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Googleを支える技術 ……巨大システムの内側の世界

本書に寄せて

「本書に寄せて」『Googleを支える技術 ……巨大システムの内側の世界』,p.iii~ivより転載
まつもとゆきひろ

昔話になってしまいますが,私がコンピュータというものをはじめて手に入れた頃,コンピュータのメモリは32KB(Kilobyte)しかなく,また,5.25インチのフロッピーディスク(この単語も最近聞かなくなりましたね)両面単密度320KBは無限に広いかのように感じていました。こんな大きな容量のデータを作り出すことなんて不可能じゃないだろうか。当時,中学生だった私はそのように思ったものです。

しかし,それからずいぶん時間が経ち,今この原稿を書いているノートパソコンは2GB(Gigabyte)のメモリと160GBハードディスクを積んでいます。この20年強の間にメモリ容量で6万5千倍,ディスク容量では実に50万倍増加していることになります。テクノロジーの進歩は驚異的ですね。

とはいえ,これまでの変化ではコンピューティングの質的な変化はさほど大きなものではありませんでした。コンピュータの性能がどんなに良くなっても,プログラミングレベルではさほど大きな違いは発生していません。LinuxをはじめとするUNIX系OSの基本的設計は20年以上前のものが踏襲されていますし,Windowsにおいてもプログラミングの基礎的な部分はそれほど大きく変化したとはいえないように思います。テクノロジーの進歩によって生じた変化はあくまでも量的なもので,質的な変化までは起きていないといってもよいでしょう。

しかし,量的な変化がある一定の「しきい値」を超えると一気に質的な変化が生じることがしばしばあります。私の個人的な印象ですが,今まさにそのような量的な変化から質的な変化に転じる動きが始まりつつあるのではないかと感じています。コンピューティングの未来は,今まで考えられなかったようなデータ量を,今まで考えられなかったような数のコンピュータが,相互に協力しながら処理していくスケーラブルコンピューティングにあるような気がしてなりません。

そのような変化がまさに生じつつある場所(の一つ)が,本書が取り扱っているGoogleではないかと思います。

先日,TechTalkを行うためGoogle本社を訪問しました。発表後,大変活発な質疑応答も受け,エキサイティングな経験でした。Python開発者であり,現在はGoogleの社員であるGuido van Rossum氏とも親しく話すことができました。TechTalkの内容は後日ビデオ公開される予定と聞き,Googleのオープンな側面を感じましたが,その一方,写真撮影は警備スタッフから厳しく制限され,あまりオープンでない側面も目の当たりにしました。

Googleはオープンソースソフトウェアを大量に利用し,オープンソースソフトウェア開発を支援し,また自らも数多くのオープンソースソフトウェアを公開しているのにもかかわらず,その業務の中心的テクノロジーはいくつかの論文で断片的に概要が示されるだけで,全容を把握するのは困難です。もっとも,断片的にでも概要がわかるのはGoogleのオープンな側面だと思いますが。

本書は,そのような断片的な情報を丁寧にまとめて解説しています。本書を読むことで,Googleがスケーラブルコンピューティングを実現するためにどのような苦労と工夫を重ねてきたかが感じられます。

Googleの内側を知ったからといってなにがうれしいのか,と感じる人もいるかもしれません。Googleはすでにそこにあるのだから,それをただ利用すればよい,というのも一つの考え方でしょう。しかし,Googleのしてきたことは,コンピューティングの未来の先取りです。さほど遠くない将来,Googleの中にいない私たちにもその未来は届くでしょう。

未来に備える。本書の本当の目的はそこにあるような気がしてなりません。

2008年2月 Google訪問から帰国の機中にて
まつもと ゆきひろ

※ここで紹介したTechTalkの内容は,以下で公開されています。

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