無関心な現場で始める業務改善

第18回 業務改善で手に負えないことをどこまでやるか(後編)

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経営の本気度が現場の改善を加速する

そんなA社が経営層へのプレゼンテーションで用いた絵が図1です。元の絵は,当社が大事にしている企業活動の構成要素ピラミッドとして示しているものです。

図1 業務改善+経営改革

図1 業務改善+経営改革

この図において,⁠業務改善」の対象とした領域は"ハード"と"ソフト"と書かれている部分です。経営者や本社・管理部門は,⁠経営改革」の矢印で示されている領域を行いました。具体的には下記の通りです。

  • 経営理念の再策定
  • 中期経営計画の策定プロセスの変更
  • 予算編成の見直し
  • 社内会議体の再構築
  • 人事評価制度の見直し
  • 情報システムの再構築 等

この中から1つだけお話します。⁠経営理念の再策定」は連日,遅くまで経営者と幹部で基本骨格を練り,全社員へ落とし込むためのハンドブックを作成しました。同時に,会社ロゴも一新し,新しい経営理念とともにCIも統一しました。それも全社員でロゴのデザインを行い,人気投票を行いました。ホームページの全面リニューアルや名刺,販促物等も一新しています。随所に工夫や仕掛けはしていますが,我々の目論見は「上から落ちてきた経営理念にしないこと」でした。理念策定に一社員が関われなくとも,理念をイメージしたロゴデザインには参画しているので,⁠無関心」ではないわけです。ロゴの色,たった一色でも自分が選定に関わったとなると親近感は急速に増します。

現場にはこのような小さな仕掛けをしながら,経営理念の再策定だけでも,このくらい全社的に行いました。その他の事項は割愛しますが,大事なことは,「経営者が現場だけの業務改善にしなかった」ということが成功のポイントということです。

実際の業務改善は半年でかなりの成果を得て,いったんは節目を付けました。しかし,業務改善と一緒に始まった経営改革には1年ちょっとの時間がかかりました。そこで,興味深いことが起こりました。半年でいったんは終えた業務改善が再開したのです。当時のメンバーは「経営があそこまでやっちゃ,僕らも引けないですし,改善にゴールはないと言っていたのは世古さんでしょ!」と笑いながら言われたものです。

A社のようなケースは珍しいのかもしれません。経営層の取締役が業務改善メンバーに入っていたことも良い追い風が吹いた要因です。ただし,ここではっきりと言えることは,「経営の本気度が伝わると現場にも火が付き,業務改善は加速する」という事実です。

さて,このA社の事例のように,業務改善で手に負えないことを,経営層が一丸となって解決に臨むことは予想もしないような相乗効果をもたらします。そのときの"ちょっとしたコツ"をお話しましょう。

「変化の揺らぎ」を仕掛ける

本連載のタイトルを改めて眺めると,⁠無関心な現場」が対象です。そんな現場なら当然,経営層も無関心が多いのだろうと通常は思ってしまいます。

これまで,無関心な現場に対して,

  • "やらされ感"がなく,
  • "気づきのプロセス"と"困らせるプロセス"を入れながら,
  • 大義名分も使い分けながら,
  • 自ら現状調査から問題解決まで行う

ことを大事にしながら進めてきました。これを少し専門的な見地からお話したいと思います。E.H.シャインの『プロセス・コンサルテーション』の本では,変革の必要性を説くために"「変化の揺らぎ」を作り出す"と言っています。図2をご覧ください。

図2 ⁠変化の揺らぎ」を仕掛ける

図2 「変化の揺らぎ」を仕掛ける

無関心な現場や硬直した組織では,変革の必要性は感じていないので,まずは"変革の必要性"を認識することが必要となります。しかし,急激に行うと反発を招き,組織そのものの機能が損なわれてしまいます。したがって,あたかも電子レンジのような「解凍」のプロセスが第1段階で必要となり,第2段階として,"新しい状態を創り出す"ための「移行」に移ります。そして第3段階で,組織に浸透する・風土として定着する「再凍結」のプロセスに入ります。

これまでに我々が皆さんにお伝えしてきたことも,原理原則は同じです。

解凍するために,意図的に揺らぎのある状態を組織の中に作り出します。このことで,組織は「不安定状態」となります。不安定な状態は,⁠適度な危機感と緊張感」から生まれます。現状不満足で「現状を変えなければいけないんだ」という「変革の必要性」を植え付けているわけです。これを短期間で加速するために,"困らせるプロセス"を入れながら,困った状態ではじめて知恵が出てくる裏目的を実行させていることになります。

こう書くとシンプルですが,行うのはそうたやすいことではありません。しかし,本連載で書いたことを少しでも頭に入れておくと,同じような場面に直面したときに慌てることは少なくなるでしょう。仮にあなたが部下を持つマネージャなら,部下や部門内のマネジメントに活かせる場面はいくつもあることでしょう。

「目の前の石をどける」ことに経営も現場も関係なし!

前回と2回に渡って「業務改善で手に負えないことをどこまでやるか」というお話をしてきましたが,「手に負えない」と思い込み放棄した瞬間に,本当に手に負えなくなります。経営層に業務改善の意味や意義がしっかりと伝わっていれば,⁠徹底的に行え!」となるはずです。まして,経営や組織課題が現場の業務改善の阻害要因となっているならなおさらです。「目の前の石をどける」ことに経営も現場も関係ありません。スタートラインがたまたま業務改善であっただけで,そこから経営課題が出てきたのなら,むしろ「願ってもないチャンス」と思うほうが健全です。

したがって,「手に負えないことをどこまでやるか」に対する我々の答えは「どこまでもやる!」です。中途半端に経営層の問題を放置していることのほうが,よほど問題です。⁠いやー,当社ではとても経営層にそこまでは言えないですよ」と思われる方もいることでしょうが,そのために,我々が中立的な立場でいることも頭の片隅に入れておいてください。

次回は,⁠業務連鎖と現場力」についてお話します。

著者プロフィール

世古雅人(せこまさひと)

メーカにて開発エンジニアと半導体基礎研究(国の研究機関出向)の計13年を設計と研究開発の現場で過ごす。企業風土改革,組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者などを経て,技術の現場あがりの経験や知識を活かした業務改善やコンサルティングなどに従事。

2009年に株式会社カレンコンサルティングを設立,同社代表取締役。現場と経営を巻き込んだ「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを推し進めている。

株式会社カレンコンサルティング

URL:http://www.carren.co.jp/

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