「AWS re:Invent 2019」ミニレポート“re:Inventのスキマから”

007 Change the Game ―アメリカンフットボールの世界はAWSでどう変わるのか

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「明日(12/5)は私からエキサイティングなアナウンスをするから楽しみにしていてほしい」―AWS re:Invent 2019のプレスカンファレンス終了時にアンディ・ジャシー(Andy Jassy)CEOは報道陣に向かってこう言いました。re:Inventでは毎年,アンディが世界各国から集まった200名ほどの報道陣向けにQ&A形式のプレスカンファレンスを行いますが,昨年(2018年)からはそれとは別にアンディによる"緊急会見"的な発表の場が設けられるようになりました。ちなみに昨年は人工衛星とのデータ通信をフルマネージドサービスとして提供する「AWS Ground Station」を発表しています。

はたして今年の"エキサイティング"な発表とは何だったのでしょうか。12月5日,会見に登壇したアンディが発表したのは米国でもっとも人気のあるスポーツ,アメリカンフットボールのプロフェッショナルリーグ「NFL(National Football League⁠⁠」との新たな提携でした。ゲストとしてNFLのコミッショナーであるロジャー・グッデル(Roger Goodell)氏も登壇しており,今回のパートナーシップにNFLが本腰を入れていることを感じさせます。

アンディ・ジャシー CEO(左)とロジャー・グッデル NFLコミッショナー

アンディ・ジャシー CEO(左)とロジャー・グッデル NFLコミッショナー

AWSのあらゆるサービスを駆使してアメフト選手の怪我を減らす

AWSは以前から野球やサッカー,カーレースといったプロスポーツ業界にクラウドサービスを数多く提供しており,とくにメジャーリーグ(MLB)におけるプレイヤートラッキングシステムの事例は,選手やチームはもちろんのこと,視聴者や放送局にも大きなインパクトを与えました。NFLもまた2017年からAWSのサービスを導入しており,⁠NGS(Next Gen Stats⁠⁠」というプログラムのもと,選手のショルダーパッドに埋め込んだRFIDデバイスのデータをマシンラーニングで解析し,選手のパフォーマンス向上に役立ててきた実績があります。しかし今回の発表はそうしたレベルからさらに一歩踏み込み,マシンラーニングを中心に,コンピュート,ストレージ,データベース,ビッグデータアナリティクスなどAWSのあらゆるサービスを駆使して,⁠アメフト選手の怪我を減らし,健康を守る」ことにフォーカスすることを掲げています。

アメリカンフットボールは全米でもっとも人気の高いスポーツである反面,選手にとっては非常に危険性が高く,とくに頭部の怪我が原因でアスリート生命を絶たれた選手,さらには引退後も健康被害に悩まされている選手は少なくない数に上ります。こうした状況を改善する施策のひとつとして,NFLが保有する膨大なデータをもとに仮想空間を構築,いくつものゲームシナリオを用意して試合をシミュレーションする「The Digital Athlete」というイニシアチブも今回明らかになりました。The Digital Athleteでは,プレー中に怪我をした選手が最適なリハビリテーションプログラムを受けられるようにすることをゴールにしていますが,将来的にはプレー中における怪我のリスクをより広範に予測し,事前に予防策を取れるレベルまでを目指していくそうです。

今後,NFLはAWSとともにThe Digital Athleteプラットフォームの開発を進めていきますが,中心となるソリューションはいまやAWSのAIサービスのコアとなった「Amazon SageMaker」です。今回のre:InventではSageMakerの統合開発環境である「Amazon SageMaker Studio」をはじめとする非常に多くのSageMaker関連のアップデートがありましたが,The Digital Athleteはこれらのアップデートも含めた最新のSageMakerをベースに,AWSのマシンラーニング専門の研究所で開発されていくことが明らかになっています。

今年のreInventではSageMakerのアップデートが数多く発表されたが,もっともキーとなるサービスが統合開発環境のSageMaker Studio。SageMakerのあらゆる機能を一元的に管理する。このSageMaker Studioをはじめとする最新のSageMakerがDigital Atheleteの開発に提供される

今年のreInventではSageMakerのアップデートが数多く発表されたが,もっともキーとなるサービスが統合開発環境のSageMaker Studio。SageMakerのあらゆる機能を一元的に管理する。このSageMaker Studioをはじめとする最新のSageMakerがDigital Atheleteの開発に提供される

「AWSをパートナーに選んだのはクラウドにおける"Best-in-Class",最高の存在であるからにほかならない。これまでNFLはAWSとのコラボレーションで,モデルベースでのイメージマッチングを進化させ,選手やゲームのパフォーマンスを向上してきた。次のステップは"ベタープロテクション",選手の健康を守っていくことだ。NFLにはデータはあるがこのデータを活用する技術リソースうは十分ではない。今回のイニシアティブを進めることでアメリカンフットボールの世界をパートナーとともに変えていく"Change the Game"を起こしたい。そうした意味でも非常にエキサイティングなパートナーシップだ」とグッデル氏は語っています。NFLというレガシーな組織にAWSというイノベーティブなパートナーがより深く入り込むことでどんな化学変化が起こるのか,こちらも期待したいところです。

今回のパートナーシップはNFLが単にAWSのサービスを導入するだけでなく,ともにイニシアチブを進めていくところが大きな特徴。外部のパートナーがここまで深くNFLという組織の改革に踏み込むケースは稀である

今回のパートナーシップはNFLが単にAWSのサービスを導入するだけでなく,ともにイニシアチブを進めていくところが大きな特徴。外部のパートナーがここまで深くNFLという組織の改革に踏み込むケースは稀である

著者プロフィール

五味明子(ごみあきこ)

IT系の出版社で編集者としてキャリアを積んだ後,2011年からフリーランスライターに。フィールドワークはオープンソースやクラウドコンピューティング,データアナリティクスなどエンタープライズITが中心。海外カンファレンス取材多め。Blog 「G3 Enterprise」やTwitter(@g3akk),Facebookで日々IT情報を発信中。

北海道札幌市出身/東京都立大学経済学部卒。