無関心な現場で始める業務改善

第2回 業務改善のキッカケ――“気づきのプロセス”と“自分が困るプロセス”

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業務改善には「箱モノ」「魂」の両方が必要

「仏作って魂入れず」という言葉があります。

企業組織の場合,いくら立派な仕組みや制度があっても,活用されなければ意味がありません。崇高な経営理念,緻密な経営戦略,厳格な品質基準や業務プロセス,社内規程,最新の情報システムも,現場に落とし込まれてオペレーションプロセスまで落とし込まれていなければ,⁠絵に描いた餅」です。

このような目に見える⁠箱モノ⁠に加えて,⁠魂⁠の部分に目を向けないと,組織としては活用や定着はありません。企業組織それぞれが,異なる企業文化や組織体質,組織風土を持っており,コミュニケーションや意思決定のやり方もバラバラなわけです。

⁠改善を行うのは人間ですので,箱モノ⁠「ハード」をいかに充実させても⁠魂⁠「ソフト」の部分にもきちんと目を向けなければ,現場は決して動きません。パソコンもソフトがなければただの箱です。まして,⁠無関心な現場⁠では…。

さて,ここで業務改善のアプローチとして,コンサルティング会社がとる方法を見てみましょう。大きく分けて,⁠ハード・アプローチ(ハード改革)⁠「ソフト・アプローチ(ソフト改革)⁠の2つがあります。

この「ハード」「ソフト」の考え方は,今後,業務改善では重要な要素となってきますので,改善を率先していく立場の人や部門は,常に頭に入れておかないといけません。

ハード・アプローチは「やらせる改革」

「本来,業務はこうあるべきだ!」⁠

会社の中でもいますが,コンサルティング会社とは,おおよそ「エラソーなこと」を言うところです。⁠御社の現状(as is)はXです。あるべき姿(to be)はYです。このギャップZ(=Y-X)が御社の課題です」と。

基本,⁠べきだ!論」には,あるべき姿の基準は社内にはなく,理想値と比較して差分ができていないことを,こき落とすとことと大差ありません。そのステップとしては問題を特定し,原因を分析,解決方法を検討,アクションプランを作成して実行,簡単に言えばこんな感じです。

そして,コンサルティング会社が解決方法まで提示してくれて,計画まで作ってくれます。後は,このアクションプランのとおりにやればできるはずと,イニシアティブがコンサルティング会社から現場に渡りますが,いざ実行しようと思うとなかなかすんなりとは動かないのが現実です。

このように⁠あるべき姿⁠から落とし込む「ハード・アプローチ」は,システムの導入,制度改革などでは多く取られるやり方で,基本的には「強制力」で動かします。現場からは拒絶反応が出やすく,⁠新しいシステムになったが誰も使わない,昔のほうが良かった」など,後からぼろぼろと問題が出てきます。

定量的な改善の指標は出しやすく,短期的には効果が出る……かもしれませんが,現場は⁠やらされ感⁠を強く感じているので,渋々やっている状態に陥りがちとなります。要は「人がついてこない」⁠したがって,改善そのものは,常に尻を引っ叩き続ける必要がありますが,現場がそもそも⁠やらされ感⁠で動いているので,尻を引っ叩くほうも馬鹿らしくなってきます。

短期的な効果は出ても,現場の息が続かず疲弊してくるので,長続きしません。

ソフト・アプローチは「だらだら改革」

「ハード・アプローチ」と対象的なものが「ソフト・アプローチ」です。

“あるべき姿⁠ではなく⁠ありたい姿⁠を描きます。自分,自社,自部門の強みや価値は何だろうか?どうありたいのか?を考えます。ハード・アプローチと違って,⁠強制力」は働かないため,社員一人ひとりの意識から変え,⁠自発性」を重視します。

ソフト・アプローチは,風土改革や組織活性化をはじめ,コミュニケーション研修,意識改革などでは多く見受けられます。特徴としては,具体的な効果が出るまでに時間がかかること,定量的に効果を示せないことです。したがって,会社や部門の業績への貢献との因果関係,ROI(投資対効果)を説明できず,改善の担当者や事務局が,経営者と現場の板挟みになる気の毒なことも発生します。

また,会社によっては,⁠具体的な成果を出せ」と言われ,改善メンバーから「コミュニケーションが良くなりました」と返したところで,⁠で……?ムダなコストはどう下がったのか?説明しろ!」と問われたところで,何も言い返せなくなるわけです。しかし,経営者として効果・成果を気にすることはあたりまえなことです。

ただし,コミュニケーションは業務改善にとっては極めて重要な要素の1つでもあることに変わりはありませんが,ソフト改革だけでは,かかった時間の割に効果が明確でないために,活動がだらだらとマンネリ化してしまい,自然消滅の末路をたどることも少なくありません。

ハードとソフトのそれぞれのアプローチを示すと図1のようになります。

図1 ハード・アプローチ(ハード改革)とソフト・アプローチ(ソフト改革)

図1 ハード・アプローチ(ハード改革)とソフト・アプローチ(ソフト改革)

業務改善は「ハード&ソフト・アプローチ」で進める

一般に,業務改善の中心は「ハード改革」になりますが,無関心な現場でもきちんと効果の出る改善にしていくためには,先ほど述べた「箱モノ」だけではまず不可能です。きちんと「魂」の部分である「ソフト改革」を組み込んでいかなければなりません。これは業務改善の特性上,業務プロセスの全体を見直したり,情報システムの基幹部分に入り込まないと効果が出ないからです。

業務改善を自分の所属する部門だけで行う場合は,自部門だけで業務プロセスやシステムが完結している領域のみを改善の対象とすればいいのですが,業務改善を全体最適で進めていくためには,自部門の前工程や後工程の業務プロセスを知ることも必要となります。

前工程・後工程の業務プロセスを知るためには前工程・後工程部門の人と積極的に話をしなければいけません。話をすることにより,結果的に部門間のコミュニケーションが促進され,改善効果を出しやすくなります。改善を検討した結果,他部門の業務プロセスを見直さないと解決しない場合,他部門とコミュニケーションが取れていれば,部門間の利害関係などで「うちには関係ない」と言われてしまうことを避けることができます。

ハードとソフトを同時に進めることが業務改善の成功の大きなポイントです。このポイントは今後も何回か登場します。

まずは改善のグランドデザインをコアメンバーで共有しよう

業務改善に取り組む際には,よくよく下記のような改革のグランドデザインを,中核となるメンバーと共有することが重要です。その時期は,改善の目的や目標を設定する以前の段階で行います。

  • なぜ改善が必要か?改善をしないとどうなるのか?
  • 改善を行った結果,どんな青写真が描けるのか?そのとき,自分たちの仕事はどう変わっているのか?
  • 大事な価値観は何か?
  • 残すべき(伝承すべき)ものは何か?(ノウハウ,スキル…)
  • 変えることは何か?
  • 変えるために,加えることは何か?(新しい価値観,仕事のやり方…)
  • 変えるために,捨てることは何か?(古い価値観,固定概念,先入観…)⁠ など

業務改善を行う際に,規模にもよりますがキックオフミーティングや社内説明会を行うと思います。その際には,最初に部門責任者や事務局(以降,コアメンバーと呼びます)が,このようなグランドデザインを現場にきちんと伝えることが大事です。これが改善目的の軸となるので,ぶれないように,ぶれても原点に戻れるように,まずはコアメンバーでしっかりと共有しておきます。無関心な現場では,あなたやコアメンバーの突っ込みどころを探して食いついてくるので,皆さんがぶれていたらどうしようもありません。

第3回は,⁠業務改善の目的を明確に!目標を決めよう!」というタイトルでお話をします。

著者プロフィール

世古雅人(せこまさひと)

メーカにて開発エンジニアと半導体基礎研究(国の研究機関出向)の計13年を設計と研究開発の現場で過ごす。企業風土改革,組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者などを経て,技術の現場あがりの経験や知識を活かした業務改善やコンサルティングなどに従事。

2009年に株式会社カレンコンサルティングを設立,同社代表取締役。現場と経営を巻き込んだ「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを推し進めている。

株式会社カレンコンサルティング

URL:http://www.carren.co.jp/