無関心な現場で始める業務改善【シーズン2】

第12回仕事のインプットと本音を言える

今回は、仕事のインプット・アウトプットと、改善に欠かせない組織風土改革、コミュニケーションの場づくりについてお話します。

“仕事の流れ(業務プロセス)⁠⁠組織の業務範囲⁠は一致する場合と、一致しない場合がある話を第11回でお話ししました。GHテクノロジーズにおいては、佐藤さんの所属する開発部の後工程となる製造部と、不一致があるようです。さらに、開発部と製造部の間では、さほど仲もよくないセクショナリズムがありそうです。佐藤さんとよく話をしていた製造部の上司や先輩たちの多くは、GHテクノロジーズの経営再建計画の一環である早期退職で既に会社を去ってしまっています。

※:人物相関図については、第1回の図1を参照ください。

価値連鎖と業務連鎖

開発部と知的財産部のコアメンバーであれこれと作戦会議を練っています。何か突破口を見出したいところです。今日は、佐藤さんの大学の先輩にあたるマーケティング部の坂本課長も参加しています。

  • 赤西さん:「僕ら開発部が製造部と仲たがいしていても、意味ないっすよね」

  • 佐藤さん:「そりゃそうだけど、僕のことを毛嫌いしているあの部長だよ。気が進まないなぁ」

  • 加藤さん:「後輩の赤西君にはっきりと言われちゃ、佐藤、お前も立場ないよな。少なくとも、村瀬開発部長の先日のお話だと、製造部長は不良品発生の解決には協力してくれるみたいだし…」

  • 村瀬部長:「自分から製造部長に話は通すから、まずはどうやって改善を前に進めていく作戦が良いか、考えることが先決だ」

  • 佐藤さん:「ですね……」

  • 坂本課長:「マーケ(マーケティング)の仕事柄というわけじゃないけど、⁠バリュー・チェーン(価値連鎖⁠で社内の各部門の活動を見てみるといいかもしれないよ」

  • W女史:「確かに、バリュー・チェーンは業務の流れを考えるときに、ちょうどいいわね」

  • 佐藤さん・加藤さん・赤西さん・広瀬さん:「バリュー・チェーン??」

図1 価値連鎖と業務連鎖
図1 価値連鎖と業務連鎖

この図は、マイケル・ポーター(M.E.Porter)「バリュー・チェーン(価値連鎖⁠⁠」と呼ばれる有名な図です。

「バリュー・チェーン」は、⁠主活動」「支援活動」に分類されます。⁠主活動」⁠購買物流⁠⁠出荷物流⁠⁠マーケティング・販売⁠⁠サービス⁠からなり、⁠支援活動」⁠企業インフラ⁠⁠人材資源管理⁠⁠技術開発⁠⁠調達⁠から構成されます。

バリュー・チェーンという言葉が示すとおり、購買した原材料等に対して各プロセスで価値(バリュー)を付加していくことが企業の主活動です。また、各プロセスはお互いに連鎖する関係にあります。企業はこのバリュー・チェーンの活動をつうじて、市場や顧客に製品やサービスを提供し、マージン(利益)が生まれます。

さて、これを簡単な企業組織図の例で考えてみましょう。

仕事は、自部門の前工程や後工程の部門と常にやり取りをしながら進みます。同時に、全ての部門と関連する本社や管理部門、情報システム部門とのやり取りも発生します。仕事は前工程から後工程への一連の流れである「共同作業」で成り立っていると言えます。しかし、担当する部門は⁠縦割り⁠です。したがって、業務の流れは組織・部門の壁をまたがって流れていることになり、この流れを「業務連鎖」と呼びます。

一通り、坂本課長からの説明を聞き終えて……。

  • 佐藤さん・加藤さん・赤西さん・広瀬さん:「組織図と対比させるとわかりやすいですね」

  • 坂本課長:「そう、⁠チェーン⁠という名の通り、本来、業務は連続的につながっていなければならないんだ。しかし、各部門にはそれぞれ役割があり、その構造は縦割りだ。縦割りがあまりにも強すぎると、組織に何が起きるかは予測できるだろう?」

  • 佐藤さん:「セクショナリズムってことですね。まさしく、今の当社だ」

  • W女史:「セクショナリズムのために、コミュニケーションが阻害され、協力関係を築くことが困難になってしまいますよね」

  • S氏:「幸か不幸か、ちょうどいいタイミングで価値や業務の連鎖の話が出てきたので、仕事のインプットやアウトプットについて考えてみましょう」

仕事のインプットとアウトプット

  • 赤西さん:「そう言えば、ISO9001でも⁠設計のインプット⁠とか聞いたことがあります」

  • 佐藤さん:「うん、僕ら開発部の設計のインプットは仕様書だし、マーケやお客様からの要求がインプットになる時もある。また、アウトプットは回路図などの図面やPDM(Product Data Management)やBOM(Bills of Materials)に包括されるときも最近は多いけどね」

  • S氏:「開発や設計部門ではそうなりますよね。ここで、先の価値連鎖・業務連鎖を1つ1つのプロセスにバラシて考えてみましょう」

図2をご覧ください。

図2 業務プロセスの細分化とプロセスモジュールの考え方
図2 業務プロセスの細分化とプロセスモジュールの考え方

業務プロセスは、⁠子⁠のプロセス、⁠孫のプロセス⁠のように、細かくバラシていく(細分化)ことができます。では、どこまでバラすかですが、これは目的によります。業務改善を目的とする場合は、可能な限り細かいレベルまで細分化が必要です。

業務プロセスを模式的に表したものを「プロセスモジュール」と呼びます。

先ほど登場した、⁠仕事のインプット」⁠仕事のアウトプット」に相当する⁠②入力・出力⁠以外に、⁠③前提条件⁠⁠④開始条件⁠⁠⑤タイミング⁠⁠⑥処理⁠などの情報が、1つ1つの業務プロセスの構成要素となります。なお、プロセスモジュールの考え方の基本は、筆者自身がデジタル回路設計やASIC設計を行っていた時の、シンボルやマクロ、ライブラリの概念が原点となっています。より詳しく知りたい方は、こちら上流モデリングによる業務改善手法入門(技術評論社)をご覧ください。

  • 村瀬部長:「これはまた、内部統制やISOで見られる業務フローチャートの書き方とは少し異なりますね」

  • S氏:「おっしゃるとおりです。ここまで細かい情報は、通常の業務フローでは書かれていません。業務改善で用いる業務フローは、業務プロセスをこのレベルまで細分化しないと、小さなミスや、人による業務の差異(属人的なやり方)が見えてきません

  • 赤西さん:「フローチャートに近くて、開発の人間はとっつきやすいですね」

  • W女史:「そうですね♪ しかし、間接部門や事務業務を行っている人からすれば、難しく感じる人もいるんですよ」

“業務改善”に必要な“組織風土改革”

  • 佐藤さん:「プロセスのイメージや、どこまで細かく業務プロセスをばらすのか、イメージはできたのですが、今、僕らコアメンバーが直面している課題としては、内輪だけの改善活動になってしまっていて、なかなか他部門を巻き込めず、活動が広がらないことです」

  • 加藤さん:「リストラの後、現場の多くは自部門の仕事だけで手一杯だし、まだ、経営批判も多く、不信感も根強く残っているし……」

  • 広瀬さん:「キックオフ第7回参照)をしただけで、ほとんど動けていないのも悲しいわ(>_

  • 赤西さん:「佐藤さんがよく言っている当社の⁠組織体質⁠⁠組織風土⁠なんですかね?」

  • 佐藤さん:「自社に誇りも持っていないし、不満が多いが、会社や他部門には無関心が多い人ばかり残っちゃったよ。うちの杉本課長なんか、俺を巻き込むな!って堂々と言うし、あったま来るよなぁ!」

  • S氏:現場が自発的に改善を進め、会社を良くしていこうという機運のもとに、業務改善を行らないと、業務改善の改善効果は発揮されないですからね」

  • W女史:「私たちが業務改善をやってあげるわけではないですからね。メイドさんじゃないですから!」

  • 広瀬さん:「Wさん…メイドって、超ウケます♪」

  • W女史:「あら、私としたことが…(笑)。自分たちで自分たちの業務を改善していくこと、それが結果的に会社の業績を上げていくことなので、社外の私たちがなんでもやってあげちゃダメなんですよ

  • 佐藤さん:「自ら会社を変えていこうという社風を作るってことですね」

  • S氏:「業務改善が現場で自然になされていく…このような社風を作ることに他なりません。業務改善の成否は組織風土改革をいかに進めるかにかかっていると言っても過言ではないんですよ第9回参照⁠⁠」

「牽制し合う人間関係」から「相談し合う人間関係」

  • 佐藤さん:「好きで入ったこの会社を、何とか良くしていきたいものだ」

  • 村瀬部長:「最初の品質対策会議で、君が部長たちに⁠誰も本気で考えていない!⁠と怒って、出て行ってしまった行動もその表れだろう第1回⁠」

  • S氏:「業務改善をつうじて仕事のやり方を変えていくということは、人と人の向き合い方を変えていくことに他ならないんです。困っている人がいれば助ける、一緒に考える…こういう人間関係があるからこそ、業務改善の効果は発揮され、業績向上にもつながっていくんですよ」

図3をご覧ください。

本連載にて、これまでに何度か「ハード」「ソフト」という言葉が使われてきましたが、これらを模式的に示すと、図3のような氷山を例えに描くことができます。

第5回の図2では、⁠組織の氷山モデル」「ハード&ソフト」について示しているので、参考にしてみてください。

図3 ⁠ハード」「ソフト」の相乗作用と効果
図3 「ハード」と「ソフト」の相乗作用と効果

業務改善は、⁠ハード部分」に位置し、目に見えるものです。方針・しくみ・戦略・システム・制度、そして、プロセスも同様です。

その一方で、水面下で見えない「ソフト部分」が人間の行動を支配します。

仕事のやり方・進め方をとってみても、「お互いに牽制しあう人間関係」よりも、⁠相談し合える人間関係」のほうが望ましいことは言うまでもありません。図においては、色を変えて上司と部下の声として示していますが、経営と現場と置き換えてみたも同じことです。

心の中、自らの価値観として、氷山の水面下にあるような⁠くすぶったもの⁠を抱え込んでいたら、部門を超えた全社的な業務改善に誰が協力しようと思うでしょうか?

本音を言える⁠場⁠

  • S氏:「このソフト部分をどのように進めるかが、業務改善成功……それ以前に、他部門の協力や参画を仰ぐ成功要因となりますが、⁠本音を言える場⁠を仕掛けることが必要です」

  • 佐藤さん:「どうせ、本音は出さずに、文句や不満ばかり出てくるだけじゃないですか?」

  • W女史:「最初はそうかもしれません。しかし、文句や不満を言い続けていても、誰が解決してくれるわけではありません。文句・不満を出し尽くすという⁠ガス抜き⁠というステップが重要です」

  • S氏:「社内でもいろいろな会議や打合せがあるでしょうが、それぞれ目的にあったコミュニケーション場面を使い分けていかなければなりません。⁠本音を言える場⁠を仕掛けるためには、コミュニケーションの質や特性について、ここにいるコアメンバーは知っておかなければなりません」

図4をご覧ください。

図4 コミュニケーションの質と特性、対応する⁠場”
図4 コミュニケーションの質と特性、対応する“場”

右側に、⁠フォーマル」⁠インフォーマル」と示していますが、その違いは以下の通りです。

  • フォーマルな場=結論を出す
  • インフォーマルな場=結論を出さない

「フォーマルな場」は、代表的なものが会議です。⁠真面目に真面目な話をする⁠ところです。議題もアウトプットも決まっていて、⁠報告する場"であり"決める場⁠です。コミュニケーションのスタイルは一方通行です。

一方で、「インフォーマルな場」は、ちょっとしたミーティングや⁠気楽に真面目な話をする⁠ところです。議題はなく場所も社内ばかりとは限りません。⁠相談する場"であり"共有する場⁠です。

業務改善において求められる⁠場⁠は、⁠インフォーマルな場」です。そこでは、本音が言える関係性づくりをしながら、気楽に真面目な話をすることで、協力関係に欠かせない⁠信頼⁠⁠知恵⁠が生まれることになります。

“場”づくりのきっかけは“局地ゲリラ戦”

「気楽で真面目な対話の場」などが、インフォーマルな場として形成されて、それだけが単独でどんどん組織に広がっていくことは、現実的にはほとんどありません。それなりの仕組みや場を支援する仕掛けが必要です。どのように仕掛けを作るのかについては、別途、お伝えします。

イメージを図5に示します。

図5 ⁠場⁠の伝搬
図5 “場”の伝搬

部門内のコミュニケーションが悪い、部門間ではセクショナリズムがある。⁠おかしいことをおかしい」と言うと、叩かれる…このような組織ではなく、

  • 「おかしいものは放置できないね⁠⁠ → ⁠直そうよ!」
  • 「隣の部門でこんな取り組みをやっているよ⁠⁠ → ⁠さっそく、聞いてみるよ」

と、このような組織にしたいものです。

最初は小規模な⁠局地ゲリラ戦⁠のように開始した小さなインフォーマルな場が、少しづつ広がって、場同士をコネクションしていく。このような地道な関係性づくり、組織風土改革は、業務改善を加速するものとして必ず視野に入れておきましょう。

セミナー開催のお知らせ

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2014年2月19日より、⁠毎月1回の開催・全3回のシリーズセミナー」を、本コラムを執筆し、⁠業務改善」に加えて「組織風土改革」を取り入れた特長ある業務改善を提唱し実践している株式会社カレンコンサルティングが開催いたします。

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