Adobe AIRコンテスト結果発表 Grand Prixは大日本印刷 丸山真実氏の「Hito Fude AIR」

Adobeが展開する最新RIA技術「AIR」を題材にした、初のアプリケーション開発コンテスト「Adobe AIRコンテスト」が開催され、6月19日に品川クラブexにて授賞式が開催された。作品の応募期間は4月8日~6月6日の約2ヵ月で、この短期間の間に86の応募作品が集まった。今回のコンテストは、本誌連載でもおなじみの株式会社ワンパク 代表取締役 クリエイティブディレクター阿部淳也氏や本誌編集長 馮 富久の他、計10名の審査員が厳選なる審査を行い、各賞受賞作品を選定した。

ここでは、授賞式の模様を中心に、今回のコンテストの総括についてお届けする。

2008年、期待を集め続けるAIR

AIRは、コードネームApollo時代から、アプリケーション開発者やデザイナーを中心にインターネット上で議論されるなど、次世代RIA技術として期待されていたもので、2008年2月25日の1.0リリース後、一段と注目度が高まり、企業・個人問わずさまざまなアプリケーションが開発されている。

とくに注目したいのは、Webブラウザを越えて、ネイティブアプリケーションとして直接ネットワークと連携できる技術ということ。マウスを利用したドラッグ&ドロップや、ネットワークのオン/オフに応じた機能設定、OSレベルでのビジュアルデザインが行えるなど、開発者/デザイナー、どちらの視点からも可能性が広がった技術と言える。

授賞式当日は、授賞式直前に発表されたAIR 1.1の新機能について、アドビシステムズデペロッパーマーケティングスペシャリストの轟 啓介氏によるプレゼンテーションが行わた。AIR 1.1では、日本語をはじめとした複数言語への正式対応やLiveCycle Data Services ESやBlazeDSとのデータ連携強化などが行われているのが特徴。

また、その後のロードマップも発表され、2009年には、すでにベータ版が公開されているFlash Player 10の機能を実装した次期バージョンのAIRや、サーバサイドでの開発環境Flexの次期バージョンFlex 3.1のリリースが予定されているそうだ。

最後に、現在Adobeが展開するOpen Screen Projectについて紹介された。同プロジェクトは、PCや携帯電話、家電などすべてのスクリーン(表現の場)でFlashやAIRを表示させることを目的としたプロジェクトで、各ベンダと協力しながらオープンな仕様として展開することを目指しているもの。

Adobe RIA Roadmap
Adobe RIA Roadmap

活用の場はビジネスレイヤへも

今回の授賞式では、受賞作品の発表の前に、企業3社から、ビジネスユースでの活用事例が紹介された。

まず、アップフロンティア⁠株⁠の制作事例として、スクウェア・エニックス「SQUARE ENIX MEMBERS TV」と、日興アセットマネジメント「投信王ウィジェット」の2つが紹介された。どちらもFlashとFlexを併用して開発されたもので、画面表示やローカルファイルアクセスといった点でAIRを活用している。

続いて、富士通⁠株⁠より、同社内で使用されている「富士通スタンダードコンテンツ次世代フロントエンド」が紹介された。これは富士通が利用しているCMSのフロントエンドシステムで、WYSIWYGベースとなっており、ドラッグアンドドロップによる操作でのコンテンツ制作を実現している。すでに社内で利用されており、工数の大幅軽減やワークフローの効率化など、その効果が現れているとのこと。

最後に大日本印刷⁠株⁠による「クロスメディア制作支援ツール ~DTP データからケータイ HTML へ~」と題したプレゼンテーションにて、携帯電話向けサイト制作ツールが紹介された。

いずれのアプリケーションも、すでに実用化されており、AIRがビジネスユースで十分利用できる裏付けとなる発表だった。

また、コンテストを主催したアドビシステムズからはEdge now!の紹介が、また、新ブログの女王、タレントの中川翔子氏が、今回の授賞式に向けたビデオメッセージとともに、自身の公式コミュニティサイト「しょこ☆らんど」にて、AIRに対応した「しょこ☆らんどAIR」を提供することを発表した。

ビデオメッセージで登場した、タレントの中川翔子氏
ビデオメッセージで登場した、タレントの中川翔子氏

AIRの可能性―ネットと融合できる次世代デスクトップアプリケーション

さまざまなプレゼンテーションやデモンストレーションが行われた後、いよいよAdobe AIRコンテスト受賞作品の発表が行われた。

まず最初に発表されたのが、特別賞を受賞した⁠株⁠イメージソースの「web plamo 飛行艇版デスクトップジオラマアプリケーション⁠⁠。これは、プラモデルを作る感覚でWebアプリを楽しむ作品で、イラスト制作にはスタジオジブリのスタッフが関わるなど、世界観を前面に押し出した作品だった。

特別賞を受賞した「web plamo 飛行艇版デスクトップジオラマアプリケーション」
特別賞を受賞した「web plamo 飛行艇版デスクトップジオラマアプリケーション」

続いて、Dreamweaver賞として⁠株⁠カタマリの「JSON EDITO」が発表された。デモの発表をしたカタマリ木下 勝氏の「なかなか自分に合ったエディタがなかったので作りました」というコメントからもわかるように、開発者視点で作り込まれたアプリケーションだった。また、同氏のプレゼンテーションは、間の取り方やスライド表現が非常にすばらしく、会場からはプレゼンそのものも高く評価されていた。

3番目に登場したのは、Flex賞を受賞した⁠株⁠エスキュービズムの「JUKING AIR⁠⁠。エスキュービズムが研究しているクラウドマッププロジェクトの成果を取り込んだもので、インターネット上にある音楽を、上手にクリッピングし動画付きで再生させるもの。

4番目は⁠株⁠セルシスの作品「Air Train」が登場。これは、Flash賞を受賞した作品で、電車にコメントを付けてインターネット上を回覧させる、いわばインターネット回覧板機能を有したもの。ローカルファイルをドラッグアンドドロップで利用できるなど、AIRならではの特徴を活かした作品だった。

そして、最後にいよいよGrand Prixが発表された。Grand Prixを受賞したのは、大日本印刷⁠株⁠丸山真実氏が開発した「Hito Fude AIR⁠⁠。このアプリケーションは、マウスを使った操作で一筆書きを実現し、実際に一筆で描画した絵をインターネット上のユーザ同士でつなげていく、名前のとおり「一筆」を実現したアプリケーションとなっている。

Hito Fude AIRのデモ。AIRを介して一筆書きがつながる
Hito Fude AIRのデモ。AIRを介して一筆書きがつながる

受賞した丸山氏は、AIRの魅力について「AIRの魅力は、ローカルファイルへのアクセスが容易になっている点が挙げられます。PC内のさまざまなファイルへのアクセスが可能になったことで、OS上でのドラッグアンドドロップによる操作や、ネットワークを利用した幅広いアプリケーション設計が実現できると感じています」とコメントした。

また、ポイント加点方式で審査された中で、この作品はすべての審査員から高い評価を得て、Grand Prixとして選ばれた。とくに、デスクトップアプリケーションであることと、インターネットコミュニケーションを実現していることの、2つの点が高く評価され、AIRの可能性を感じられるアプリケーションとして選ばれた。

Grand Prix受賞の丸山氏。手には、2009年開催予定のAdobe MAX JAPANの講演権が!
Grand Prix受賞の丸山氏。手には、2009年開催予定のAdobe MAX JAPANの講演権が!

期待が高まる次回開催

述べ3時間を超える、白熱した授賞式の最後は、審査委員長を務めた阿部氏から「今回、初のAIRコンテストという中、86もの作品が応募されたことは大変喜ばしいです。その中で、受賞作品に共通していた点として、明確なコンセプトのもとAIRならではの特徴を掴んでいること、さらに、すべてがチームでの開発を実現していたことを挙げ、デザイナーとデベロッパーの協業がAIR活用の1つのカギになると思います」と総括した。

審査委員長を務めた阿部淳也氏
審査委員長を務めた阿部淳也氏

また「Adobe AIRの可能性を開拓し、新しい世界を築いていくのは会場の皆さま、世の中のクリエイターやデベロッパーの皆さまであり、皆で競って洗練されたアプリケーションを作っていきましょう」というコメントで締められた。

最後に、司会を務めたアドビシステムズ 轟氏、西村氏から「来年も開催します!」といううれしい発表もあり、これからのAIRおよびRIAのますますの発展を期待できる1日となった。

Adobe AIR コンテスト
URL:http://www.adobe.com/jp/events/aircon2008/awards/

おすすめ記事

記事・ニュース一覧