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第11回日本のSI業界にもディスラプションの予感!? cloudpack×インフォテリアのデータビジネスが意味するもの

1月23日、AWSクラウドのインテグレータとして世界でもトップクラスの実力と実績を誇るcloudpack(運営:アイレット)と、企業データ連携製品で国内シェアトップの「ASTERIA」シリーズを擁するインフォテリアが、新しいかたちのパートナーシップを発表しました。AWSが提供するデータウェアハウジング(DWH)のマネージドサービス「Amazon Redshift」をベースに、ASTERIAの新ラインナップである「ASTERIA WARP Core」を組み合わせた「データ分析基盤構築サービス」を、cloudpackが月額23万円からサブスクリプション形式で提供するというものです。今回は、一見よくあるIT業界のいち提携が、国内のSIビジネスにもたらすかもしれないインパクトについて考えてみたいと思います。

今回発表されたデータ分析基盤構築サービスの概要。ASTERIA WARP Core上で連携したデータをRedshiftに渡し、分析後、Tableauなどで分析するインフラをcloudpackが構築/運用するサブスクリプションサービス
今回発表されたデータ分析基盤構築サービスの概要。ASTERIA WARP Core上で連携したデータをRedshiftに渡し、分析後、Tableauなどで分析するインフラをcloudpackが構築/運用するサブスクリプションサービス

クラウドを舞台にしたそれぞれの強み

前述したように、cloudpackが1月23日から提供を開始した「データ分析構築サービス」は、国内の中堅/中小企業をメインターゲットに据えた、Redshiftベースのサブスクリプションサービスです。単純にRedshiftを利用する場合と何が異なるのか、それはユーザ企業の社内に蓄積されたあらゆるデータ ―POS、ERP、Webログ、その他の「なんとも表現しようがない"行儀の悪い"データ」⁠cloudpack 執行役員 エバンジェリスト 後藤和貴氏)まで含めたすべてのデータを、Amazon EC2上に実装されたデータ連携ツール「ASTERIA WARP Core」上で連携し、データをCSVやJSON形式に変換してからRedshiftに渡すというプロセスを取っている点です。

Redshiftで分析後はTableauなどの外部BIツール、もしくはAWSのマネージドBIサービスである「Amazon QuickSight」を使って分析結果を可視化できます。つまりデータの統合/連携から分析、可視化に至るまでのサイクルをすべてクラウド上で完結させることが可能になるのです。cloudpackはこのサービスのインフラ構築/運用をユーザ企業に提供します(場合によっては初期インテグレーションの必要あり⁠⁠。

サービスのシステム構成。顧客のデータはEC2上のWARP Coreに集約され、インポートやバックアップ用にS3ストレージに格納、分析用のデータがRedshiftに送られる。バックアップやスケールアウトなどインフラ周りのメンテやRedshiftの運用はもちろんcloudpackが行う
サービスのシステム構成。顧客のデータはEC2上のWARP Coreに集約され、インポートやバックアップ用にS3ストレージに格納、分析用のデータがRedshiftに送られる。バックアップやスケールアウトなどインフラ周りのメンテやRedshiftの運用はもちろんcloudpackが行う

インフォテリアのASTERIAシリーズは「社内に存在する各種システムやデータ、さらにはクラウド上に存在するデータを"ノンプログラミング"で連携するツール。異なるコンピュータ間のデータをつなぎ、やりとりを円滑にする"通訳"のような存在」⁠インフォテリア ASTERIA事業本部長 熊谷晋氏)として、2002年の販売開始以来、業種業界を問わず高い評価を受けており、⁠TOPIXに名前を連ねる企業の半分以上はASTERIAを導入している」⁠熊谷氏)と言われています。あらゆる機能を見た目にもわかりやすいアイコンとして表現し、そのアイコンを並べてデータ連携を定義することでフローサービスを構築できるため、IT部門のユーザだけでなく、プログラミングの知識をもたない業務ユーザでも使いこなすことができる点が、ASTERIAシリーズの最大の特徴とされています。

アイコンをつないでいくだけでフローを構築できるデータ連携ツールとしてIT担当者だけでなく業務ユーザからの人気も高い
アイコンをつないでいくだけでフローを構築できるデータ連携ツールとしてIT担当者だけでなく業務ユーザからの人気も高い

しかし、ASTERIAシリーズは基本的に年商数百億円以上の企業を対象にしており、標準機能を備えた「ASTERIA WARP Standard Edition」でも480万円からという価格設定のため、中小企業などでは導入が難しいという側面がありました。とくにパブリッククラウドの導入が中小企業でも一般的になりつつある現在、クラウドでの利用も可能で、より広いユーザ層に訴求できる価格帯のサービスは確実に求められるようになります。そうしたニーズから2016年10月にリリースされたのが、月額3万円から利用可能な、データ連携の基本機能(コア)だけに絞った「ASTERIA WARP Core」です。大企業向けのパッケージ製品のイメージが強かったASTERIAシリーズですが、ASTERIA WARP Coreに限って言えば

  • 機能追加もセキュリティ対応もオンラインアップデートで
  • テンプレートを利用し、ウィザードに従って選ぶだけで業務の自動化を実現
  • 60以上の追加アダプタでスケーラビリティを担保
  • 月額3万円から利用できるので部門経費での決済も可能

といった特徴を備えており、まさにクラウドファーストな時代に則したデータ連携ツールだといえます。

本サービスはすでにユースケースとして、あるショッピングモールでの来店者導線分析に使われており、⁠1ヵ月で33.8万台のスマートフォンから3500万件のログデータを取得、データサイズを10GBから2GBに圧縮し分析」⁠後藤氏)したのち、いくつかの分析データが上がっています。

インフォテリアがAWSやCisco、Tableauとともに展開しているプロジェクトの一例。大規模ショッピングモールのユーザデータをクラウド上で連携し、Amazon RDS for MySQLで分析する
インフォテリアがAWSやCisco、Tableauとともに展開しているプロジェクトの一例。大規模ショッピングモールのユーザデータをクラウド上で連携し、Amazon RDS for MySQLで分析する

見えてきたパートナーシップの新なた形

AWSクラウドの事情に詳しい方ならご存知でしょうが、cloudpackは国内はもちろん、世界的に見てもAWSクラウドのインテグレータとして非常に高い評価を受けている企業です。AWSの年次カンファレンス「AWS re:Invent」では毎年、AWSのパートナー企業の中でも最上位のコンサルティングパートナーである「AWSプレミアコンサルティングパートナー」を発表していますが、第1回の「re:Invent 2012」以来、5年連続でプレミアコンサルティングパートナーに選ばれている企業は国内ではNRIとcloudpackのみです。

参考までに、AWSはプレミアコンサルティングパートナーの認定条件として「APNコンサルティングパートナーの中でも世界トップレベルであり、AWSを使用した業務に一定以上の実績を上げ、AWSでの顧客ソリューションのデプロイに豊富な経験を持ち、トレーニングおよび認定済み技術コンサルタントが多数在籍し、少なくとも1つのAPNコンピテンシーを持ち、プロジェクト管理の専門知識を持ち、AWS関連のコンサルティングビジネスの構築によって健全な収益を上げて」⁠AWSサイトより引用)いることを課しています。この条件を5年連続でクリアしているだけでも、cloudpackの実力と実績がうかがい知れます。

クラウド導入の成功に欠かせない存在として、クラウドを熟知したパートナー企業が挙げられます。逆にクラウドに関する知識がや実績がないSIerに任せたばかりに失敗に終わったプロジェクトは枚挙に暇がありません。しかし多くのユーザ企業は既存のSIerとの付き合いを優先する傾向にあり、cloudpackのようなクラウド専業のSIerは、ふだん自分たちが会話しているSIerとは大きく異なる存在に見えがちです。また、cloudpackが手がけてきたような先進的なクラウドのユースケースはクラウドに移行する以前の課題を多く抱えている(と思っている)企業にとって、別の世界の出来事のように見えるのではないでしょうか。

そしてcloudpackもまた、既存のSIerのビジネスを大きく壊すような営業やプロモーションはせずに、彼らのヘルプとしてインテグレーションの一部を担当するケースが少なくありませんでした。先進的な事例を担当する機会には恵まれていても、"一般の企業の、一般のデータと一般のシステム"を直接目にすることは多くはなかったのかもしれません。実際、後藤氏は今回の提携において、⁠インフォテリアのユーザのデータを見ていくうちに、一般の企業において"日々の業務で生まれているデータ"がどういうものであるかを知った。そうした日々のデータをクラウド上で整形するのにASTERIA WARP Coreは非常に向いている」と語っています。

発表を行ったcloudpack後藤和貴氏(左)とインフォテリア熊谷晋氏
発表を行ったcloudpack後藤和貴氏(左)とインフォテリア熊谷晋氏

一方、中堅から大企業向けのパッケージビジネスのイメージが強いインフォテリアもここ数年はクラウド事業にフォーカスしており、AWSとの関係性も強めています。とくに今回のcloudpackとの協業でもメインとなったRedshiftやRDS関連には力を入れており、ASTERIA WARPの標準機能としてこれらのサービスに対応しています。また、AWSから国内の「Amazon Redshiftパートナー」⁠データ統合パートナー」としてはじめて認定された実績をもち、AWSと協力した大規模プロジェクトも展開しています。そして今回、インフォテリアはcloudpackとの協業にあわせて新たなパートナープログラム「ASTERIA Subscription Partner」を発表しました。これはASTERIA WARP Coreに特化したプログラムで、パートナー企業にASTERIA WARP Coreを販売してもらうだけでなく、パートナー企業が自社商材、たとえばcloudpackのようなインフラ構築/運用スキルを含むコンピテンシーをASTERIA WARP Coreと組み合わせ、データ連携領域をカバーしながら「⁠⁠パートナーの)自社商材を強化するパートナーシップ」として展開していくとしています。

インフォテリアはこれまでパートナー企業にも大手SIerが多かったのですが、クラウド型の連携が中心となるサブスクリプションプログラムであれば、クラウドインテグレータや小規模なISVにまでパートナーのレンジを拡げることが可能になります。⁠インフォテリアにとってもパートナー企業にとっても付加価値を高めるパートナープログラムに成長させたい」という熊谷氏の言葉は、既存のSIビジネスの慣習に従っているだけではクラウドファースト時代へのが難しくなっていることを示しています。なお、cloudpackはASTERIA Subscription Partnerの最初のパートナー企業となっています。

インフォテリアが新しく発表したサブスクリプションパートナープログラムは大手SIerだけでなく、クラウドインテグレータや独立系ISVにも門戸を開く。
インフォテリアが新しく発表したサブスクリプションパートナープログラムは大手SIerだけでなく、クラウドインテグレータや独立系ISVにも門戸を開く。

日本のSIビジネスは世界的に見ても非常に特殊だと言われています。筆者は外資系企業のエグゼクティブが「ユーザがSIerの言うことしか聞かない」と嘆いているのを何度も聞いたことがありますが、クラウドの普及が進むにしたがい、これまでのSIerのやり方では通用しないと気づいたユーザ企業は確実に増えているようにも見えます。AWSクラウドの世界的トップインテグレータと、国内企業のデータのかたちを知り尽くした大手ソフトウェアベンダ、両者の提携は単にIT業界によくあるパートナーシップ強化にとどまらず、互いのクラウドビジネスに足りなかった部分を補完しあいながら、国内企業のクラウド導入とSIビジネスのあり方に大きな変化をもたらす可能性を秘めているといえそうです。

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