「コミュニティで活動するには」――Microsoftオープンソースコミュニティ相互運用戦略ディレクターGianugo Rabellino氏が語る「Microsoftとオープンソースコミュニティの今後の関係」

Web 2.0と呼ばれる概念が登場して以降、ユーザ、テクノロジー、コミュニティ、開発者、そして企業の関係が大きく変わり始めました。これまでは企業からの一方向の発信だったものが、テクノロジーやコミュニティを核に、ユーザ、開発者、企業が集まる姿になってきたのです。そういった企業の1つとして、Microsoftが挙げられます。

今回、Microsoftでオープンソースコミュニティとの連携戦略をとりまとめる、シニアディレクターGianugo Rabellino氏にお話を伺う機会を得たので、その模様をお届けします。

Microsoftオープンソースコミュニティ相互運用戦略ディレクターGianugo Rabellino氏
Microsoftオープンソースコミュニティ相互運用戦略ディレクターGianugo Rabellino氏

数多くのOSSに関わったキャリア

Q:まずはじめにこれまでのキャリアについて教えてください。

Gianugo Rabellino氏(以降G.R.⁠⁠:現在所属しているMicrosoftには1年1ヵ月在籍しています。ここに至るまで、過去、数多くのオープンソースソフトウェア(OSS)に関わってきました。振り返ってみると、92年にLinuxに触れ、その後、Apache Software Foundationに積極的に従事していて、現在はXMLプロジェクトのVice Presidentという立場で貢献しています。

Microsoftに入社して、強く思ったのが(Microsoftが)OSSコミュニティを主導していこうという点です。入社時は、すでにOSSへの貢献に積極的に取り組んでいた時期ではありました。当時はちょうどクラウド、Azureといったインフラに関連するものが広がり始めてきた時期でもあります。そこで、開発者に必要な言語やテクノロジーに制限されることなく他の技術との相互運用性が保てるようにすることを目指すことが私のミッションとなりました。

Microsoftでのポジション

Q:今のMicrosoft内ではどのようなポジションにいるのですか?

G.R.:今お話ししたクラウドに関連するものとして、Windows ServerやWindows Azure上でのnode.jsに関するプロジェクトに関わっています。これらにおいて、開発者たちが何を求めているのか、それをきちんと把握し理解して、Microsoftとしてサポートできる環境を整備しています。

こういった背景には、今のインターネット/Webの流れを見て、Microsoft一社だけではできないという認識が芽生えてきたことが挙げられます。これは当社に限った話ではなく、ネットの世界全般に言えることです。

私が関わってきたApacheなど、コミュニティ主導で開発されているソフトウェアは数多くあります。彼らのソフトウェアをより良いものにするには、企業との連携が不可欠です。そこで、今の私のポジションは、コミュニティに対する企業の窓口を担っています。

また1つのコミュニティに限って窓口になっているのではなく、さまざまなコミュニティと、またMicrosoft内のさまざまなプロダクトグループとも連携を取り、それらをつなぐことを実現したいと考えています。

Q:たしかに、ここ数年でMicrosoftのイメージが変わった印象です。とくに、OSSやコミュニティとの連携が目に見える形で現れてきました。現状、Microsoftとしてどういった状況でしょうか?

G.R.:2011年12月現在、Windows上で35万ものOSSプロダクトが稼動します。また、世界のシェアトップ25のOSSのプロダクトのうち23種類がWindowsで動く状況です。私たちとしては、この数をもっと増やしていきたいです。そのために、Microsoftとして提供できる情報を積極的に共有して、多くの開発者の皆さんの成功につなげていただければと考えています。

Q:Rabellino氏ご自身、そして今のMicrosoftが、OSSに対して積極的な姿勢をお持ちだということがわかりました。では、一般的な企業とOSSコミュニティの関係についてどのようにお考えでしょうか?

G.R.:まず、世界的な企業のほとんどが、企業内に何かしらのOSSを採用しているという事実があります。インターネットを活用している企業であれば100%に近いでしょう。

私の、OSS開発者としての立場から考えると、企業、個人を問わず、多様化したコミュニティが健全に進化していくことが必要だと思っています。ですから、企業だからコミュニティとは違う、というのではなく、企業もコミュニティの一部という考え方が必要でしょう。

また、そういったコミュニティが永続的になるためには中立的な立場が求められます。たとえば、Apache Software Foundationなど、あのような組織体制というのは成功している1つの形ではないでしょうか。

Apache Software Foundation

Apache Software Foundation

今注目の技術――JavaScript、とくにnode.js

Q:今注目している技術はありますか?

G.R.:世の中、Web、とくにフロントエンドではHTML5やJavaScriptに注目が集まっています。その中で、クラウドと連携させていく上でnode.jsがとても熱い技術です。世界中の多くの開発者の注目を集めています。日本でもそうではありませんか?

node.jsに注目する点として、2つあります。

1つは今申し上げたとおり、HTML5が普及していく中で、JavaScriptの存在意義が高まります。そうすると、クライアント側だけではなくサーバサイドでの利用も必要です。それをサポートできるのがnode.jsになります。

もう1点は、クラウドとともにデータ量が多くなる上で、それらのビッグデータを扱うためのフレームワークが必要になります。スケーラビリティも兼ね備えているという点で、node.jsが求められます。

Q:今、ビッグデータのお話が出ましたが、たとえばHadoopなどはいかがですか?

G.R.:まさに私の扱っているプロダクト、Windows AzureでもHadoopとの連携が可能になりました。年内に正式リリースされるでしょう。これらの相互運用性を確保することも、企業とコミュニティの連携がなせる技です。

その他の技術としては、PhoneGapにも注目しています。iOSやAndroid、そしてWindows Phone 7などのスマートフォンが進んでいく中で、クロスデバイス開発の必要性が高まっています。PhoneGapは、クロスデバイス開発の課題を解決する重要なテクノロジーです。

その他、PHPに関連して、WordPressやjoomla、Mediawikiにも注目しています。これからWindows Azure上での展開を実現していきます。

コミュニティ、デベロッパーへのメッセージ

Q:これまでコミュニティ、企業、両方の立場で関わってきたと思います。その経験から、コミュニティ運営のコツがあれば教えてください。

G.R.:Microsoftに入る前に強く意識していたのは、ソフトウェアの持続性です。どういうことかというと、ユーザが信頼して使える、急になくならないソフトウェアとコミュニティを作るということです。

OSSを持続可能性にする特徴を1つ言うとしたら、ダイバーシティ、多様性を持たせることです。これは、貢献している人の絶対数を増やすことを意味するのではなくて、コミュニティに入る人の出自、経験値がどのぐらい多様かという点です。開発者、ユーザたちの多種多様な関心事項、意図を、プロジェクトに含めていくことで、コミュニティの多様性につながっていくはずです。森林にはさまざまな生き物がいるのと同じことです。

その他、自分自身の意識という点では、そのコミュニティとどのように関わっているかを意識することが大切です。たとえば、私はイタリア人ですので、イタリア人としてApache Software Foundationにどう関れるか、言語の問題解決といったものから、イタリア特有の文化を伝えたり、海外の文化を受け入れるといった気持ちです。これらは、技術面と比べて容易ではないことではありますが、私は解決できると思っています。

Q:もう1つ、日本の場合、コミュニティ活動と企業活動が必ずしも一致しないケースがあります。その場合、個人としてどのように立ち振る舞うことが大切でしょうか。

G.R.:まさにそれと同じ質問を、OSSコミュニティに参加しているエンジニアが私のところに来て聞いてきました。まず、はっきりさせておきたいのは、コミュニティに参加するために特別なスキルが必要ではないということです。自分が貢献できるところを提供することが大切です。

私自身は、OSSコミュニティに参加することは(企業で)仕事をすることと変わらないと思っています。社会的なグループの1つとして、コミュニティや企業を捉えてみてください。そうすれば、自ずと基本的なルールが見えてくるはずです。

いずれの場合でも大切なことは、周りの人たち、貢献をしている人たちに対して敬意を払うことです。そして、ときに何か納得できないこと、腹立たしいことがあったとしても、そこは一度我慢してみてください。そして、コミュニティ活動に対して、一生懸命時間を割いている人たちのことを思い出してみてください。

Q:最後に、日本のOSS関係者、エンジニアに向けてメッセージをお願いします.

G.R.:さまざまなOSSに参加することで、個人的に貢献したり、OSSに接することができます。そうすれば、普段では得ることのできない経験、技術的知識が得られるはずです。まず、そういった良い部分を体験してください。

そして、おもしろいことを一人で楽しむのではなく、たくさんの人と楽しむ気持ちを知ってもらいたいです。それこそが、コミュニティ活動、これからの技術進化のモチベーションにつながっていくはずです。

ありがとうございました。

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