IT勉強会を開催するボクらの理由

第7回 エンジニアなら,一生学び続けるのは当たり前――社内勉強会を重視する社風から生まれたドワンゴ主催「歌舞伎座.tech」

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社内勉強会を重視する社風から誕生

このように本勉強会はドワンゴが主催している点が最大の特徴です。もっとも,企業主催セミナーに見られるような宣伝臭は皆無で,手作り感があふれた内容となっています。そこには,どのような背景があるのでしょうか。

もともと中堅SIerにつとめていた清水さん。Javaのエンジニアが集まるコミュニティ「java-ja」の参加がきっかけで転職し,社内システムの開発に従事。その後,ニコニコ動画モバイルの開発責任者を経て,Windowsストアアプリ版「niconico」の開発責任者となり,現在は技術コミュニケーション室の立ち上げに関わり,その室長となっています。部署のミッションはエンジニアの生産性を高めることを軸に,技術広報やエンジニアの採用と教育を行うことです。

「歌舞伎座.tech」開催のきっかけも,本社が歌舞伎座タワーに移転し,100人規模が収容できるセミナールームが設置されたことにありました。以前から自分が主催するセミナーでも,他社の施設を使うケースが多く,悔しく感じていたこともあって,会社に上申していたとのこと。念願叶ってセミナールームの設置が認められたのです。そこでセミナールームの存在を広く知ってもらうために,会社主催の勉強会を開催していくことになったと言います。

同社では社内勉強会も頻繁に開催されています。全エンジニアが参加して,毎週開催されるライトニングトーク(LT)大会をはじめ,部署ごとのLT大会や勉強会,同期や友人間での勉強会や読書会は,それこそ毎日のように行われているとのこと。そのため社外向けの勉強会についても,会社の承認を得るのは簡単でした。他の運営スタッフも,技術コミュニケーション室で手が空いた社員が手伝ってくれています。そもそも同社では裁量労働制を採用しており,業務時間内での活動か否かは,本質的に問題ではないそうです。

「エンジニアが勉強会をやると言ったら,それを止める手立てはないのではないでしょうか。弊社は単純に勉強会で社内の設備(会議室やホワイトボードなど)を使うことについて,何ら問題視していないというだけの話です。そもそもエンジニアという職業を選んだからには,一生学び続けるのは当たり前です。その価値観がエンジニアだけでなく,総務や人事などとも共有できているのが,うちの強みかもしれません」⁠清水さん⁠⁠。

もっとも「社内で勉強会を開催したいが,社員の腰が重い」⁠会社の承認が得られない」⁠社外の勉強会に参加することに,上司がいい顔をしない」といった悩みは,まだまだ少なくありません。一方で清水さんは「技術コミュニケーション室では,技術広報をミッションとしているため,社外向け勉強会の開催は,自分たちの業務範囲内の活動です」と,さらりと説明します。そもそも,こうしたセクションが社内に存在すること自体に驚かされますし,会社の自由な社風が伺えます。

企業はコミュニティと共存できる

一方でエンジニアのコミュニティをどのように盛り上げていくか,そして企業がどのように係わっていけばいいかについては,清水さんもまた試行錯誤中だそうです。コミュニティを活性化させるためには,定期的な刺激が与えられる環境が不可欠です。そこには新しいフレームワークや,新しいテスト技法,新しいサービスなど,さまざまな「燃料」があるでしょう。清水さんは「今回の勉強会で,C++のコミュニティに新しい刺激を与えられたのではないか」と振り返ります。

清水さんもまた勉強会の参加によってエンジニア人生が大きく変化した1人だ

清水さんもまた勉強会の参加によってエンジニア人生が大きく変化した1人だ

このようにコミュニティに対して,企業は新しいサービスや情報を発信するなどして,刺激を与えることができる。または,そうした環境を用意することで,手助けをすることができる……清水さんは,そのように感じています。その一方で「刺激を与えた結果をコントロールしよう」などと考え出すと,一気にコミュニティが崩壊し,メンバーが離れていってしまう可能性が高い……そんな風に釘を刺しました。

講演者で外部の人間とドワンゴ関係者のバランスを取っているのも,意図してのこと。企業主催の勉強会の先輩格としては,BPStudyの活動を参考にしているそうです。今後の抱負は,継続していきたいという一点だと語ります。

「歌舞伎座.tech」を開催する一方で,清水さんはプライベートでも勉強会にも係わっています。自身が立ち上げた「Node.js日本ユーザーグループ」もその1つ。2013年10月26日(土)には「東京Node学園祭2013」を開催し,実行委員長と基調講演をつとめました。年内で代表を交替する予定ですが,今後もコミュニティの一員として活動は継続していくそうです。勉強会の参加はエンジニアの視野を広げるという清水さん。会社とプライベートで異なる勉強会に所属することで,さらに視野が広がるということなのでしょう。

清水さんのエンジニア人生は,勉強会の参加を機に動き出しました。社内という狭い世界しか知らない状態から,世の中には多くの会社があり,そこでいろいろな人々がさまざまな技術を活用していることを知るだけで,エンジニアとしては絶対にワクワクするはず。参加するだけでなく,登壇したり主催したりするようになると,さらに世界は広がっていくと言います。⁠皆さんと勉強会でお会いできるのを楽しみにしています」⁠清水さん⁠⁠。

いま,IT業界やゲーム業界に限らず,多くの企業がコミュニティの重要性に気づきつつあります。その一方で,付き合い方に試行錯誤をしているのも事実。背景には利益を追求する企業と,非営利が前提のコミュニティという,スタンスの違いがあります。この両者をどのように結ぶか。そうした中で,清水さんの取り組みは頭一つ抜きん出ていると言えるでしょう。それはまた,同社が「niconico」の運営を通して,コミュニティとの付き合い方を学んでいるからかもしれません。

著者プロフィール

小野憲史(おのけんじ)

特定非営利活動法人国際ゲーム開発者協会日本(NPO法人IGDA日本)代表。ゲームジャーナリスト。3匹の猫の世話をしながら,奥さんの弁当を作って仕事に送り出す日々。

メール:ono@igda.jp
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