エンジニアサポートCROSS 2014 レポート

「BaaS 一問一答 千本ノック」「推しエンをプロデュース」スポンサーセッションレポート

CROSSでは、ともすれば宣伝色が強くなり参加者・発表者ともにモチベーションが上がらなくなりがちなスポンサーセッションも、⁠スポンサー企業同士」でCROSSしていただいています。

テーマにはエンジニアにとって関心が高いと思われるものを選定することで、スポンサー企業同士が敵同士になり優劣をつけるのではなく、企業の特色・目的・志向の差異を鮮明にすることを目指しています。

これにより、スポンサーセッション自体がエンジニアにとって価値があるセッションになると同時に、スポンサー企業が自社の通常のブランディング活動以上にエンジニアリングに対する取り組みをアピールする機会になり、エンジニアとスポンサー企業の両方に価値を提供できるようにと考えています。

BaaS 一問一答 千本ノック

セッション「BaaS 一問一答 千本ノック」は、日本マイクロソフト株式会社様とニフティ株式会社様のスポンサーセッションです資料⁠。

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このセッションでは、まだサービスとしては新しいBaaS(Backend as a Service)の提供企業とその利用者による一問一答を通して、BaaSを利用することのメリット・デメリット、利用時の注意点、BaaSの選定ポイントなどを共有しました。利用者側からの質問や課題をノッカーの打球に、提供者からの回答や今後の展望を捕球とし、野球のノックにみなしてススメていました。課題や疑問が「一問一答形式」に切り出されて明確になったことで、参加者にとってもわかりやすく共有されたのではないでしょうか。

簡単ではありますが、提供者3企業、利用者2名のパネラーを紹介しておきます。

ノッカー(利用者)は両名とも株式会社ディー・エヌ・エーに所属されるエンジニアで、いくつかの理由から最終的には社内基盤を利用したものの開発時にはBaaSのひとつである「Parse」の利用を検討し、検証までされた経験を持っている沖津氏@okitsuと社内サービス用に特化したオレオレBaaSの開発を検討されている小林氏@nekokakです。

ノックを受ける捕手側としては3名、⁠Azure」のMVPでありマイクロソフトのBaaSの開発現場やプロダクトにとても詳しく、今回は日本マイクロソフト様から全幅の信頼を置かれての代打ちとして登壇された冨田氏@harutama⁠、日本では最初期に提供されたBaaSである「Kii cloud」のサーバ実装・Backend開発を経て、現在は全体のマネージメントをされている石塚氏、昨年末にリリースされたばかりの「ニフティクラウド mobile backend」の開発をされている野田氏です。

セッションでは「やはりまだまだ不安である」⁠丁度いい汎用性とは?⁠⁠、さらには「BaaSは果たしてpayするのか?」など、まさにBaaSの核心とも言える質問が飛び出していました。それに対して提供側は、現在の取り組みや考えていることを真摯に回答していきました。

パフォーマンスを含めて不安

BaaSを検討している方々に共通だと思いますが、安定性・パフォーマンスの面でまだまだ枯れていないこともあり不安があるという質問に対して、野田氏は「まだまだ出したばかりのサービスではあり、本質的には汎用的なサービスなので、どのように使っているかを電話なりメールででも率直に教えてもらいたい」と答えました。

また、冨田氏は「Parse(という最初期にリリースされたBaaS)は海外のものであり、ネットワークの時間だけでも大きい。今後、日本に拠点があるBaaSを検討してもらいたい」とコメントしました。

ライバル企業は?差別化要素は?

ライバル企業や差別化要素を問う質問がありました。石塚氏はやはり「ライバルはニフティ社です。⁠BaaSは)フィーチャーがどこも同じになってしまう。差別化要因としては『中を見られるサービス』を考えている。利用時には実際に中でなにが起こっているのかログが見られるようにする」と答えました。ブラックボックス化して簡単に利用できるようにしつつ、中を知ることで改善を行うことができるようなBaaSにしていきたいという、利用者視点である雰囲気を感じ取ることができました。

一方、冨田氏からは「ライバルは企業ではなく、⁠不安だから、なんとなく』という理由で利用しない皆さんがライバルです」という、非常に重いメッセージが飛び出しました。⁠なんとなく」利用しない方々に対して、どのようにすれば利用してもらえるのかを考えるのが、今後のBaaSベンダー全体としても重要な課題として感じているようでした。

お客様対応と汎用性のバランスは?

会場から「お客様の声を拾うといっているが、BaaSの本質は汎用性であると思う。そのバランスについてはどう考えているか」という質問がありました。これに対して、3ベンダーとも「汎用的ではあるがその汎用的に提供する機能の選定においてお客様がどのように利用しているか、どのような機能を望んでいるかを聞くことを重要視している。ひとりのお客様のニーズが実際には一人ではない可能性があり、もしそうであればそれは汎用的な機能としてリリースする価値がある」という姿勢のように見受けられました。

まとめ

セッション開始当初は、⁠BaaSの利用時のノウハウが共有されるくらい」を想像していましたが、それ以上に深い「BaaSとは何か」を問うような質問により、図らずもBaaS業者の思いが伝わるセッションとなっていました。

ファールグラウンドすれすれのきわどい質問を考えてくださったノッカーの両名と、それに対して姿勢や考え方を隠すことなく泥まみれになりながらガチンコで回答をされた3名に深く感謝します。

推しエンをプロデュース ~シャイなエースを売り出す方法~

セッション「推しエンをプロデュース ~シャイなエースを売り出す方法~」は、リクルートテクノロジーズ様と株式会社ディー・エヌ・エー様のスポンサーセッションです資料⁠。

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Web業界ではよい技術者の採用が企業にとって最重要なミッションになっており、特にここ数年は技術者の採用は熱を帯びています。

よい技術者を採用する方法は様々で、各社の採用担当者たちは知恵を絞っているところだと思います。この採用において重要な視点の一つが「よい技術者はよい技術者と働きたい」というエンジニアの性質にフォーカスを当てた戦略です。

そのため、企業として「社内にはこのようなエースがいる」とアピールすることが重要なミッションとなっています。しかし、多くの技術者はエンジニアリング以外のこういった活動に対してそれほど積極的でないケースも多く、加えてエースは「シャイ」である場合が多く聞かれます。

本セッションでは、このような社内のエースを売り出す方法を実際に売り出したことがあるリクルートテクノロジーズ 櫻井氏、ディー・エヌ・エー 大月氏に加え、スポーツ選手のプロモーションを専門とし多くのスポーツ選手の移籍などをサポートした実績をもつ、ディライトホールディングス 案野氏をお迎えして、⁠シャイなエースを売り出す方法」のノウハウを共有いただきました。

シャイな気質を文化でノセる社内表彰

櫻井氏・大月氏ともに、社内評価制度を重要視しました。まず社内に「価値を発揮する技術者」がいることを知らしめることからスタートして、同時にエース当人にも「あれ、オレってイケてる」と思ってもらう機会を作ることが必要であると言います。

そのために櫻井氏の所属されるリクルートテクノロジーズでは、かなり本格的な社内表彰を行っており、何度も推敲を重ねて紹介文を作成するだけにとどまらず、同僚や取引先などからもコメントを求めたり、表彰時の盛り上げ策としてチームの人間がビデオレターをつくったりすることもあるそうです。

会場から「ポエムにまで高まった自己紹介で表彰されたらその場で辞表を出す」という声もありましたが(笑⁠⁠、もちろん、性格や入社年数、こういった社内表彰の文化への慣れなども検討を重ねていると答えていました。

「社内評価制度から始めるのは簡単で効果があるとは思う」というのが大月氏・櫻井氏の共通の意見でした。

戦略的なプロモーション

ディー・エヌ・エーでは、半年以上掛けて、社内報→社内勉強会→会社主催での社外勉強会→技術書の寄稿→イベントでの登壇、と段階を経てプロモーションする計画を立てていると大月氏は話します。

その間、当のエースには「プロモーション」を仕掛けていることは意識させず、⁠あれ?なんか最近頼まれごとが多いなあ」くらいにしか感じさせないように注意を払って、シャイな面が出てしまわないよう心がけていると言います。

とはいえ、このステップを踏んでいくうちに、技術者自身でもご自身の価値が市場で重要な意味を持ってくることに気づき、悪い気はしないため、途中から自ら積極的にプロモーションのフレームを回すようになるそうです。

リクルートテクノロジーズでは、エースが多忙な際の登壇依頼やインタビューに際して積極的に後輩などのメンバーを抜擢していると櫻井氏は話します。このときエースが利用した発表資料をあらかじめ手配したりすることで、失敗しプライドが傷つくことがないように根回しをしっかりとしているようです。

このことはスポーツ業界でも同様だそうです。案野氏は「あまり大きな声では言えないそうですが、案野氏は「本命のチームへのプロモーションの前に、2番手、3番手のチームへのアピールを行い、その選手に対する評価など当たりをつけ戦略を練ってから本命にアピールすることもある」と述べていました。

エースを見抜く目・エースを探す目

プロモーションとは一転して「どのようにしてエースを見抜くのか」という質問に対して、櫻井氏は「評価からスタートするケースもあるが、逆のケースがある。市場で話題となっている/なりそうな・ニーズがある技術をR&D部隊が調べ、その技術に対して関心を持っていたりノウハウを身につけていたりする社内技術者を探し、エースとして育てていくケースもある」と回答しました。

エースを売り出すだけではなく、エースとして育成する方法として「これからニーズが高まる技術の調査を依頼することで育成する」というのは簡単ではありませんが、非常に興味深い方法だと感じました。

まとめ

案野氏からの「やはりやる気が一番大事。選手がプライドを持ってやる気が無いともうどうしようもない」というのは業界関係なく当然で、大月氏からも「エースとなりうる技術者は責任感も強い。⁠課題に対して)なんとかしたい、チームに対してなにかしたい、という思いを持っている」という「エースの資質」とも言える指標を言及していました。

当レポートではうまく伝えることができませんでしたが、案野氏からいただいたコメントは業界が異なるとはいえ専門家ならではの示唆に富むもので、同時に他ではほぼ聞くことができない話でした。

スポンサーセッションまとめ

今回も、多くの協賛企業様、セッションオーナー様、登壇者の皆様、スタッフの皆様、そして参加者の皆様に支えられ、828名が参加するイベントを開催することができました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。まだまだ改善点は多々ありますが、今後の課題として取り組んでいきたいと思います。

2014年もあっというまに1月が過ぎ去っていきましたが、今年も皆様のエンジニアライフが充実したものになることをお祈りしています。

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