エンジニアのためのSoulHacks

SoulHack #7 心の中になるべく大きな地図を持とう

2008年11月17日

この記事を読むのに必要な時間:およそ 5 分

打たれ強さ2.0

「タフでなければ生きていけない,やさしくなければ生きていく資格がない」という言葉がありますが,⁠タフさ」には二種類あると思います。つまり,地図のある中でのタフさと地図に頼らないタフさです。

たとえば,自分の所属する企業や職位に強いアイデンティティを持っている人は,批判を受ける時に,自分の地図の中で位が上の人からの批判と下の人からの批判で,無意識的に違う構えを取って対応していると思います。

自分の意見について,位が上の人から批判されたら「あの人は現場の難しさを知らない」と思い,地位が下の人から批判されたら「君には全体像が見えてない」と言う。それを口に出すか出さないかは別として,頭の中で自分を正当化して自分を守るパターンを持っているはずです。

その場合「位」の認識が批判者と自分とで一致していれば,その自分を守るパターンが殻のように作用します。批判の口調が厳しければ厳しいほど,自然とその「殻」も固くなり自分のアイデンティティが守られます。

この人に対して,発言者の「位」を一切考慮しないで,言説の内容にしか関心のない人が批判をしたとします。その批判者の中では,言説の上下に関する詳細な地図があるのですが,発言者の「位」という概念がそもそも存在しないのです。

この場合,議論の衝突と地図の衝突が同時に起こることになります。

図式的に言えば,⁠君には全体像が見えてない」という意見に対して,⁠いや私の方が位が上だから,全体像を見ている」という批判が議論の衝突です。これは,同じ世界観の中での議論ですから,仮に議論に負けて自分が下だったということになっても,地図はダメージを受けません。

それに対し,⁠全体像とは何ですか,私にわかるように説明してください」というのが,地図に関わる批判です。つまり「私にわかるように説明できなければ,あなたはそれを言う権利がない」という主張は「位に関係なく誰にでも全体像が見える」という意味で,地図が衝突しています。議論の対象が元の意見から地図そのものになっていきます。

つまり,本丸の後ろに隠れていた地図を無理矢理引っぱり出されたような格好になり,議論の勝ち負けに関わらず,予想外の深いレベルでダメージを受けてしまうのです。

実際には,たくさんの言葉の行き違いの中にもっと微妙な形で進行していくと思うのですが,ブログ炎上のショックでブログを閉鎖してしまうようなケースは,議論の中で,⁠世の中には自分の(主張でなく)地図が全く通用しない人がたくさんいる」ということにショックを受けたケースが多いのではないかと私は思います。

別の例を言えば,20年前くらいまでは,政治の対立軸が明確でした。与党と野党,保守と革新という対立関係は,地図を共有した対立関係でした。対立が激しくて,騒乱寸前のデモがあったとしても,政治というものがどういう要素で構成されていて,政治家のするべきことがなんであるか,社会全体で合意が取れていました。問題は,その共有された地図の上で,右に進むべきか左に進むべきかということであり,そこにいくら激しい対立があったとしても,社会は安定していたと言えるでしょう。

それに対して,⁠無党派」という言葉が使われるようになってからの政治状況は,共有される地図が崩壊しているということだと思います。議論は「日本は今どこにいるのか」という所から始まって,なかなかその先へ進みません。

与党も野党もたくさんの「地図」を抱えこむよう努力していると思うのですが,その分だけ,組織が機能しなくなり,意思決定が矛盾だらけになっているのではないかと思います。

複数の地図を持つということは,地図と地図との関係を整理する別の大きな地図が必要になるということで,それは,なかなか難しいことです。

従来の「タフさ」⁠打たれ強さ」という言葉は,揺るがない確固とした地図を一枚だけ持っているという意味でしたが,それとは全く違う意味の,地図を攻撃されても動じない強さ,言わば「打たれ強さ2.0」が必要とされているのだと思います。

著者プロフィール

中島拓(なかじまたく)

株式会社ブレーン研究部にて,Windows用ソフトウエアルーター 「PROXY-2000シリーズ」を開発する。 オープンソースソフトウエアとしては,Ruby用HTMLテンプレートエンジン Amrita/Amrita2,個人用GTD支援ソフト「レビュアブルマインド」の開発に携わる。

アンカテのブロガーとして,2006年アルファブロガーに選出される。

URLhttp://d.hatena.ne.jp/essa/

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