Lifelog~毎日保存したログから見えてくる個性

第17回 質感をどう扱うか

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アイコンなんてまどろっこしい

最近とみにアイコンをダブルクリックしてウィンドウに開く,という手続きがめんどうくさくてたまらないのです。アイコンを探した上に,わざわざダブルクリックするだなんて。考えるだにぞっとしない話です。めんどうじゃありませんか?

考えてみると,GUIを使い始めた最初から,アイコンを選んでダブルクリックなんてことは,ばからしくてやってられんぞと思ったのです。CUIを礼賛しているわけではなくて,中途半端すぎるGUIの事情に,ついていけないものを感じていました。

なんだよアイコンって,って考えます。なぜアイコンをクリックしてウィンドウを開くなんて作業が必要なんでしょう。

アプリケーション中心の時代なら,アイコンがスイッチの代替になっていたことはわからないではないのです。OSは数種類,アプリケーションは数十種類程度。そのくらいの中程度の規模のオブジェクトを区別するのにはアイコンは悪くないデザインです。

アイコンのデザインは,コンピュータとOSとアプリケーションの,コンピュータに特有の事情の産物に思えます。

解像度の低いディスプレイでは,情報を充分表現できないから,アイコンという形に仮託するしかないのです。解像度が,1920×1200ピクセルあったとしても,まだ紙や机の上の解像度に較べたら低いと思います。1920×1200ピクセルを2~4画面くらいつなげて使えば,広さは足りてくるかもしれませんが,今度は操作の問題が起きそうです。

結局のところアイコンやディスプレイは,ライフログのような,数百万規模のコンテンツに満ちあふれた時代には即していないのではないでしょうか。

アイコンはわからない…。

アイコンはわからない…。

というか,なになのか,ぜんぜんわからないですよね,アイコン。ライフログで検索のログとかもとっているのですが,なになのか,開いてみないとぜんぜんわからないです。

質感に満ちた現実世界

現実世界は質感に満ちています。

たとえば手紙。

秘書がいたとしたら,届いた手紙は開封して,中身で分類して,最小限のものだけを机の上に並べてくれるはずです。ユーザーは中身の見える並んだ状態で手紙を選択し,処理をすることができます。中身そのものが情報なのです。

開いた手紙のかたち,重さや厚みや手触りや質感,すべてが情報です。秘書がいたとすれば,そもそもダイレクトメールは秘書が処理してくれるかもしれませんので目にする機会はないかもしれませんけれど,ダイレクトメールはダイレクトメールのかたちをしているし,私信は私信の,請求書は請求書のかたちをしているものです。

モノには質感がつきもので,質感のないものはないわけです。

コンピュータのアイコンではすべてが欠落します。

コンピュータを使うと,メールでは,タイトルだけ1行だけしか見えないような一覧を見せられて,手がかりのとても少ない状況で,中身を予測しながら開いてみたりしなければなりません。

どんな作業でも紙で行うと,とても手がかりの多い状態で作業できるのに,コンピュータやGUIを使うと,きわめて貧弱な情報しかない状態に陥ってしまいます。

コンピュータを使うからといって,ここまで質感に無頓着で平気だというのは,これはやっぱり,相当おかしいんじゃないでしょうか。コンピュータのなかにさまざまなものを格納すればするほど,質感から遠ざかっていく,というのは,ライフログを実践している危機感のひとつです。

コンピュータのなかで貧弱だなと思うもののひとつに,サムネイルがあります。サムネイルはアイコンに比較すればマシのように思えるかもしれませんが,見えないストレスは却って高いようにも感じます。あの小さなサムネイルで,1000万画素を超えるような写真の,いったいなにがわかるというのでしょう。

紙のよさを実感する『中国行きのスロウボート』

紙のよさについてはいつもしみじみと感じています。

紙そのものであること,モノであることこそが,紙のよさの根源にあります。筆者はデジタル化のよさを説いていますが,紙には紙のよさがあることを充分承知したうえで,あえてデジタルを選択しているわけです。

「紙のデジタル化」といって,本を解体してスキャンしてリサイクルしていくのは,書物フェチ,コレクション型のビブリオマニアには耐えがたいのかもしれないな,と思うことがあります。

余談ですが,紙をスキャンするいっぽうで,紙ならではの本を集めているのもコレクターたる筆者の日常です。30年前の本でも,昨日買ったのとおなじくらいぴかぴかで書棚に収まっている極美本コレクターなのです。スキャンするのはいわば書物以前の雑本のたぐいなわけです。

2008年の今年は,刊行以来24年探していた『中国行きのスロウボート』と,『黒蜥蜴』を入手し,蔵書印に凝り始めました。同時に,『中国行きのスロウボート』の版元である湯川書房の湯川成一氏がなくなった年でもありました。

『中国行きのスロウボート』

『中国行きのスロウボート』

村上春樹著『中国行きのスロウボート』(湯川書房/湯川72倶楽部)限定100部,小B6,ペン署名,革装マウント装,布装二重差込函,1984.06.15

著者プロフィール

美崎薫(みさきかおる)

夢想家,未来生活デザイナー,『記憶する住宅』プロデューサー,記憶アーティスト。住宅,書斎,机をはじめ,ハードウェア,ソフトウェアの開発をプロデュース。著書『デジタルカメラ2.0』(技術評論社)など多数。

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