無関心な現場で始める業務改善

第16回 改善文化の定着と立ちはだかる障害を越える

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業務改善が進むにつれて,仕事のやり方を変えていかなければなりません。常に現場の「もっとうまいやり方はないのか?」という問題意識や向上心,創意工夫で改善は成り立ちます。改善にゴールがあるわけではありません。

改善文化,すなわち継続して成長をし続ける組織風土が定着する組織になるか否かは,経営者をはじめ,現場の皆さん次第です。時には目の前に大きな障害も立ちはだかるでしょう。そして,業務改善をより大きな企業活動としていくためには,もはや「改善」ではなく「改革」レベルまで踏み込むことも必要となります。情報システムにも影響します。今回はこのような話をしていきます。

仕事のやり方を変える

業務改善を行うと,少しだけ業務プロセスが変更になる人もいれば,大幅に変更になる人も出てきます。

業務改善の活動に直接関わっていた人とそうでない人との,それまでの活動経緯や効果に対する情報量の差は,いくら社内広報第7回で見ていた・聞いていたとしても温度差が生じるので,多かれ少なかれ拒絶反応が生まれる場合があります。とくに,既存のやり方に慣れ親しんだ人ほど,変化への抵抗や微妙な不納得感はぬぐえないものです。

我々は,仕事のやり方を変えることは"人と人の向き合い方を変えること"と言います。従来の仕事のやり方から,新しい仕事のやり方に変えていくパラダイムシフトの中で,今までとは違うコミュニケーションが求められます。そのためには,お互いに自らのコミュニケーションスタイルを変えていくことが重要で,業務改善の責任者やリーダーはこれらの啓蒙的な活動も率先してやらなければなりません。

情報システムとの関係

多くの業務は何らかの情報システムを使いながら行われています。業務改善を行うと,改善後の業務プロセスでは,今まで他部門が行っていたデータ入力業務を自分で行わなければいけなくなる場合もあります。

たとえば,既存顧客データベースのお客様に営業担当者が訪問し,契約を獲得した場合,今までは顧客データベースへの獲得情報の反映は,営業支援のアシスタントが行っていました。したがって,営業マンは受注したという電話をした後に,時間帯によっては会社には戻らずに直帰できていました。しかし,新しい業務フローでは営業マンが獲得情報を入力することになり,その作業のためだけに会社に帰社する羽目になり,営業マンから不満が出る場合があります。

あくまでも一例ですが,業務改善はこのような問題が発生する可能性も潜在的に秘めています。全体最適の観点から見れば便利になっても,営業マンからすれば"直帰できなくなった"ことに対する不満のほうが大きく表れてしまい,事項段階でブーイングが出ます。しかし,ここで「営業部門から不満が出るからやめる」と逃げていては何も解決しません。

全体として良くなるのであれば,原則,会社の意思決定としてはやるべきです。また,工夫のしどころも残っているので,知恵も絞りましょう。帰社しなくともデータを入力する仕組みができないか(社外からSFA経由で顧客データベースにアクセスするなど)を考えたり,18時以降の商談の場合は当日帰社せずに翌日の10時までにデータを入力すればよいルールにするなど,運用でカバーをすることが考えられます。

業務改善から業務改革へ

次に,現場レベルの活動から,もう少し大きく全社的な改革を行う場合を考えてみましょう。ちまたには,改善と改革の意味の違いなど問われる場合もあります。ここでは漢字の意味を問うているわけではないので,我々は「より深く経営を巻き込んだ全社的な業務改善を"業務改革"と定めています」⁠

業務改善はボトムアップ的な側面が強かったですが,"業務改革"はトップダウンです。しかし,現場が行うことには変わりないので,ボトムアップ的要素の強い新しいトップダウンとも言えます。第2回第3回,第5回「ハードとソフトの両方が大事」と書きましたが,トップダウンであろうがなかろうが,ソフトの領域である「組織風土」「コミュニケーション」と言った"魂"の部分は非常に重要です。

「ハード」には「ハート(ソフト)」が必要!

改革をハードに実行することは時には必要でしょう。経営状況によっては一刻の猶予もない場合もあります。ただし,"魂"の部分は大事に,経営者が生の声で理念や思いを現場に語る。未来のビジョンやロードマップを示す。とても大事なことです。「ハード」であっても「ハート(ソフト)⁠がなければうまくいかないのは同じです。これまでに何度もお話しているように,現場が「やらされ感」を感じることなく,自発的・自主的に取り組むには「本気モード」のスイッチをいかに入れるか?すべてはこの動機づけいかんです。

さて,ここでGE社(General Electric:ゼネラル・エレクトリック社)の改革で有名は「ワークアウト」から少し学んでみましょう。

ワークアウトから学ぶ

ワークアウトとは,かつてGEのCEOだったジャック・ウェルチ氏が1988年に提起した概念です。システムから余分な「仕事(ワーク)を取り除く(アウト)⁠ことによって,当時のGEにはびこっていた悪しき官僚主義を根絶し,働く人たちの時間を自由にするという考え方が名前の由来です。

変化を尊重し,組織学習を重んじるGEが,現場に近いところへ問題解決と業務改善をエンパワーメント(権限委譲)し,迅速かつ集中的に意思決定するためのプロセスとして,根づかせてきました。GEは1990年代に入ってワークアウトが日常化し,1992年にはチェンジアクセラレーションプロセス(CAP)へと発展し,全社的な業務変革に取り組むための体系へと進化しています図参照)⁠

ワークアウト(GE社:CAP)

図 ワークアウト(GE社:CAP)

GEの学習活動は,基本的なワークアウトからシックスシグマに至るまで,次のような7つの段階を経て進化しています。

表1 学習活動の進化(GE社)

第1段階ワークアウト:「RAMMPマトリックス」
第2段階ベストプラクティス
第3段階プロセスマッピング
第4段階変化の加速
第5段階戦略的構想
第6段階顧客を勝者に
第7段階シックスシグマ品質

第1段階は,⁠RAMMPマトリクス」と呼ばれ,徹底的に今までの仕事のやり方や業務プロセスの必要性を徹底的に追求します。

表2 RAMMPマトリクス(GE社)

R報告書(Reports)この報告書は本当に必要なのか?
A承認(Approvals)決定事項にこんなに多くの承認が必要なのか?
Mミーティング(Meeting)このミーティングは本当に開く必要があるのか?
M行動(Measure)目に付く(見てわかる)行動は何か?
P制度(Policies and Procedures)モチベーション向上,効率化に役立っているか?

社員に対する動機付け,モチベーション向上の重要さを常に判断基準として定めていることがよくわかります。

業務プロセスの悪さ加減,実力,バラつきを統計的手法で定量的に測定し,改善活動を通じて継続的にモニタリングをしていくことは,まさしく業務改善です。この業務改善を会社が認め,支援し,全社で取り組む"業務改革"へと発展させていきます。

著者プロフィール

世古雅人(せこまさひと)

メーカにて開発エンジニアと半導体基礎研究(国の研究機関出向)の計13年を設計と研究開発の現場で過ごす。企業風土改革,組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者などを経て,技術の現場あがりの経験や知識を活かした業務改善やコンサルティングなどに従事。

2009年に株式会社カレンコンサルティングを設立,同社代表取締役。現場と経営を巻き込んだ「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを推し進めている。

株式会社カレンコンサルティング

URL:http://www.carren.co.jp/

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