ユーザの笑顔を直接に見られるのがB2BのUXデザインの魅力――クレスコが実践するSIでのUXデザイン

⁠UXデザイン」という言葉は、システム開発の分野においても、ずいぶんと市民権を得てきました。

とは言え、B2CとB2Bで、UXデザインの浸透の仕方、取り組みは異なります。B2B、とくにSI企業によるUXデザインのビジネスには、独特の魅力と難しさがあるもの。

株式会社クレスコで UXデザイナーを務める鈴村昌司さん(HCD-Net認定 人間中心設計専門家)にお話を伺いました。

株式会社クレスコでUXデザイナーを務める鈴村昌司さん(HCD-Net認定 人間中心設計専門家)
株式会社クレスコでUXデザイナーを務める鈴村昌司さん(HCD-Net認定 人間中心設計専門家)

SI企業におけるUXデザインの実際

――UXデザインのビジネスで、SI企業の、B2Bならではの魅力とは、どんなところでしょうか。

UXデザインのビジネスをするうえで、B2Bならではの魅力は、調査する対象のユーザと、つくったものを使うユーザが、⁠本当に」同じ人であることです。

B2Cでは、調査段階でインタビューした相手が、その後、できあがったものを買ってくれるのか、わかりません。インタビューの場限りの関係で終わってしまうかもしれない。だけど、B2Bでは、たとえば業務システムをつくると、調査のときに話を聞いた、その相手、その人が使うんです。

自分がつくったもので、誰が幸せになるのか。それが明らかに個人レベルでわかっている。顔をあわせている。その喜びは、B2Cとは異なるところだと強く実感しています。

⁠インタビューしたあの人を笑顔にしたい」と思えば、気も引きしまります。

――鈴村さんは、ずっとB2BのUXデザインに携わられていらっしゃるんですよね。

私自身は、ほぼ20年間、ずっとUXデザインのビジネスに取り組んできました。

クレスコ自体は、約1,000名のシステムインテグレータで、30周年を迎えたところです。B2B、B2B2Cに特化をしていて、自社でB2Cのサービスはしていません。

私は、UXデザインの専門部署を、2015年から立ち上げました。創設のときは2名しかいませんでしたが、今は9名まで増えています。

――具体的には、どんな事例があるのですか。

たとえば、マッサージや岩盤浴をしているお店の受付で使う、予約システムです。ちょっと昔の事例で、スマホが世に広まっていない時代でした。皆さん、電話で予約してくるんですね。

受付の方が、電話を片手で受けながら、もう片方の手で紙に書いている。何時から何時、どのお客様が、足マッサージで、コースも30分とか。

その受付業務をシステム化したい、ということになりました。

そこで、実際に現場に観察に行きました。受付の方が、紙を机において電話を持って話をして、そのスピード感やスペース、そういった現実世界のものを見させてもらいました。書き込んでいる紙も見ました。すると、いわゆる時間割表のかたちで書かれていました。

現場を観察して、この業務のやりかたは崩さないほうがいい、と判断したのです。そこで、ひとつの画面でぜんぶの受付業務ができるように設計をしました。

まさに、インタビューしたその受付の人を幸せにできるように、システムを設計していったわけです。

B2Bでは、業務理解が必須っていうのが、やはり大きい。

業務用なので、たんに「使いやすい」ではなくて、⁠業務を進めるうえで使いやすい」ことが求められます。そのためには、業務がどうなっているのか、毎回のプロジェクトごと、お客様ごとに、ちゃんと調査しなければならない。画面遷移ひとつにしても、深い業務理解が必要不可欠なのです。

また、業務内容のヒアリングにしても、お客様の中で詳しい人に聞けば済む、というわけではありません。その業務に熟達している人は、自分なりの工夫を確立していることがあります。そうすると、その業務に慣れていない人にも話を聞かないと、全体像は見えてこない。あるユーザにとっての不便が、別のユーザにとって便利だったりすることがあり、また、その逆もあります。クリックして選択するより、手入力のほうが早いとか。だから、こっちも、あっちも、そっちも、と大人数に話を聞かないといけない。

それに通ずるところで、ペルソナの設定も大変です。ユーザの業務理解度や、習熟度に濃淡がありすぎることがある。バランスの取れたペルソナがつくりづらい。一生懸命に考えてつくっても、関係者全体を見渡すと、どこかがずれている。だから、ペルソナは複数、設定することになります。

現場に出る意味――顧客視点に立つ

――鈴村さんは、よく現場に出ているところがすごいな、と思いました。SI企業の人で、そこでやる人は珍しくはありませんか?

たしかに珍しいと言われることもありますが、現場には出るべきものだ、と思っています。

何かをつくるときって、使う人をちゃんと見てつくらないと、ろくなものができない。それをよくわかっています。プロジェクトを始めるときに、現場を見せてくださいと、こちらから言うことが多いです。

先日も、機械点検のシステムのプロジェクトで、現場に行きました。今、紙で書いているものをシステム化したい、ということで、紙で何をしているのか、観察させてもらうため、関西まで行きました。

ビルの中の機械の点検を見たあとに、プラントの機械点検のやりかたを見ました。すると、同じ機械点検なんですが、まったくやりかたが異なったんです。紙は使っているんだけど、紙の書きかたも異なる、項目も異なる、でも、最後に出てくるアウトプットは似ている。

現場では、そういうことが起こっていたりする。紙の書式をシステムに統一するのなら、何を取捨選択するか、考えなければならない。これは、やはり現場を観察して、業務を理解しないとできません。

現場を見られるという意味では、ひょっとするとB2CよりもB2Bのほうがやりやすいかもしれないですね。

コンシューマだと、ユーザ調査をするために、ユーザをリクルーティングしたり、テストルームを手配したり、コストがかかる。B2Bでは、現場はそこにありますから、きちんと交渉すれば、行くことができる。

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SI企業ならではのUXデザインの特徴

――他には、SI企業の、B2BのUXデザインには、どんな特徴があるのでしょうか。

いくつかあります。

UXデザインの、B2Bのビジネスで特徴的なのは、提案するときに、事例が紹介しづらい、ということがあります。過去のプロジェクトでつくった成果物も、社内業務システムだったりすると、たいていは非公開なんですね。別のお客様に事例紹介として持っていくことができない。

提案時に、これから取り組むプロジェクトのイメージをつかんでいただくのが難しいです。なので、わざわざ提案専用のサンプルを作成し、提案しています。これは、いつもちょっと困る点ですね。B2Cで、すでに一般公開されているようなものがあれば、提案時の参考として持っていけるのですが、B2Bではそれが難しい。

それから、B2Bのプロジェクトを進めるうえで苦労するといえば、ステークホルダーがとても多い、ということです。

お客様のシステム部門、そのさらに先にユーザ部門がある。それに加えて、周辺の関係者というのがいて、それらの意見をすべて吸い上げなくてはならない。ボタンの位置をちょっと変えるだけでも、いろんな部署に確認を取るとか、ひとつひとつ決めることに、ものすごい時間がかかることがあります。

あとは、まれにですが、システム部門の方が、つくろうとしているものの背景、業務を知らない、ということがあります。そうすると、お客様の中で、プロジェクトをリードしていく人がいない。われわれで、新しい業務イメージを、ゼロから手探りでつくらないといけない。広い範囲にヒアリングしないといけない。そういうケースもあります。

――B2Bならではの悩みがあるのですね。

B2BのUXデザインプロジェクト、という点では、その「UXデザイン」の指すところが、人によって認識がバラバラだ、ということもあります。

業務システムのUXデザインは、使っているその瞬間のユーザ体験に重きがある、というケースが多い。

ところが、⁠UXデザイン」という言葉が人によって意味するところが異なって、会話が噛み合わない、ということがちらほらあります。ユーザ体験とユーザインターフェースの区別がついていないこともある。ユーザビリティが良くないのに、UXデザインが良くない、というような会話になることもある。注意して、お客様の真意を聞き取らないといけない。

――「UXデザイン」という言葉自体は、顧客は知っているのですか。

⁠UXデザイン」という言葉は、お客様もほぼご存知です。デザイン思考やイノベーションの分野でも、出てくる言葉なので、だいぶ認知度は上がっています。

最近の流れでは、大手企業を中心に、要求仕様書の中に「UXデザインの専門家を参画させてください」と記載されていることも増えてきました。

他方で「UXデザイン」という言葉が広まったために、お客様が、UXデザインにすごい期待感を持っていることがあります。UXデザイナーが「答え」を持っていると、思っている方がいらっしゃる。

UXデザイナーは答えを持っていません。では、どこに答えがあるのかというと、ユーザの中にある。UXデザインは、ティーチングじゃなくてコーチングみたいなもの。コーチングはあなたの中にあるものを引き出す行動です。同じように、UXデザイナーは、ユーザにいろいろ問いかけをしながら、解決策を見出していく存在だと考えます。

探している答え―それはユーザの中にあるのです。

――ありがとうございました。
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