Lifelog~毎日保存したログから見えてくる個性

第15回 忘却の川

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忘却の川

「忘れる」とは,いったいどういうことなのだろうか,と考えることがあります。

もちろん,LifeLogだ,『記憶する住宅』だといいたてても,その支援なしに筆者が徒手空拳ですべてを覚えているわけではなく,すべてを記録できているとも思ってはいません。

これはイディオサヴァンとは違うところです。

サヴァンは生得的な能力として「忘れない」存在であると考えられる不思議な現象です。記憶の研究で知られるルリアの『偉大な記憶の物語』によれば,「忘れられないこと」はほとんど不幸と同義語なのだといいます。

機械的な記録のよいところは,不要だとか見たくないと思えば,いつでも任意にシャットダウンできるところです。幸福な記憶を追求できる可能性があります。選択的に,それにしても相当なことを記録し,それを参照する生活の中で,着実に忘却とはかけ離れた生活をしているのにはちがいないのです。

ハラルト・ヴィインリヒの『<忘却>の文学史』(白水社)によれば,ギリシャ神話では,記憶の女神<ムネモシュネー>と忘却の女神<レーテ>を並行して置いて,両方を信仰したといいます。

「苦悩と苦痛が人間に襲いかかったときには,なによりもまず,忘却の女神に対して,苦痛からの治癒と苦悩からの癒しが請い願われた。なぜなら自分の不幸を忘れることができれば,それはすでに幸福を半ばは手中にしたも同然なのである」。

『<忘却>の文学史』(白水社)

なるほどねーという感じですね。記録し尽くした暁には,忘却のほうが重要になるということは,心に留めておいてもよいことです。

忘却と「すべて」

エントロピーが無限に増加した状態に似て,「すべてのすべて」の問題は,どこになにがあるのかわからなくなることであるのかもしれません。

幸い,物理的なモノと違って,コンピュータのデータは,しまう場所に事欠くことがありません。単体で1.5TBのハードディスクもいよいよ登場(しかもすでに2万円台/2008年10月現在と安価!)ということで,「手のひらに人生を」『LifePalm』(©美崎薫)も,いよいよそこまでやって来ようとしています。

『PilePaperFile』の自動化

すべての情報を扱うことで重要なことは,情報の重要度を判定していくことだろうと考えています。判定して,その価値観をシステムに組み込むことです。

人間の可処分時間は限られていますから,すべての情報に目を通すことは,物理的に不可能であるか,とてもロスが多いので,できるだけ広く浅く情報を取る部分と,深く知っておく部分とにわけて,両方をバランスよく回しておこうということです。

世界が多様化しているいっぽうで,緊密に結びつくようになっている現在では,どんな世界のどんなことであれ,無知であってよいわけではないし,そこで起きていることを理解することには,なんらかの意味があると考えられます。

そこで『PilePaperFile』では,「広く浅く」の部分は,できるだけ自動化する方向をめざしています。

自動的に天気や新聞の記事をゲットする,という方向性です。

新聞の記事も,キーワードを設定できるようにしようとしています。対象とするサイトも,随時増やしていく予定です。

『PilePaperFile』で手に入れた情報

『PilePaperFile』で手に入れた情報

『PilePaperFile』を使って手に入れた情報のうち,天気予報,天気図,テレビ番組表,新聞などは,自動的にWebから取得しています。新聞記事の取得は半自動化していて,いずれ全自動にするべく開発を進めています。

著者プロフィール

美崎薫(みさきかおる)

夢想家,未来生活デザイナー,『記憶する住宅』プロデューサー,記憶アーティスト。住宅,書斎,机をはじめ,ハードウェア,ソフトウェアの開発をプロデュース。著書『デジタルカメラ2.0』(技術評論社)など多数。

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