の問題や本質的なこと,本物の心が描けてきました。簡単に解けない問題を扱っているときほど,その傾向がありました。

多くの会議が今もなお,お互いが「伝え合う」ばかりで,⁠分り合えない」ままプロジェクトが進んでいます。でもそろそろ,相手の本当の気持ちを「汲み取る」人たちも増えていかないと,いつまでたっても先に進めないと思うのです。⁠話し手」としてではなく,⁠聴き手」として一度黙って「相手が言わんとしていること」「汲み取ろう」としてみませんか。きっとこれまで遅々として進まなかった案件やバラバラなメンバーが,驚くほど1つになって前に進むはずです。

私自身,まだ絵筆を持たない会社員時代,⁠何を言いたいのかわからない」と言われてきました。それが今の仕事と出会ったことで「驚くほどわたしの話を聴いてくれる」という体験をするようになりました。何が起きていたのか。それは「人の話を絵に描く」というのは,相手が「本当は何を言いたいのか」「汲み取ろう」とする作業の連続にほかならなかったのです。黙ってまずは相手が言いたいことを「汲み取ろう」としたら,わたしの話も聴いてくれる,しかも伝わる,そして分り合えるようになったのです。うれしい誤算でした。

相手を動かしたければ,自分が言いたいことを「伝える」ばかりではなく,まずは「黙って聴く」⁠そして「その人が本当に言いたいこと(気持ち)⁠「汲み取る」⁠これも1つのビジネススキルだと思うのです。

グラフィックで「意見」ではなく「気持ち」を共有

これまでの連載でお伝えしてきたグラフィックファシリテーションの基本ツールは,いずれも「気持ちを汲み取る」グラフィックです。汲み取るのは「意見」ではなく「気持ち」であるところがポイントです。

  • 「9つの表情+セリフ」第47回
  • ネガポジ曲線に描ける「モヤモヤ」第41回「ハート」第40回
  • そして今回紹介した「ナミダ」

腹落ち感のない会議や,気持ちが1つになっていないプロジェクトがあったら,これら第三のコミュニケーションツール「グラフィック」を持ち込んでください。⁠情報の共有」はされているけれど「感情の共有」がされていない,言葉や文字だけの会議ではじつは「みんなの気持ち」はおいてきぼりにされています。だからどこか実行力が伴わないのです。毎回でなくてもいいのです。一度でもいいので,メンバーの「気持ち」やカスタマーの「気持ち」「汲み取る」時間をとってみてください。その会議やプロジェクトがこれまでとはまったく別物になって前進するはずです。


さて,次回,じつは最終回となります。これまで不定期便にも関わらず読んでくださったみなさま,本当にありがとうございました。最終回では,ダウンロードしてぜひ使ってほしい「ワークショップ事前設計シート」を紹介します。

「プレゼン上手」よりも,相手の気持ちの「汲み取り上手」になってほしいと,基本のグラフィックを紹介してきましたが,組織単位や地域単位の「大勢の人たちの気持ち」「汲み取る」には,その前に「引き出し上手」になる準備が不可欠です。実際わたしがお手伝いするGFの現場も,多くは本音どころか感情を押し殺して論理的に「意見」を交わす左脳会議に慣れた人たちの集まりです。そんな「大勢の人たち」「気持ち」を語ってもらうには,前もって主催者とはいろいろ作戦を練っているわけですが,そんなウラ話を紹介できればと思います。

著者プロフィール

やまざきゆにこ

様々な議論の現場で,グラフィックファシリテーション(=グラフィックレコード+グラフィックフィードバック+グラフィックダイアログ)を実施する。300人超のシンポジウムから,企業も国籍も違う参加者の集まる研究会,組織を横断したプロジェクト,経営者・リーダークラスのビジョン研修,組織研修,顧客との協働プロジェクトなど多岐に渡る。企業・組織の事業判断・意思決定,プロジェクトや個人の意識・行動変革の一助になればと"絵筆を持って"活動中。

グラフィックファシリテーター(graphicfacilitator)は,やまざきゆにこの商標登録です。

グラフィックファシリテーション.jp:http://www.graphic-facilitation.jp/

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