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禅で学ぶ「エンジニア」人生の歩き方

第10回 肩の力の,抜き方と,抜かせ方

金属疲労,なんていう言葉があります。

(ある程度)過度な負担であっても,分散したり,休めたりするのであれば,まだしもよいのですが,一箇所にしかも短期間に集中したりすると,どうしても,多くの人が思っているよりも割合にはやいタイミングで限界がきてしまします。

そうして,それは人間も,人間の身も心も,一緒です。

ある特定の部位にあんまり負荷が集中すれば,体だって心だって,悲鳴を上げてしまいます。肉体ですと,スポーツマン選手さんのニュースで「疲労骨折」なんていう単語を耳にします。

そうして,それは「心」にも言えるのです。また,外傷が見えにくいだけ,心のほうが重傷化しやすいようにも感じられます。

そんな悲鳴を心に上げさせないために,和らげるために。いくつかの禅語を選んでみました。

「まだ大丈夫」「もうちょっとならいける」と,知らず知らずに無理を強いてはいませんか?

周りの人たちに。いいえ,なによりもまず,ご自身に。

無理をしていないつもりで,している,かけているご自身の負担に。まずはせめて,気付いてみませんか?

禅語「不思善 不思悪」

ランク:新人 カテゴリ:疲労回復

「ふしぜん ふしあく」と読みます。不思とは「思わざる」。つまりこの禅語は「よいこともおもわず,わるいこともおもわず」という意味になります。

思いめぐらせ考えることが職分である,とも言えるエンジニアにとって,この禅語はどんな意味を持つのでしょうか?

ここで論じているのは善悪という概念です。

では。
そも「善悪」とはなんでしょうか?

「一人の殺害は犯罪者を生み,百万の殺害は英雄を生む。数が神聖化する」とはチャップリンの壮絶なる皮肉なのですが,実際問題として。現実は,boolean値のように「白か黒か」善悪が明確になることは,まずめったにないと思います。

中国系にある陰陽という考え方が,実は非常に面白いのですが。

陰陽は「ある個体に紐尽く属性」では“なくて”「ある関係性に紐尽く属性」になります。

つまり「Aさんは陰でBさんは陽」ではなく。「Aさんが,ある対象物αとの関係性においては陰で,別の対象物βとの関係性においては陽」となるわけです。

純粋な黒というものはなく黒の中には常に白があり,純粋な白というものはなく白の中には常に黒がある。

個体を見た時に,そこに純粋な白も黒もなく。ただ,ある別のなにかとの関係性において「そっちよりは白っぽい」「あっちよりは黒っぽい」となるだけなのです。

そうして。

善悪もまた,同じ思想なのではないかと思うのですが,そのあたり皆様はどう思われますでしょうか?

ある関係性のある1方向から見れば善悪というものは言えるでしょうが,違う関係性であったり違う角度であったり,という見解からみると,驚くほど簡単に善悪はひっくり返ったりするものだと,筆者は感じています。

時々,現場で耳にするのですが。
「僕間違ってない」「私の意見は正しいんだ」は,本当にそうでしょうか?

ある側面から見れば,無論それはYesだと思います。曰く,例えば「こちらのほうが技術的に理路整然としている」「このようにやるのがIT業界の常識/慣習だ」「そんな話は聞いたことがない」その他諸々。

でも。

それは「相手が望み,求めている正しさ」なのでしょうか?
その「正しさ」は,相手にとって受け入れやすいものなのでしょうか?
「相手の中にある理屈」を「想い」,その裏側にある思想を背景を哲学を歴史を,どれだけか知ろうと努力を重ねた結果としての発言なのでしょうか?

非常に厳しい物言いになってしまうのですが。
「自分が絶対に正しい」と固執している方の根っこにあるのは概ね「不安」です。

自分の手元にあるのが「かみ砕けていない丸暗記な知識」だけで,且つそれに全幅の信頼を置けるほどのものを感じていない方ほど,自分の意見に必死になってしがみつきます。

植物,特に樹木を連想していただくとわかりやすいですね。

根本にいくにつれ細くなる,逆三角形のような状態になってしまうから。つまり,基礎にあたる根っこは細いのに,中途半端に丸呑みした知識で,上の方だけは枝が伸び葉が多い茂っているような感じです。いかにもバランスが悪そうです。

そうして,そんなバランスの悪い状態だからこそ,ちょっとした風ですらぐらぐらと揺れ,その揺れを止めるために,些細な微風であっても頑なに拒むわけです。

心を病んでしまう,また病みそうになっている方に散見されるのですが。
「僕が悪かった」「自分が間違っていた」は,本当にそうでしょうか?

ある側面から見れば,無論それはYesだと思います。曰く「相手の思い通りにできなかった」「相手に損害を与えた」「相手の要求通りのものが仕上がらなかった」「相手が気に入ってくれなかった」その他諸々。

でも。
それは「真っ当な対価との交換による,正統な要求」なのでしょうか?

スキル不足は。状況にもよりますが,まずほとんどの場合においてそれを「罪」と断じるにはいささか乱暴に過ぎる判断であることが多いですし。

先方の要求が「明文化されていない」「矛盾している」「朝令暮改に過ぎる」「まったくもって練られていない」など,そも仕上がるために先方が出すべきものがまずかけているケースも,少なからず散見されるのが残念ではありますが現状です。

自動車事故でも。「0:10」の責任なんて滅多にないですよね?

比率はともかくとして,大抵の場合「お互いに非がある」ものなのです。つまり,一方的に「あなた“が”悪い」なんていう状態はほとんどないのです。「一方的に,あなただけが100%悪い“ことにしたい”」という状態は,残念なことにままあるのですが。

非常にドライな言い方になってしまうのですが。

よしんば,あなたが自責の念に駆られて,それで自体がすべて片付くのであれば。つまり,あなたが「心を病むほどの自責の念にかられる」ことによって,いきなり「決め事は十分に確定し」「企画は完璧に仕上がり」「設計は美しく完了し」「隙のない実装のプログラムがどこからともなく沸いてくる」のであれば。あるいは,あなたが自責の念にかられて病んでしまうほどに思い悩むのも「あり」なのかもしれませんが。

現実にはそんな都合のよいことは起きません。あなたが自責の念で潰れたとしても,せいぜいが「担当者の一時的な憂さ晴らし」以上の意味合いを持ちませんし,それは大抵「より一層の惨劇への序曲」でしかありません。現実問題として,プロブレムは何一つ片付いていないわけですから(お金の話が絡むともう少し「憂慮すべき話」になりますが……そのあたりは,またいずれなにがしかの機会を設けて書くことができれば,と思います)。

つまり。それこそどんな手段を用いてでも「必要な意志決定を迫り,とりあえず第一次開発のスコープを決定して,或いはそのあたりを一式仕切ってもらって」「後で改修可能な設計をするか,或いはしてもらって」「しかるべき実装を,するかしてもらう」必要があるわけです。

そうして,多少問題が発生したとしても,最終的にその仕事を形にするためにはあなたが必要ですし,そのためにもあなたは「潰れない」必要があるわけです。或いは。潰れていただいては困るわけです。

「自分は間違ってる」「自分は正しい」。

そんな両極端でbooleanな見解は,どっちもぺけぽんです。
そんなことよりも,もっと見据えなければいけない現実が片付けなければならない問題が,目の前に転がってはしないでしょうか?

不思善 不思悪。

善を思わず。悪を思わず。
自らをただまもるのではなく。自らをただ批難するのではなく。

思うのは見るのは「現実」にしたほうがよいのではないかと思うのですが,如何でしょうか?

著者プロフィール

がる

こなしている職業を語ると「……で,何屋さん?」と聞かれる,経歴が怪しいエンジニア。「知のコラボ」とか「シナジー」とかって単語で上手に糊塗してみたい。

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