Agile2013の歩き方

第8回 [番外編]Agile2013発表までの道のり

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連載最終回となる今回は,自分が海外で発表するまでの道と,実際に現地で他の人の発表を聞いて学んだことについて述べたいと思います。

海外で通用する発表とは?

Agile2013への発表申請が採用されて,論文を書き終わった後は発表スライドを作成することになります。最初は日本風の箇条書きとグラフが多いプロジェクト報告のスライドを作成しましたが,海外ユーザにはどうやら不評のようでした。

そこで,自分の発表を作成する前に海外ではどのような発表内容が好まれるのか,どのようなスライドが好まれるのか,どのように発表をしたら好まれるのかを調べることにしました。

ここ最近の米国の発表の流行りを取り入れる

海外ではどのような発表が好まれるのかを知るために,YouTubeやSlideshareで有名人の発表/スライドを見ることから始めました。今回のテーマの分野の多くの公開されている発表とスライドの他に,発表自身についての発表とスライドも見て良いと思ったことをメモしていきました。

調べてみると,以前のAgileカンファレンスの発表スライドも公開されていたので,それらをすべてダウンロードして,自分が良いと思ったスライドの点もメモして行きました。次に海外のプレゼンテーションの仕方のWebinarに参加したり,ブログや書籍を読み漁りました。その結果,日本の発表と海外の発表は以下の点が違うと認識しました。

①参加者にメリットを与える
参加者は自分の時間を使って発表に参加している。参加者は発表に参加して自分や自分のまわりの何かを変えようとしている。発表はそれに答える必要がある。
②スライドは脇役,話が主役
発表者は参加者に自分を見るように仕掛ける。発表は情報を伝える場だけではない。発表者自身を売り込み,話している内容を信用してもらう場である。すなわち,スライドを見ただけで話の内容がわかるようではダメである。

参加者へのメリット

私の発表に参加していただける人たちの多くはアジャイルのコンサルタントだと聞いていました。また,私の発表は有名人の発表と重なっているため,初めての人や初心者はそちらに参加されると想定しました。なので,アジャイルに経験があり,以前にもAgileカンファレンスに参加した経験のある人にどのようなメリットを与えることができるのかを考える必要がありました。

採用された理由は文化の違いについて興味を持っていただいたことでした。しかし,提出した論文を朗読しても10分程度で終わってしまいます。ただダラダラ話していても飽きられてしまいます。

調べたところ,アジャイル適用の際に組織文化の違いによる問題については多くの話はありますが,社会的な文化の違いについては少ないような気がしました。あるとしてもプラクティスやツールの説明が多く,⁠アジャイルマインド」を取り入れた解決方法については見当たりませんでした。また,会社から会社のことも少し入れるように言われましたので,Webページで見る事ができる内容よりも社内で行っている社内活動について少し説明することにしました。

異文化とアジャイルマインドについて調査することにしました。ただスライド,ビデオ,書籍などから情報を入手するだけではなく,これらを自分のストーリーに取り入れて,海外ユーザの反応や意見を頂くために英語で自分のブログを書いたり,アジャイル関係の掲示板に書き込みました。このようにして海外ユーザが興味をもつ内容を探していきました。

発表者が主役のスライド作り ─人の心に訴えるプレゼンテーション

最近,海外では論理的に話を進めるよりも,参加者の心に残るストーリー(話)形式が好まれています。論理的に話を進めて裏付けのデータを見て頭で納得をしても,体が実際に納得をしていないので体が動かない場合が多いからです。

Agile2013でも,参加者が聞いた後に実際に動きたくなるような話にしてほしいと何回も言われました。ただ情報を提供するのではなく,印象が残るような発表をして,それに基づいて動作を起こさせるようにして欲しいということです。

要するに,発表の価値は提供する情報の量ではなく,聞いた人がどれだけ動作を起こすかが重要だと言うことです。そのためにはスライドよりも発表者の個性を表に出すことが重要です。レビューしていただいた人たちからも,ストーリー形式にして欲しいと言われていました。

発表用のストーリーは

  • ① 引き寄せ
  • ② 提示部
  • ③ 上昇展開
  • ④ 転換点
  • ⑤ 下降展開
  • ⑥ 結末
  • ⑦ 締め

から構成されます。

発表は最初の5分で印象付けるようにっと言われています。紙芝居を始める前に太鼓を叩いたりして子供を寄りよせるように,発表でも参加者を引き寄せます。モチベーションの話で有名なダニエル・ピンクの発表では,最初に食べ物やお金を払って自分の本を宣伝しています。ケリー・マクゴニガルも類似した方法で講演する前に参加者に何かを与えています。Agile2013でもリンダ・ライシングがこの方法を使って参加者に本を与えていました。

提示部では話の前提となる情報を伝えます。多くの場合はここで簡単に会社を紹介します。会社ホームページの会社情報の内容は参加者もインターネットから閲覧することができるので,話の内容に絡まして会社を紹介すると良いらしいです。

上昇展開では今回の話で解決する問題について話します。簡単に言えば,解決する前の苦労話です。

転換点では問題の解決を話します。下降展開では解決方法についての詳細を話します。

結末では話の結論を伝えます。最後の締めでこの話を聞いて,参加者に行って欲しいことを伝えます。

情報提供式の発表では,⑥結末/結論で発表は終わってしまいますが,ストーリー式の発表では,⑦締め があります。なお,この締めが発表の中で一番重要な部分です。引き寄せが良くても締めが弱いと発表のインパクトが弱くなってしまい,聞いた後の印象が薄くなってしまいます。発表を練習時間がそんなに無い場合は,先ず⑦締めを練習した後に①引き寄せを練習するようにっと言われています。

スライドの完成

調べた内容をすべてポストイットとノートブックに書き込んだら,半年でノートブック1冊ぶんのメモがたまりました。予定では遅くても開催される1ヵ月前からこれらのメモを整理し,それからストーリーを作成し,スライドを作成する予定でした。残念なことに他の仕事が入ってしまい,実際には開催される1週間前からこの作業を始めることになりました。

最初は海外のいろいろな良いプレゼンテーション資料の作り方を参考にして,文字が少ないスライド用の写真を準備していました。このことは内容をレビューしていただいた方とも事前に相談してOKをいただいていました。

しかし,発表の1週間前になって,Agile2013運営グループから金曜日までにはスライドデッキ形式のPDFファイルをアップロードして欲しいと連絡が入りました。スライドデッキ形式とは,スライドを見ただけでも話のあらすじがわかるものです。準備していた写真だけでは内容は不明なので,スライドごとに簡単な説明文を入れる形式に変えました。

スライドごとに話す内容を箇条書きで入れました。かといって全文を記述してしまうと,発表中に全文を読み上げるだけになってしまうので,参加者よりも書いた文書を見続けることになってしまいます。スライドを切り替えた時に一目でそのスライドで何を言いたいのか把握して,顧客を見ながらそのポイントを文書で伝えるようにした方が良いのです。

時間調整もこの方がしやすいです。予定して使う時間よりもスライドに書く内容を少し多めにしておいて,時間が足りなそうな場合は箇条書きにした箇所を省略します。スライドで印象に残したいことはそのスライドの最後に言いますが,全文を書いてしまうと,最初から話を読み上げるので,時間が足りないとその最後に言いたかったことを省略することになってしまいます(余談になりますが,発表後に公開したスライドは,発表後にこの箇条書きを文書に置き換えたものです。発表では使っていません)⁠

発表直前の準備

私の発表は開催初日です。実際は他者の発表を見て調整したいと思っていましたが,同類の発表と合わせたいと言われてこの日時になりました。同じ日時の他の発表を見てみると,アジャイルの書式を数冊書かれたマイク・コーン氏や,経験トラックの議長を務めるレベッカ・ワーフスブラック氏,レビューをして頂いたクリス・マッツ氏がいました。これでは私の発表を聞きに来てくれる人はいないと思いました。発表の準備を手伝っていただいたジョハンナ・ロスマンさんは来てくれると思っていましたが,発表の前日になって行けないと連絡が入りました。いよいよ誰も来ないだろうと思いながら準備を進めました。

発表する部屋のレイアウトや用意される備品を確認しました。しかし,実際する日の朝に再確認して見たらレイアウトが変わっていました。やはり同じ時間に有名人が発表しているので,少ない参加者向けにレイアウトを変更してくれました。前日に設備責任者に依頼してノートブックの画面がプロジェクターに正常に映るか確認しましたが,当日になって確認したらプロジェクターが変わっていました。発表まで少し時間が余っていたので,幸いにも対応することができました。発表の前に設備が変わる場合があるので,発表の少し前に部屋に行って再確認することが重要です。

参加は自由形式で,事前予約はありません。発表の時になって初めて参加者数がわかります。誰も来ないと思っていましたが,20人程度の参加者に集まっていただけました。驚いたことに,その中にはリンダ・ライシング氏もいました。予想もしていなかったので驚き,少し緊張しました。話が終わった後に良い発表だったと褒めてくれたので嬉しくなりました。

発表については反省する部分が多くあります。内容については興味を持っていただけましたが,発表の仕方に問題があるとの指摘がありました。自分でもこれには納得して反省しています。

自分の発表の後に他の発表を回って気が付いたことは,内容よりもパフォーマンスを重視している人が多いことです。発表側もよいパフォーマンスを行うように練習して来ていて,音楽を流して踊ったり,演劇をしたりする発表者もいました。参加者も楽しむことを期待しているように見えました。

また海外で発表する機会がありましたら,今回学んだことを生かして,参加者の皆さんを楽しませながらも聞いた後に行動を変えるような発表をしたいと思います。

著者プロフィール

小沢仁(おざわひとし)

株式会社オージス総研

米シカゴ育ち。シカゴ大学で物理を専攻。Oracle XDKを日本に紹介,Seasar英語ページを作成,ESB Muleコミッタとして同ソフトの日本ローカライズ/日本語サイト構築,WaveMakerの日本語ドキュメントを作成,Apache ManifoldCFコミッタ/日本語ページやMySQL対応を貢献。IEEE APSCC 2009などでSOAの研究発表も行っている。

Liferayに興味をもち,Liferay.comフォーラムでサポートしたりWikiページを作成している。Liferay6およびLiferfay IDEの日本語化や日本語資料も作成している。2012年にLiferay社からグローバルレベルでの「Liferay Community Contributor of the Year 2012」を受賞。

現在,米ナッシュビルで開催されるAgile2013カンファレンスでオフショア開発についての発表申請に時間を費やしている。

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