産業カウンセラーの活動概要

第4回 ある社員の事例~働く女性の不安~

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前回は中堅社員の事例についてご紹介いたしました。今回は様々な不安を抱える女性社員の事例についてご紹介します。特定の事例ではなく,いくつかの似た事例の中で共通した部分について取り上げます。

事例3:30代女性社員,Cさん

  • 「Cさん(IT企業に中途入社の中堅社員。30代女性。一人暮らし)⁠

3年前に前職と同じIT関連企業へ転職。前職での実績を評価され,プロジェクト進行管理兼マネジメント職となる。入社から3ヵ月経った頃から月100時間を超える過重労働となる。仕事に大きなプレッシャーを感じながら,ときには不眠不休で働いた。入社10カ月後に体調不良を訴え仕事を休むようになりうつ状態となる。同時に持病である婦人科系疾患が悪化し,療養のため休職。持病の治療と働き方の見直しをし,過重労働が解消され復職し現在に至る。

過酷な労働を耐えてきた男性から女性に向けられるプレッシャー

“だから女性にはマネジメントはできない⁠――このような言葉を直接女性に言う人はいないでしょう。しかし,女性には口には出されなくともこのような言葉を敏感に感じ取っています。

平成18年に男女雇用機会均等法が改定されて久しく,平成22年の改正次世代育成支援対策推進法の施行など女性の社会での活躍が促されていますが,現実には日本はまだまだ男性社会だと感じます。管理職における女性の割合を30%まで引き上げることが目標とされていますが,現状は11.1%(2011年)と依然低いままです。

その要因の1つは,男性から女性へ向けられる無言のプレッシャーだと著者は考えます。

朝は誰よりも早く出社し,夜は誰よりも遅くまで仕事をし,いつ何時起こるかわからない突発的なトラブルの対応に追われ徹夜で働いている管理職の方をよくお見かけします。

Cさんの職場でも不眠不休の管理職が仕事を支えていました。女性の管理職はCさんの他に2人いましたが,その2人も他の男性管理職と同じ働き方をしていました。

中途入社でマネジメントの役割を任されたCさんも他の管理職と同じように,早朝から深夜まで働き,自宅に帰ることができるのは週に何日かしかありませんでした。慣れない職場でプロジェクトを成功させるため必死でした。ですが過酷な労働に耐えられるのはせいぜい3ヵ月程度で,そのあとは仕事の能率がどんどん落ちて行きました。

そうなると残業時間はさらに膨れ上がり,マネジメント不全に陥り,本来部下に指示を出すべき仕事を徹夜でCさんがやらなくてはいけなくなるほど状況が悪化しました。

実はこの段階になっても,Cさんの部署の部長や他の管理職からは何のフォローもありませんでした。事態の異常さに気が付いた人事部が介入し改善の改良へ向けて活動を開始しました。なぜ周囲はCさんの異変に気が付かなかったのでしょうか。

“俺は今よりももっとひどい徹夜続きが当たり前の過酷な環境で働いてきて,やっとの思いでマネージャーになった。女性管理職だからといって早く帰るなんて許せない。同じくらい自分を犠牲にできなければ,俺達と同じ管理職とは認めない⁠といった男性管理職からの反発や,同じ女性同士であっても,⁠Cさんは私たちと違って管理職だから,他の女性社員の誰よりも苦労をして当たり前⁠といった嫉妬の感情が過重労働を見過ごしてしまうことがあります。

Cさんは男性社員からも女性社員からも孤立し,人事部が面談を実施した際には,周囲に相談できる社員もなく,とにかくプロジェクトの成功だけを考え今の辛い状況を耐えるしかないと思い込んでいました。そこで人事部,産業カウンセラー,産業医などの第三者が介入し,ヒアリングや面談を行いました。状況は未来に対して変えられること,仕事では出来ることと出来ないことを明確にして責任を1人で背負わないこと,自己犠牲をしないことなどについて考えていただきました。

同時にCさんの上長に現状を報告し,過重労働の原因を調査したところ,本人の能力が足りずに長時間残業となっているという回答でしたが,その後の調査で上長が業務の相談を受けていたにもかかわらず一切フォローをしていなかったことがわかりました。ここにも嫉妬の感情があったのかもしれません。部門長に調査結果を報告し勤務状況の改善の申し入れを行い,ようやく負荷分散ができ,徹夜続きの日々から抜け出すことができました。

母性の保護は社会の役割

企業は母性の保護を行う事が労働基準法により定められています。具体的には産前産後休暇,育児休業,深夜業の制限等があります。母性の保護の対象は妊娠中・育児中の女性に限りません。深夜時間帯の労働は人間の身体のリズムに反し,女性だけでなく男性にとっても健康を害し,生活リズムが乱れます。深夜の連続勤務や徹夜続きの働き方はとくに深刻で,健康や母性機能を損なう危険が指摘されています。出産を控えた女性だけでなく,一般の女性についても健康上または深夜帰宅の防犯上の観点からも必要な措置を行い保護することとなっています。

女性が出産・育児を理由にして差別されることなく,次世代を育む母性を保護することは社会の役割であるという認識は徐々に広まってきていますが,Cさんの職場のように時代錯誤な考えが残っているところもあるのが現状です。人事部や管理職の方は現在の法律がどのようになっているのか,就業規則ではどのような規定があるのかについて社員へ周知し,母性の保護について啓蒙することが求められます。以前は女性のみの保護でしたが,現在は男女ともに時間外労働について制限が設けられ,女性も男性も働きやすい職場づくりが進められています。

著者プロフィール

夏美

都内IT企業に勤務する産業カウンセラー。

大学で社会心理学を専攻し,卒業後はパーソン・センタード・アプローチを学ぶ。

現在,メンタルヘルスケアの他,労務・人事・経理を担当。入社から退職までに起こる様々なライフイベントに寄り添えるよう日々勉強中。

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