無関心な現場で始める業務改善【シーズン2】

第4回 見えた光明

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これまでのあらすじ

「GHテクノロジーズリバイバルプラン」と銘打った経営施策は,800名いた社員のうち,300名が早期退職で会社を去るという事態を皮切りに,もっと経営改革が進むものと佐藤さんは考えていました。ところが,海外のEMS工場における品質不良の問題は名ばかりの対策会議で今もまだ棚上げ状態,不良在庫は増えるばかりです。社内のあちこちで経営批判をする社員が後を絶ちません。経営だけの責任ではなく,自分たちにも責任の一端はあったはずだと考えている佐藤さんは,会社を立て直すと決めたものの,手探り状態です。

佐藤さんはじっとしてはおられずに,各部門の部長に声をかけますが,期待できない返事ばかりで,協力関係を得ることができません。直属の上司である杉本課長も事なかれ主義者で当てにならない1人です。実態として,早期退職以外に何ら経営改革が進んでいるように思えないうえ,現場からは危機感が感じられず,佐藤さんも苛立ちを感じています。

先日,大学の先輩であるマーケティング部の坂本課長と話をして,社長が明確に改革の方針やビジョンを語っていないことが問題だということに気づきます。開発部の一主任の立場では部長を動かすことはできないと悟った佐藤さんは,きちんと改革を進めるべく,直接,社長に話をすることを決意します。

社長への直訴

GHテクノロジーズの中田社長は,佐藤さんが入社したときは開発部の部長だったこともあり第1回)⁠知らない仲ではありません。そうは言っても本来,社長と話をするためには,総務部の秘書課などを通じてアポを入れておくのが筋です。また,開発部の上司である課長の杉本,部長の村瀬の頭を飛び越えた話も立場上,まずいことには,頭が回りませんでした。

普段はなかなか出向くことのないビルの最上階に向かいます。⁠社長室⁠と書いてあるドアの前に立ち,一呼吸おいて佐藤さんはノックをします。聞き慣れた「はい,どうぞ」という中田社長の声を聞き,少し緊張しながら社長室に入りました。

  • 佐藤さん:「開発部の佐藤です。突然すいません,少しお時間をいただけますか?」

  • 中田社長:「佐藤君か,ずいぶん久しぶりだな。ちょうど今の時間はアポはなかったはずだから構わんが,まぁ,そこにかけたまえ」

  • 佐藤さん:「はい,失礼します」

  • 中田社長:「で,突然どうしたんだい?」

  • 佐藤さん:「いきなりで申し訳ないのですが,社長は今回の経営改革に対してどうお考えでしょうか?まだ具体的な改革の方針,ビジョンなど伺っていません。どうしても聞きたいのです」

  • 中田社長:「昨日の部長会で経営改革の話をしたばかりだから,まだ伝わっていないのかもしれないね」

  • 佐藤さん:「それを聞かせていただけますか?」

  • 佐藤さんは直接,社長から経営改革の骨子を聞くことができました。社長の口から出た重い言葉,止むにやまれない人員削減であったこと,今回の経営改革に対する熱い思いを聞くことができ,自分が退職を選択しなかったことは間違いではなかったと思いました。

    しかしその一方で,佐藤さんは現場の状況や自分の問題意識を中田社長にぶつけました。

    現場からのボトムアップ改革

    • 佐藤さん:「早期退職から1ヵ月が過ぎますが,現場にはゆるい空気が漂い,緊張感や危機感のかけらもありません。現場では相変わらず経営批判が多く,中間管理職以下,気を引き締めて仕事をしていない様子を見て,このままじゃ会社はダメになるという気持ちでいっぱいです」

    • 中田社長:「改革方針・ビジョンは今度の社内報で伝えると同時に,下期の経営方針発表会でも伝える。一足先に部長会では発表したものの,まだつい先日のことだから,君からすればじれったく感じてしまっただろう」

    • 佐藤さん:「現場が腐っている様子は黙って見てはいられません。辞めていった人たちも浮かばれません。今この瞬間も品質に問題がある製品が作られています。しかし,原因はまだはっきり見出せていません。開発部の僕に何ができるかを考えると,現場を回り問題を見つけ,1つ1つつぶしていくしかないんです」

    • 中田社長:「品質不良はもちろん大問題だ。現場が経営層に不満があることは自分もわかっている。やる気のない中間管理職ばかり育ち,会社に残ってしまったことも問題だ。ただ,私は経営者だ。ここで会社をつぶすわけにはいかない」

    • 佐藤さん:「そこで,社長にお願いがあります。少なくとも僕は会社がこうなってしまった責任は経営者だけではなく,我々社員にも多くの原因があると感じています。僕は自分の目で,現場で何が起こり,どんなことが問題なのかを見極め,改善をしていきたいと考えています。昔のような活き活きとした職場を取り戻したいんです」

    • 中田社長:「トップダウンの経営改革だけでは不足かね?」

    • 佐藤さん:「それはわかりません。ただ,現場にいる人間が,⁠経営者が会社を変えてくれる,だから自分たちはただひたすら待っていればいいんだ⁠と思ってしまったら,結局,現場は会社に甘えます。自分たちで良くしようという行動も起こさないと思います。そして都合が悪くなったときだけ会社のせいにする。こういう風潮が僕には許せないのです」

    • 中田社長:「つまり,現場からのボトムアップの改革を始めるということかい?」

    • 佐藤さん:「そうです。ノーと言われても,僕は1人でも現場からの改革をやるつもりで,今日は話をしに来ました。」

    • 中田社長:「佐藤君,昔と変わってないな。よし,わかった。まずはできることから始めてみてくれ。遅かれ早かれ,現場の改革は必要になる。我々,経営者の中にも社長の僕とは意見を異にする役員がたくさんいる。したがって,急にオフィシャルに社内に打ち出すことはできないが,次の経営会議で経営施策の中に盛り込むことを提言しよう。そのためには,まずは現場で何が起こっているのか,君なりに把握しておいてくれるとありがたい」

    • 佐藤さん:「わかりました」

    社長室を後にしながら,佐藤さんは思いのほか手ごたえを感じています。

著者プロフィール

世古雅人(せこまさひと)

メーカにて開発エンジニアと半導体基礎研究(国の研究機関出向)の計13年を設計と研究開発の現場で過ごす。企業風土改革,組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者などを経て,技術の現場あがりの経験や知識を活かした業務改善やコンサルティングなどに従事。

2009年に株式会社カレンコンサルティングを設立,同社代表取締役。現場と経営を巻き込んだ「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを推し進めている。

株式会社カレンコンサルティング

URL:http://www.carren.co.jp/

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