情報整理の新パラダイム

第2回InfoPileのインパクト――2010年に向けた情報整理ツール

前回は、情報が⁠あちら側⁠にも⁠こちら側⁠にも溢れていること、情報の奔流の中で情報を整理し有効活用することは重要であること、デスクトップ上の情報はアプリケーション主体で分離していること、キラーアプリケーションであるメーラは課題が多いことを書きました。まとめの今回はタグ、オフィスファイルの管理、情報共有に対する考察のあとで新しい情報整理ツールをご紹介します。

タグ

“タグ⁠による情報の意味づけはWeb 2.0での新たなアプローチとして認知され、一方、従来からの⁠検索⁠はインターネット上、デスクトップ上において高速となり情報探索の汎用的な方法として定着しています。

では、⁠タグ⁠によるアプローチの利点はなんでしょう。⁠検索⁠は検索キーワードが「情報に含まれる文字」であることに対して、⁠タグ⁠はその情報を区分けするための意図的な付箋であり、目印です。一般の商品についている値札もタグといいますね。昔、ジュエリーの販売管理システムに携わったとき、商品の見栄えを損なわないよう精度の高いバーコードリーダを利用してタグを最小化したことがあります。商品に付けるタグは限られますが、コンピュータの世界では複数の目印を付けることに何の問題もありません。ファイルではこのような意図した情報としてファイル名を利用することがありますが、複数付与することはできませんし、情報として括られる単位に意味付けをするタグとは異なります。

また、エクスプローラに代表されるファイル管理ツールやメーラにおいては、情報を整理する手段としてフォルダ、ディレクトリという階層管理の方法が定着しています。WindowsのコントロールとしてはTreeViewが一般的です。階層管理は一次元の管理です。フォルダが情報の集合場所となり、フォルダを越えた集合はできません。その点、タグは多次元の管理と言えるでしょう。意味を持った複数の串(タグ)で串刺しをして集合を得ることができます。タグの持つ情報整理の有効性、可能性は大きいのですが、まだタグがデフォルト、誰もが当たり前に利用するといった状況にはなっていないでしょう。だからこそ、標準に運用され習熟された時を期待したいですし、楽しみなのです。

オフィスファイル(Excel、Word、PowerPointなど)管理の課題

たとえば、Excelで見積書を作成し「見積書」というファイル名で保存する、これを別の作業者が開き一部を修正し「見積書(修正⁠⁠」として保存する。この時点でふたつのファイルは別ファイルとなり、関係性は任意に付けられたファイル名からの類推しかありません。PCもワープロもないころ、こういった作業は紙の上での添削作業でありどこを直したのか、添削前も添削後の記述も目視が可能でした。また、それが分かるように、査閲できるようにしていたかと思います。

Wordは文書に特化しているため添削機能を持っていますが、他のオフィス製品においても「同じファイル名で版管理」ができることのニーズは多いのではないでしょうか。また、個人作業においてファイルを修正してファイル名を変えて保存する、日付をファイル名に含め後の視認性を担保することが多いですね。結果、前のファイルは不要な堆積物となりPCのハードディスクはゴミファイルで溢れることになります。

情報の共有

前回も少し触れましたが、文書管理、文書統制といったシステムを多くのベンダー企業が提供しています。サーバ側に文書を登録することで権限設定や共有によりグループ、部門、企業において有効活用できるというものです。しかし、最初から「強制も含めた参加型」での共有よりも、⁠こちら側⁠に溢れている情報があり、前回の冒頭質問で提起したようにデスクトップでの情報活用作業の改善をし、溢れている情報を効率良く利用することが重要だと思うのです。なぜならば作業時間の多くは個人作業だからです。また、情報活用に対する個人の作業意識の改善は部門、企業へも広がりを見せるはずですし、これこそ「参加型のアーキテクチャ」⁠集合知」といったナレッジに昇華し、結果として全体の競争力を大きく高めるのではないかと期待されます。

Web 2.0と同様に参加者の参加意識が重要であることは間違いないでしょう。

「InfoPile」とは

InfoPileは「タスク、行為を目的に情報を整理する」⁠すべての情報を同一に、多次元管理を行う」情報整理の新たなアプローチで、ここまで書いてきた課題を解決するツールです。Python言語で作られており、2009年9月にオープンソースで提供をしました。個人には無償で利用していただきたい、ソースを公開することで多くの方にイノベーションを委ねたいとの考えもあっての提供です。

InfoPileの情報整理方法

メーラと同じUI

次の画面イメージを見てください。

図1 InfoPileの画面
図1 InfoPileの画面

この画面は通常のメーラと同じように見えますね。階層管理は、キャビネット-バインダ-ラベルという階層を持つことができます。⁠メール用のバインダ⁠にはデフォルトで「受信箱」⁠下書き」⁠送信済み」⁠迷惑メール」⁠ゴミ箱」があります。振り分けフォルダの下「会員メール」にあるAppleのメールを表示した画面です。このラベルにはメールしか置かれていませんが、オフィスファイルやURLを置くことも可能です。メールに⁠Apple⁠⁠iPhone⁠⁠携帯⁠というタグが付けられています。

タグ検索

次の画面は⁠携帯⁠でタグ検索をしたものです。2つのメールがヒットしました。Googleアラートのウィルコム情報メールは⁠携帯⁠だけのタグ付けです。

図2 タグ検索の実行結果
図2 タグ検索の実行結果

メールのスレッド表示

次の画面は、⁠社内メール」にある⁠ソフトボール大会⁠に関するメールを表示したところです。

図3 ⁠ソフトボール大会必勝メール(その1)⁠に関連するメールスレッド表示
図3 “ソフトボール大会必勝メール(その1)”に関連するメールスレッド表示

社内での実際のやり取りでアドレスなど消してあるためちょっと見苦しくなっています。文面確認できますか。必勝を期したのですが私のチームは負けてしまいました。でも、文面メンバの責任ではありません(名誉のために⁠⁠、監督である私の責任です。

通常のメーラでの「受信箱」⁠送信箱」は郵便ポスト的で郵便局の方との仲介物イメージです。これを保存段階でも利用することには問題があります。

画面右下のビューに閲覧中メールのスレッドが表示されています。ここから前後の送受信内容を確認できます。往復履歴を閲覧できることが必要です。また、受信時にFrom(送信相手)のメールアドレスにより過去の全メールを瞬時に検索表示することができますので、氏名や社名でフォルダを作っておく必要はありません。

なお、InfoPileは他メーラのProxyとなること、中間に位置付けることも可能です。OutlookやBecky、Gmailを利用しながら、情報整理はInfoPile側とすることができます。

スケッチ

InfoPileの特徴的な整理方法の1つに「スケッチ」があります。これは階層管理と併用できます。たとえるなら「仮想デスクトップ」です。フォルダで整理されている実体と別に情報をビジュアルに整理する⁠スケッチ⁠と捉えてください。PCを立ち上げたとき、ファイルなどを置くことのできる「デスクトップ画面」がありますね。ファイルのアイコンで一杯になっているPCを見かけます。本来「デスクトップ画面」は目の前の机、作業のために必要なものを一時的に置いておくものです。しかし、単一であるため無造作に情報が置かれてゆきます。管理、整理されているとはいえません。

スケッチの実行例

次の画面を見てください。

図4 スケッチの実行例
図4 スケッチの実行例

「日本株式会社」というスケッチです。「2008年2月新規取引」といったテキストが書かれており、PowerPoint、Word、Excel、PDFや「日本株式会社 HP」⁠URL)が同一に整理されています。また、⁠今期計画での依頼メール」は単一のメール情報です。日本株式会社に関する作業をする場合、このスケッチ、⁠仮想の机⁠を目の前に展開するわけです。

インターネットのサイト情報もその内容に対して名称を付けお気に入りなどで整理するのではなく、他の情報とともに管理します。なお、スケッチ上でもタグ付けは可能で、スケッチそのものにも付けられます。

「追加機能見積書」にフォーカスがあり、下にはファイルに対するメモ書きが見えます。メモはタグという区分けのための意味づけではなく、その情報に付与するコメント、付加情報です。タグと異なり文章でも良いわけです。

スケッチ機能は、デスクトップを複数持つようなイメージとして、MicrosoftのOneNoteと似ていると思う方もいるでしょう。

なお、スケッチは次のような利用も可能です。

図5 スケッチの応用的な使い方。ポータル的な意図でも操作できる
図5 スケッチの応用的な使い方。ポータル的な意図でも操作できる

上の一番左のアイコンは「検索アイコン」です。⁠未読メール」という名前です。クリックされ下のビューに未読メールが表示されています。アイコンの右には別スケッチのアイコンが配置されており出勤時に開くポータルのような使い方ですね。

業務データの管理

次の画面を見てください。

図6 InfoPileにて業務データを管理
図6 InfoPileにて業務データを管理

「基本設計書」にフォーカスがあり、下に更新履歴が表示されています。このファイルは最初の作成含めて3回の更新があったこと、同じファイル名で3版のファイルが保存されていることが分かります。次に編集する場合はチェックアウトすることで排他制御されます。

オープンソースにおいてはスタンドアロン版ですが、今後のエンタープライズ・エディションではサーバにも対応します。スケッチをサーバにおけば共有化できますから、複数のメンバが1つのファイルを閲覧、改変する場合に有効です。こういった作業は通常メールの添付ファイルで行っていますが、煩雑でありセキュリティ面でも問題があります。

InfoPileが個人から部門、企業まで広がることで、本格的に情報共有、活用、セキュリティ担保といったエンタープライズでの生産性向上に寄与できればと思っています。

InfoPileのまとめ

InfoPileについてまとめますと、

  1. 作業、行為を主体として情報を整理する
  2. すべての情報を同一に、多次元に整理する
  3. オフィス製品・業務データの版管理を支援する
  4. メールを重要なアイテムと捉え情報として独立させない
  5. 個人作業の情報整理から部門、企業の情報共有へ

1回目の冒頭質問はまさに自分自身への質問です。検索スピードこそ向上したもののPC、デスクトップの整理方法は以前から変わっていません。技術者の発想からInfoPileは生まれ開発され、私としても欲しいものでした。しかし、これが完成品ではなく進化の途中だろうと思っています。2回の連載では課題考察で量的に足りていません、また、メールについての課題や問題点はもっと徹底して書きたいのですがそれはまたの機会にしたいと思います。

InfoPileは使ってみて分かることが多いツールです。ぜひ、利用してみてください。そして、コミュニティの中で育てばと願っています。

InfoPile Open Source Project
URLhttp://www.infopile.jp/trac-infopile/wiki/InfoPile

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