無関心な現場で始める業務改善

第2回業務改善のキッカケ――“気づきのプロセス”“自分が困るプロセス”

業務改善の“やらされ感”をなくする方法とは

傍観者ばかりの⁠無関心な現場⁠で進める業務改善。あなたが部門の責任者や、改善活動の事務局など改善活動を率先する立場だったら、どのように進めていくでしょうか?

一般に、業務改善は即効性のある効果が期待されることが多く、どうしても現場には「改善効果のアウトプット」が早く求められます。しかし、そこには動かない現場。変わりたくない社員という大きな壁が立ちはだかります。あなたはそんな現場に対して、イラッとしてしまうかもしれません。

「二度とやるものか…」と思っている社員に対して、頭ごなしに「やれ!」と言っても、うまくいかないのは目に見えています。改善に対する⁠やらされ感⁠をなくし、当事者意識を持たせていくかが業務改善の成功の鍵となります。

今回は、この⁠やらされ感⁠をいかに感じさせることなく、自ら積極的に関わっていくようにしていくかを考えてみましょう。

業務改善のキッカケは何ですか?

業務改善を行うキッカケは何でしょうか?どんな場面で言われたり、感じますか?

今一度、上司や経営層から、⁠無駄をなくせ!効率的に仕事をするために改善しろ!」と言われたときをイメージしてみてください。グルッと自分の部門を見回してみて、何か無駄なことはないかなぁと考える人もいます。一般に、このような「曖昧な無駄をなくせ的改善」は、自分一人がやらなくとも、職場の誰かがやっていればいいので、ふーん…で終わります。

しかし、下記のような場合だと、少し様子が変わります。

  • 全社的にコスト削減に取り組むことが決定し、部門目標が現場に落ちてきた
  • お客様から重大なクレームが入り、マスコミに取り上げられた

前者の場合、部門目標として、コストを20%落とせ、固定費を10%削減しろ、などの具体的な数値目標が落ちてくると、裏紙の利用や整理整頓だけでは立ち行かなくなり、一工夫しないと目標を達成できません。

後者の場合、会社としては「やばい状況」です。お客様からは不買運動が起きたり、ネットに書き込まれるなど、無視できない被害が出てきます。ちょっとした工夫や、その場しのぎの言い逃れではもはや対処できず、企業として抜本的に業務を見直さなければ解決できない状態です。社長の⁠ごめんなさい⁠では済まされず、経営責任を問われ賠償責任まで発展することもあるわけです。もはや「抜本的にやらざるを得ない改善」です。関心がないと言っている場合ではなくなります。

改善しなくても自分は困らない!?

製造現場においては、生産工程・方式の見直し、業務標準化、マニュアル類の整備、職場レイアウト変更、工具や治具の工夫などが昔から行われ、改善に対する抵抗感はそれほど大きくありません。日々、現場で創意工夫を行い、品質を高める・納期を短縮しておくと、結果的に自分たちの仕事が楽になるという効果を知っており、改善が習慣化しているからです。

一方、営業部門や、本社や管理などの間接部門は、目の前で効果が劇的に改善する場面がそう多くありません。本連載の第1回で書いたように、とりあえず整理整頓をしたり、コピーに裏紙を使ったり、お昼休みに消灯するなどは、どこの会社でも見られる光景です。うーん……でも、これって⁠業務改善⁠なのか、環境に配慮した⁠省エネ活動⁠なのか?どっちだかわからなくなります。

改善効果が小さいと、何となく今までどおり仕事をしていても自分は困らないので、改善の必要性はどんどん希薄化していきます。結果として、無関心が余計に増長されます。

“気づきのプロセス”“自分が困るプロセス”を仕掛ける

どんなに無関心な人でも、自分に関係する、自分の仕事に影響があるとわかると、多少なりとも関心を示すものです。改善が自分の仕事にどう結びつくかが動機づけとなります。

「自分で問題を見出して改善しなくちゃいけないなぁ」という⁠気づきのプロセス⁠を改善活動のプロセスの中に入れることが大切です。そうでないと、言われて渋々行う改善活動になってしまいます。しかし、無関心な現場ではまだまだこれだけでは足りません。

無関心には、いくつかパターンがあります。そもそも、気づかない人もいれば、気づいて動く人と、気づいても動かない人がいます。気づくためには、他人から言われて気づくのではなく、自分自身で問題を発見するというプロセスが必要です。

気づいても動かない人に対しては、多少なりとも強制力が必要ですが、強くかけ過ぎると反発を招きます。したがって、気づいたことを改善しないと⁠自分が困るプロセス⁠を仕掛けないとなりません

「業務改善=意識改革」ではない

業務改善の成功の秘訣に、現場の社員の意識改革が最も重要だという人もいます。実際に、意識改革ができないと業務改善はできないと信じ込んでいる人は非常に多く、我々が話を伺う場合でも、⁠当社の社員は意識が低くて、改善がうまく進みません」と言われます。

しかし、意識が低いことが原因なのでしょうか? 声高に「当社は意識改革が必要だ」と社長が叫んでも、そんな会社に限って、社員は心の中で、⁠そういう社長、あんたが意識改革しろ!」と内心思っていることも少なくありません。

本来、会社の理屈としては改善効果が出れば、意識が変わろうが変わるまいが、文句はないはずです。

しかし、意識が変わったからと言って、無関心な現場が急に目の色を変えて改善をやりだすこともありませんし、そもそもどうやって意識が変わったかどうかは、測定する術がありません。

大事なことは、⁠意識が変わる」よりも「行動が変わる」ことです。「行動が変わる体験を通じながら意識が変わっていく」ことが、学習という観点からは正しいのかもしれません。

業務改善には「箱モノ」「魂」の両方が必要

「仏作って魂入れず」という言葉があります。

企業組織の場合、いくら立派な仕組みや制度があっても、活用されなければ意味がありません。崇高な経営理念、緻密な経営戦略、厳格な品質基準や業務プロセス、社内規程、最新の情報システムも、現場に落とし込まれてオペレーションプロセスまで落とし込まれていなければ、⁠絵に描いた餅」です。

このような目に見える⁠箱モノ⁠に加えて、⁠魂⁠の部分に目を向けないと、組織としては活用や定着はありません。企業組織それぞれが、異なる企業文化や組織体質、組織風土を持っており、コミュニケーションや意思決定のやり方もバラバラなわけです。

⁠改善を行うのは人間ですので、箱モノ⁠「ハード」をいかに充実させても⁠魂⁠「ソフト」の部分にもきちんと目を向けなければ、現場は決して動きません。パソコンもソフトがなければただの箱です。まして、⁠無関心な現場⁠では…。

さて、ここで業務改善のアプローチとして、コンサルティング会社がとる方法を見てみましょう。大きく分けて、⁠ハード・アプローチ(ハード改革⁠⁠」と「ソフト・アプローチ(ソフト改革⁠⁠」の2つがあります。

この「ハード」「ソフト」の考え方は、今後、業務改善では重要な要素となってきますので、改善を率先していく立場の人や部門は、常に頭に入れておかないといけません。

ハード・アプローチは「やらせる改革」

「本来、業務はこうあるべきだ!⁠⁠。

会社の中でもいますが、コンサルティング会社とは、おおよそ「エラソーなこと」を言うところです。⁠御社の現状(as is)はXです。あるべき姿(to be)はYです。このギャップZ(=Y-X)が御社の課題です」と。

基本、⁠べきだ!論」には、あるべき姿の基準は社内にはなく、理想値と比較して差分ができていないことを、こき落とすとことと大差ありません。そのステップとしては問題を特定し、原因を分析、解決方法を検討、アクションプランを作成して実行、簡単に言えばこんな感じです。

そして、コンサルティング会社が解決方法まで提示してくれて、計画まで作ってくれます。後は、このアクションプランのとおりにやればできるはずと、イニシアティブがコンサルティング会社から現場に渡りますが、いざ実行しようと思うとなかなかすんなりとは動かないのが現実です。

このように⁠あるべき姿⁠から落とし込む「ハード・アプローチ」は、システムの導入、制度改革などでは多く取られるやり方で、基本的には「強制力」で動かします。現場からは拒絶反応が出やすく、⁠新しいシステムになったが誰も使わない、昔のほうが良かった」など、後からぼろぼろと問題が出てきます。

定量的な改善の指標は出しやすく、短期的には効果が出る……かもしれませんが、現場は⁠やらされ感⁠を強く感じているので、渋々やっている状態に陥りがちとなります。要は「人がついてこない⁠⁠。したがって、改善そのものは、常に尻を引っ叩き続ける必要がありますが、現場がそもそも⁠やらされ感⁠で動いているので、尻を引っ叩くほうも馬鹿らしくなってきます。

短期的な効果は出ても、現場の息が続かず疲弊してくるので、長続きしません。

ソフト・アプローチは「だらだら改革」

「ハード・アプローチ」と対象的なものが「ソフト・アプローチ」です。

“あるべき姿⁠ではなく⁠ありたい姿⁠を描きます。自分、自社、自部門の強みや価値は何だろうか?どうありたいのか?を考えます。ハード・アプローチと違って、⁠強制力」は働かないため、社員一人ひとりの意識から変え、⁠自発性」を重視します。

ソフト・アプローチは、風土改革や組織活性化をはじめ、コミュニケーション研修、意識改革などでは多く見受けられます。特徴としては、具体的な効果が出るまでに時間がかかること、定量的に効果を示せないことです。したがって、会社や部門の業績への貢献との因果関係、ROI(投資対効果)を説明できず、改善の担当者や事務局が、経営者と現場の板挟みになる気の毒なことも発生します。

また、会社によっては、⁠具体的な成果を出せ」と言われ、改善メンバーから「コミュニケーションが良くなりました」と返したところで、⁠で……?ムダなコストはどう下がったのか?説明しろ!」と問われたところで、何も言い返せなくなるわけです。しかし、経営者として効果・成果を気にすることはあたりまえなことです。

ただし、コミュニケーションは業務改善にとっては極めて重要な要素の1つでもあることに変わりはありませんが、ソフト改革だけでは、かかった時間の割に効果が明確でないために、活動がだらだらとマンネリ化してしまい、自然消滅の末路をたどることも少なくありません。

ハードとソフトのそれぞれのアプローチを示すと図1のようになります。

図1 ハード・アプローチ(ハード改革)とソフト・アプローチ(ソフト改革)
図1 ハード・アプローチ(ハード改革)とソフト・アプローチ(ソフト改革)

業務改善は「ハード&ソフト・アプローチ」で進める

一般に、業務改善の中心は「ハード改革」になりますが、無関心な現場でもきちんと効果の出る改善にしていくためには、先ほど述べた「箱モノ」だけではまず不可能です。きちんと「魂」の部分である「ソフト改革」を組み込んでいかなければなりません。これは業務改善の特性上、業務プロセスの全体を見直したり、情報システムの基幹部分に入り込まないと効果が出ないからです。

業務改善を自分の所属する部門だけで行う場合は、自部門だけで業務プロセスやシステムが完結している領域のみを改善の対象とすればいいのですが、業務改善を全体最適で進めていくためには、自部門の前工程や後工程の業務プロセスを知ることも必要となります。

前工程・後工程の業務プロセスを知るためには前工程・後工程部門の人と積極的に話をしなければいけません。話をすることにより、結果的に部門間のコミュニケーションが促進され、改善効果を出しやすくなります。改善を検討した結果、他部門の業務プロセスを見直さないと解決しない場合、他部門とコミュニケーションが取れていれば、部門間の利害関係などで「うちには関係ない」と言われてしまうことを避けることができます。

ハードとソフトを同時に進めることが業務改善の成功の大きなポイントです。このポイントは今後も何回か登場します。

まずは改善のグランドデザインをコアメンバーで共有しよう

業務改善に取り組む際には、よくよく下記のような改革のグランドデザインを、中核となるメンバーと共有することが重要です。その時期は、改善の目的や目標を設定する以前の段階で行います。

  • なぜ改善が必要か?改善をしないとどうなるのか?
  • 改善を行った結果、どんな青写真が描けるのか?そのとき、自分たちの仕事はどう変わっているのか?
  • 大事な価値観は何か?
  • 残すべき(伝承すべき)ものは何か?(ノウハウ、スキル…)
  • 変えることは何か?
  • 変えるために、加えることは何か?(新しい価値観、仕事のやり方…)
  • 変えるために、捨てることは何か?(古い価値観、固定概念、先入観…⁠⁠ など

業務改善を行う際に、規模にもよりますがキックオフミーティングや社内説明会を行うと思います。その際には、最初に部門責任者や事務局(以降、コアメンバーと呼びます)が、このようなグランドデザインを現場にきちんと伝えることが大事です。これが改善目的の軸となるので、ぶれないように、ぶれても原点に戻れるように、まずはコアメンバーでしっかりと共有しておきます。無関心な現場では、あなたやコアメンバーの突っ込みどころを探して食いついてくるので、皆さんがぶれていたらどうしようもありません。

第3回は、⁠業務改善の目的を明確に!目標を決めよう!」というタイトルでお話をします。

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