実践!GTD~一歩先の仕事管理

第12回[最終回]私の感じたGTDとは

私の感じたGTDとは

今回で最終回です。今回は私の感じたGTDの一端についてまとめたいと思います。

50歳の人が「宇宙飛行士になりたい」とInboxに入れるのは是か非か

友人とGTDについて話す時に、次のような課題となる題目があります。

50歳の人が「宇宙飛行士になりたい」とInboxに入れるのは是か非か。

傍目から見れば、これは確かに現実不可能なようにみえます。だから、これはゴミと判断して、どこにも保管されず、捨てる運命のようにも見えるでしょう。しかし、果たしてその判断は妥当なのでしょうか?

50歳の人を仮にAさんとしましょう。Aさんは、⁠宇宙飛行士になりたい」と心に浮かんできましたが、実のところ、Aさんにとってそれが本来の目的ではない場合もあります。単に人ができなさそうなデカいことを、実現してみたいという願望が、⁠宇宙飛行士になる」という言葉出てきただけかもしれません。

この場合ならば、別の方法も考えられそうです。例えば、⁠最後の授業』のランディ・パウシュは、宇宙飛行士になりたかったと言っていました。しかし、彼の本来の目的は、無重力の状態を感じたかったことです。彼の場合、宇宙飛行実験に参加することで、その本来の目的を達成することができました。

また、こうも考えられます。Aさんは宇宙飛行士にならなくても、単に宇宙が好きで、宇宙開発に貢献したいというのが、本来の目的であるということも考えられます。それだったら、Aさんが宇宙飛行士になる以外に、いろいろな貢献する方法が考えられそうです。宇宙の研究機関に働くのはわかりやすい例ですが、宇宙開発機構へ行くための交通手段の運転手になることも、宇宙開発に間接的に貢献していると言えるでしょう。はたして自分の本当に満足することは何なのか、いったいどんなことをしたら最終的に自分は満足するのか――自分自身に問いかけることも必要なのではないかと思います。

あるいは、こうも考えられます。やはり、⁠宇宙飛行士になりたい」というのが本来のAさんの目的なのかもしれません。しかし、ここでゴミにしてしまう理由があるでしょうか? 何度もお話してきましたが、GTDのリストの区切りは、あなたの胸三寸で決まるのです。あなたがInboxの『物』について、実行すると一旦決めてしまえばProjectリスト行きにもなるし、しないと頑なに思えばSomedayリスト行きにもなるのです。

Somedayリストは、以前にもお話したとおり、実行することは決めてないが、それを達成するには何かしら行動を伴うリストです。Somedayリストは、実行することを約束していませんが、いつまで実行しないことを約束していると思いますか? それは今のみならず、数ヶ月先だけでなく、未来永劫人生が終わるまでのどの時間すらも、Somedayリストは実行することを約束していません。ですから、私達のSomedayリストの中に、おそらく実行されずにずっと眠ったままの項目がきっとあると思います。しかし、それはそれでいいのではないのでしょうか。

自分自身が望んだことを思い出してくれるもの、それがSomedayリストです。思いつくことと、実現することとは、別の問題です。あなたがそう思ったこと、願ったこと自体こそが、大切なのです。あなたが子供にしたかったこと、やりたかったこともあるでしょう。最近にもやりたかったけどやめてしまったこともあるかもしれません。その気持ちを捨てなくてもいいのだと、Somedayリストは語りかけているように、私は思っています。

このように、50歳のAさんが「宇宙飛行士になりたい」と思いついても、いろいろな可能性が秘めています。本当の気持ちは言葉に隠れています。

とらえどころのない気持ちを全て受け止める

先ほどの例にある通り、私たちから発する言葉自体が、気持ちそのものを表しているとは限りません。本来の何かしらの気持ちの一辺が、言葉になって現れ出ると考えてもよいかもしれません。GTDではそのような状況が発生することを想定して、処理ステップで、再度その言葉の表すものは何なのかを見直そうとしています。

気持ちの取り扱いにくさは、言葉自体もそうですが、タイミングの問題もあります。つまり、全く状況に関係ないことでも思い出す時は思い出す、ということです。例えば、仕事で没頭していてもふっと家の用事を思い出すことがあります。あるいは、数年後には家を建てたいと考えていたりしますが、今はそんなことを考えている余裕がなかったりもします。しかし、随分未来のことといっても、いつかは考えなくてはいけません。今日のことと数十年先のこととを同時に思い出せるのが、私たちの習性でもあります。

GTDはそんな私たちの習性をも受け止め、全ての発露する気持ちを受けとめようとします。それが収集ステップです。今は必要でなくても、いつか必要になる気持ちを、冷凍にして保存する術を提供したのが、GTDのリストでもあるのです。特にGTDの中でも特徴的なのは、読みたい本や行きたい場所などのわかりやすい未来のこと以外にも、漠然としたアイデアや夢なども、一切を含めることです。はじめは、こんなこと収集してもいいかな、と心配になりますが、GTDはいつでもどんとこいです。

懐の広いGTDは、結局の所、自分の気持ちを受け入れる器のように思います。最初は単に仕事の項目だけが収集の中に入ってくるかもしれませんが、何か心配な気持ちや、もやもやした気分など、なんだってGTDに入れてもいいのです。なぜなら、それらは処遇の決まっていないものだからです。

処遇の決まっていないものであれば、それが物理的であれ精神的であれ、GTDは形態を問いません。達成したい何かも、現状に満足しない心の揺れという点では、処遇が決まらずにいらいらする気持ちと、同じなのです。

どんな気持ちも否定しない

ところで、この例は、数年先の気持ちも直近に必要な気持ちもGTDは受け止める話をしてきましたが、GTDの懐の厚さはそれだけに留まりません。同じことに対して相反する気持ちの両方すら、受けとめられるのです。

私は、自分自身のことを扱いにくい思いをしていました。それは、ものすごくこうしたいと思っていながら、一方で反論する気持ちが発生したりします。両方の気持ちが同時に発生して、拮抗してしまい、結果、満足のいかない状況を招くことがよくありました。こうしたいという願望と、それに対する反論と、二つの気持ちは、いずれも私自身の気持ちです。私はそれを、どうすればいいのかよくわからなかったのです。

GTDでは、いずれの両方の気持ちも存在していいのだと気づかせてくれました。ただ、時期をずらして用いさえすれば、両方の気持ちは拮抗せずに、相乗効果を示してくれるのです。このような気持ちの用い方を、GTDが示してくれることとは、思いもよりませんでした。分かりにくかった、私自身の中をクリアに理解できるようになったのもGTDのおかげです。

ばらばらだった気持ちを取り扱えるように

GTDの良い点を挙げるとどこから説明すればいいのか迷ってしまいますが、私が効果を感じた最大の点といえば、上記に説明した通り、気持ちをまとめた点です。

気持ちはばらばらに発生し、まとまりがありません。GTDでは出てくるそのままで受け止めて、それから対処しようとします。そうすることで、ばらばらだった気持ちを、整理し、まとめて取り扱うことができるようになりました。それに対して大きく変わったのは、未来を想定できるようになったことでしょう。

どのような変化が起きたのか、一言で表すとするなら「統合」された、という言葉がもっとも的確なように思います。

これは、私が大きく感じた一例です。他の人では別の不足した部分に焦点があたるかもしれません。

一歩先の仕事管理

今回の連載で、私は、GTDを、仕事を管理するシステムとして紹介してきました。しかしながら、私がGTDを続けてきて感じたのは、GTDは仕事以外にも、何かを成し遂げるためには必要な技術であるということです。仕事以外の新しいことについて、そして人生について、それらについても、仕事と同様に考える方法を身につけたと思っています。

さらには、GTDを通じて、私自身が大きく成長したことを感じ取っています。その内容については、前回でお話した内容や、上記の内容などについてです。このような成長は、何もGTDに限ったことではないと考えています。GTDであれ、スポーツであれ、継続し続けることで、何らかの道というものを体感するようになるのではないか、と私は思います。

その中でも、GTDは、割と実践しやすい方法です。仕事に従事することで、GTDを利用できる機会が沢山あります。いつもの仕事場所こそが、実践であり練習であり、鍛錬の場なのです。また、GTDは仕事を楽にさせることで、短期的にも効果を発揮することもできます。通常、練習と成果が同時に発生する状況というのは、あまりありません。ピアノやスポーツにしても、コンクールや大会という実力を発揮するための場所があって、そこでようやく成果に結び尽きます。その点において、GTDは、実践と成果のサイクルが既に用意された、絶好の方法です。

仕事の枠を広げて自分自身の全てについて取り扱うことができ、そして自分自身の成長にも寄与することができるのが、GTDだと私は確信しています。GTDは単なる仕事管理だけではなく、よりいろいろなことであなたを助けてくれる、⁠一歩先の仕事管理」になるのではないかと思っています。


GTDは、私にいろいろなことをもたらしてくれました。それが皆さんに伝えられればと思って、GTDの紹介をしたり、勉強会を開催したりしています。この連載を通じて、GTDについて興味を持ったり、実施したりする皆さんのきっかけになれば、うれしく思います。

最後に、お付き合いいただきました読者の方々、連載の場を提供いただきました技術評論社と担当編集者様、いつもかわいらしいイラストで連載を彩ってくれたイラストレーター様、それから文章の校正に付き合ってくれた同居人に感謝します。

ご愛読、ありがとうございました。

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