Lifelog~毎日保存したログから見えてくる個性

第79回 電子私家版の電子書籍で行こう

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紙の書籍のデジタル化と自由度

ライフログ的な観点でいうと,筆者はこれまでに読んだ紙の書籍を順次デジタル化していますが,既存の電子書籍では,その成果を電子書籍と融合することが困難です。これも自由度のひとつです。

たとえば,平井和正の『死霊狩り』という作品があります。これは1969年に講談社の『ぼくらマガジン』で連載したマンガ『デスハンター』⁠桑田次郎画)の原作として書かれたものを小説化したものです。小説版は,早川書房(1972年,生頼範義画⁠⁠,角川書店(1975~1978年 生頼範義画⁠⁠,リム出版/エーブイエス(,泉谷あゆみ画⁠⁠,アスキー/アスペクト(1997~1998年 山口譲司画⁠⁠,角川春樹事務所/ハルキ文庫(泉谷あゆみ画)と繰り返し出版されているほか,1998~2001年にはアスキー/アスペクト,およびエンターブレインで梁慶一が再度マンガ化しています。

『死霊狩り』(平井和正著)

『死霊狩り』(平井和正著)

イラストは,⁠デスハンター』(桑田次郎画)および『死霊狩りZOMBIE HUNTER』(梁慶一画)より。比較してみると,構図,描写共に,桑田次郎のシャープさに驚き,新たな発見が山ほどある。これはおもしろくてのめり込む。

じつに5人ものイラストレーターや画家が,さまざまなシーンをビジュアル化している作品でもあるわけです。筆者は,これらのすべてを個人的に所有しています。こうなると,それらすべてを比較しながら読んでみたい,読むというよりはむしろ愛でてみたいと感じるのを止めることができません。

それを紙で行うのは,けっこうむずかしいのです。⁠デスハンター』は約800ページ。コミック版『死霊狩りZOMBIE HUNTER』も約700ページを超えた作品です。合計1,500点以上の画像から,同じシーンを並べたり,好きなシーンを比較して見る作業は,紙ではかなり困難です。そもそも物理的な紙でモノを整理できる限界はせいぜい数百程度であって,それを超える場合にはむずかしいのではないか,というのが筆者の考えです。事実,紙では,これまでもっていても,一度も比較して読んだことがないのです。同時に開くことさえ困難だ,ということもあります。2冊以上の本を同時に開いたりめくったりすることは,普通に考えればとてもむずかしいことです。

「あの」シーンを,生頼範義は,山口譲司は,泉谷あゆみはどう描いているのか。1960年代末の桑田次郎と20世紀末の梁慶一の表現はどこまで進歩したのか。あるいはまだ桑田次郎のほうが先んじているのか。比較してみなければ答えを出すことはできませんし,それで得ることもきっと多いだろうとは思うものの,紙ではそれを行うことは困難で実現せずにいたわけです。電子の書籍なら,その可能性が見えるのではないか,と,つまり電子の書籍は,過去のすべてのライフ(あるいは人類の)ログを統合して,自由自在に呼び出すことを可能にするのではないかと期待していたのです。

過去と未来のすべてを統合して読む読書

こういうのをリアルに比較できるのが,電子の書籍の魅力です。これを頭のなかだけで行っていたのが,マンガ家の萩尾望都です。萩尾望都は1979年にアマゾンに旅行に行ったときに,一冊もっていった『LaLa』を,何回も飽きずに読んでいて,それを不思議に思って訊くと「まずね,山岸涼子さんが描いているマンガを,大島弓子さんが描いたらどうなるかなぁ,青池保子さんならどんな風に描くかなぁって思って読んでる。その反対のこともしてる。だから何回読んでも飽きない」と答えたのだとか(⁠⁠KAWADE夢ムック総特集萩尾望都 少女マンガ界の偉大なる母』河出書房新社pp.157⁠⁠。

天才ならぬ凡人にでも表現されたものに限れば,このような想像力(あるいは編集力?)を発揮して,これまでにはなかった楽しみを楽しむことができるのです。これこそが,電子書籍が実現する可能性のひとつなのではないかと筆者は考えます。

もちろん,著作権という課題はありますし,著作権を否定するわけではありません。それでも筆者には,現実の電子書籍は,そういう「夢の世界」とは遙かに隔たった地面の上をはいずっているように思えてなりません。

著作権という点でいえば,それぞれの作者は全員存命ですが,人類の常として300年は生きないでしょうから,ひょっとすると2300年には,そういう夢の電子書籍『死霊狩り』を実現できる可能性もあります。ただし,2300年にはたぶん筆者自身も生きておりませんから,その夢の電子書籍版『死霊狩り』を手にすることはできないのです。公開したバージョンとしてでは,です。

私家版とスクラップブッキング

そこで私家版です。

かつて,萩尾望都は,マンガのうち自分の好きなページだけを抜き出して,私家版の抜き出し漫画集を作っていたといいます(⁠⁠思い出を切りぬくとき』河出書房新社pp.158-160⁠⁠。年に200冊もを作っていたとか。

こういうのを,広く,スクラップブッキングと呼ぶとすれば,その歴史には江戸川乱歩の『貼雑年譜(はりまぜねんぷ⁠⁠』も連なっているでしょう。

電子の私家版は,こういうものを実現する手助けとなります。もちろんこれも,別に電子でなければできないことではありませんし,紙であっても,萩尾望都のように実現していた人はいるともいえます。ただし,紙に印刷されたものを集めて私家版とするには,たとえば左右ページをどう扱うか,サイズの異なるものをどうするかなど,現実的な課題にすぐに直面することになります。

たとえば,あるマンガを雑誌連載と,コミックの両方で所有しているとして,雑誌連載のときのカラーページをコミックの該当ページに挿入して読みたいというようなときに,それを容易に満たす方法として,この電子の私家版が考えられるのではないかと思うのです。

編集できる電子書籍

結局のところ,筆者の行っているのは,ある種の「編集」作業であるわけです。そして編集するためには,出来合いの変更不可な電子書籍では不充分であり,もうすこし自由度の高いなにものかが必要になります。そのことが,実際に電子書籍ソフト『bookViewer』を作ってみてわかったことです。

自作の電子書籍ソフト『bookViewer』で青空文庫の『風立ちぬ』(堀辰雄)を表示した

自作の電子書籍ソフト『bookViewer』で青空文庫の『風立ちぬ』(堀辰雄)を表示した

ペーパーカラー,縦書き,詰め表示にこだわって作成中。

このbookViewerは,前述した既存の電子端末の不満点を取り除くように作りました。具体的には,bookViewerの特徴は,前述の不満点のちょうど逆となります。

  • 機能1:タイトルは,用意した任意のタイトルを読み込めます。テキストおよび画像を読めますので,自分でデジタル化した書籍を自由に扱えます。
  • 機能2:表現力にこだわりました。Unicodeに対応して漢字を表示できるほか,Unicodeにない文字も表示できるようにしています。背景は紙の雰囲気を再現し,文字は縦方向には詰めて表示しています。縦書きでの句読点や約物の位置,ダッシュの連続なども微調整して,自然さを追求しています。
  • 機能3:背表紙機能に対応しています。書棚モードの背表紙で本を選び,本文を読み始めることができます。
  • 機能4:手書きメモ機能をもちます。脚注表示機能ももちます。
  • 機能5:レイアウトの自由度があります。

背表紙は,画像があればそれを,画像がなければ革装した本をイメージした画像にタイトルを表示する

背表紙は,画像があればそれを,画像がなければ革装した本をイメージした画像にタイトルを表示する

本の厚さは,文の長さによって自動判別。⁠こころ⁠⁠,⁠ドグラ・マグラ⁠⁠,⁠明暗』などは厚みがある。

bookViewerはモードレスで手書きメモを入れることができる

bookViewerはモードレスで手書きメモを入れることができる

登場人物紹介や脚注などはポップアップで表示する。

『死霊狩り』私家版をbookViewerで読んだところ充分楽しかったのですが,もしほんとうに書籍として実現できたらなどと夢想しています。

なお,⁠bookViewer』の試作版は,http://www42.tok2.com/home/papermoon/bookViewer/index.htmlでフリーで公開しています。青空文庫を読むための姉妹ソフト『aozoRandom』は,http://www42.tok2.com/home/papermoon/aozoRandom/index.htmlで公開しています。

著者プロフィール

美崎薫(みさきかおる)

夢想家,未来生活デザイナー,『記憶する住宅』プロデューサー,記憶アーティスト。住宅,書斎,机をはじめ,ハードウェア,ソフトウェアの開発をプロデュース。著書『デジタルカメラ2.0』(技術評論社)など多数。