Lifelog~毎日保存したログから見えてくる個性

第22回 出てくる体験・セレンディピティ

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出てくる体験とセレンディピティ

よのなかでは,偶然タイミングよくであうことを「シンクロニシティ」とか「セレンディピティ」というようです。

ライフログで実現するであろう「出てくる体験」は,筆者の観察によるかぎりでいえば「セレンディピティ」とはまったく異なるものです。

そもそも「シンクロニシティ」「セレンデピティ」は,体験の印象深さによって,大きく左右されるものです。

確率論的にいうと,ある事柄とタイミングよく別の事柄が起きるときに「シンクロニシティ」が起きるというわけですが,事象としては4つの場合が考えられ,それに対応する人間の判断によって,次のようになります。

事柄と記憶マトリクス

事柄と記憶マトリクス

人間が記憶しやすいのは,ふたつの事柄が重なったときです。

ある事柄 別の事柄 人間の判断
ある事柄が起きる 別の事柄が起きる シンクロニシティ。話題になる。記憶されやすい。
ある事柄が起きる 別の事柄が起きない 記憶には残らない。
ある事柄が起きない 別の事柄が起きる 偶然。記憶に残るかも。
ある事柄が起きない 別の事柄が起きない 記憶には残らない。

ある事柄と別の事柄がタイミングよくあうことは(それぞれの確率が1/4とすれば)1/4の確率で起きますが,ひとの意識にのぼって記憶しやすいのは,ほとんどある事柄と別の事柄が重なって起きたときに限られ,そうでない場合については,まず意識されることすらなく終わってしまうでしょう。

このようなシンクロニシティは,めったに起きない点では,それを体験した人にとっては貴重な体験ですが,事象と事象の重なりという意味でいえば,ごく普通のできごとといってよいだろうと思います。

フィルタリング

いっぽう,ライフログでの「出てくる体験」の場合は,シンクロニシティよりは,遙かに高い頻度で起こります。

筆者自身の統計によれば,1年間で560回を超えるほどの頻度です。これは,シンクロニシティが人生の中でせいぜい1回とか2回とかしか起きないであろうのに較べて,遙かに高い頻度です。

なぜこれほど高い頻度で起きるのか。

ライフログでロギングしているものは,一度自分自身のフィルターを通して取捨選択しているためである,というのが理由のひとつだろうと考えられます。

写真を撮る場合でも,Webの記事をクリップする場合でも,メールを読む場合でも,人間はまず最初に価値判断をして,必要であるかそうでないかを判断するものです。人間が写真を撮るといって,360度全方向を,のべつまくなく24時間(そのうち8時間は眠っているだろうのに)記録することはない。

筆者は,数年にわたり,1年間に5万枚,1日あたりほぼコンスタントに100枚写真を撮ったことがあり,ピークでは1日に1000枚写真を撮ったこともありますが,それでも動画で記録するのとは桁違いです。ざっくりと4方向を秒間8駒とか24駒とか30駒で24時間撮影しつづけた場合,1年間の写真枚数は,次のようになります。

8駒×60秒×60分×24時間×365日×4方向=1009152000駒。

桁が多くてなんまいだかわかりません…。5万枚よりはずっと多いことは明らかですね。

体験を選別

マンガを読むといって,すべての週刊誌/隔週刊誌/月刊誌に目を通すことはないでしょうし,テレビを見るといって全チャンネルを24時間見続けることもない。行ってもいいけれど,そこから付加価値を見いだしつづけるのはむずかしい気がします。もっとも,新聞社やテレビ局では,全チャンネルを表示していますから,浴びるように情報を得ることで,情報を再発信できる可能性はありますけれど。

手書きアニメ以外の映画を撮る場合,NGカットはメイキングやエンディングの背景にはなるとしても,本編に使われることはありません。撮影したすべてのカットのうち,使う映像はごくわずかです。

小学校からのクラスメイト全員と一生涯友だちであることもないし,すべての動物を飼うこともない。猫を飼うとしても,100匹も多頭飼いするのは,ブリーダーか動物園かマリエか(マリエは犬だが)ムツゴローさん(動物一般)かときどきニュースになるねこおばさんくらいのもので,猫の寿命を15年とすると一生で飼う猫の数は,4~5匹程度なのじゃないでしょうか。

これが,機械的な記録と人間の記録の違いです。あるいは人間の生活によるフィルタリングの意味です。

一次フィルターで体験を選別しているために,記録されたもののなかは外界とは較べものにならないくらい高密度になっているので,そのなかではひんぱんに「出てくる体験」が起きるのだと考えられます。

ちょうど,皮膚で隔てられた細胞の中身と外界みたいな感じです。

ライフログシステムにとっては,フィルタリングしやすいかどうかはきわめて重要である,と考えられます。次に大事なのがタギングだろうと思いますが,タグづけしなくても,充分フィルタリングしておけば,1年間で560回も「出てくる体験」は起きるのであり,タギングの価値は,フィルタリングの重要性に較べて,やはり桁違いに劣るのではないか,と考えられます。

著者プロフィール

美崎薫(みさきかおる)

夢想家,未来生活デザイナー,『記憶する住宅』プロデューサー,記憶アーティスト。住宅,書斎,机をはじめ,ハードウェア,ソフトウェアの開発をプロデュース。著書『デジタルカメラ2.0』(技術評論社)など多数。

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