ESEC2008(第11回組込みシステム開発技術展)Photoレポート

ESEC2008(第11回組込みシステム開発技術展)Photoレポート(2日目)

2日目は晴天に恵まれ、会場は、業務上の問題を解決しようとする来場者たち・新しいビジネスの機会をつかもうとする来場者たちの熱気であふれていました。

本日も出展社のうち、厳選した10社の「今回のイチ押し」について紹介します。

NEC

小さな組込み機器の液晶画面だからといって、劣悪な画質が受け入れられる時代は、過去のものとなりました。現在は、組込み機器の液晶画面にも、パソコンと比較して遜色のない3次元グラフィクスが要求されています。

グラフィクスIP「GA88」は、ベクターグラフィクスを表示する仕組みをFPGAベースのハードウェアで実現し、3次元グラフィクスに見える動画表示を実現しています。しかし、実際の描画処理は2次元で行われているため、ハードウェアへの負荷を低減することができます。充分に鑑賞に耐える画質の動画再生が、クロック周波数48MHzのハードウェアで行われています。さらに、ソフトウェアではなくハードウェアで処理を行っているので、ソフトウェアで処理を行っている場合の数倍~数十倍の高速処理を行うことができます。このことは、組込み機器の低消費電力化につながります。

NECグループのNECシステムテクノロジーでは、Adobeのベクターフォントの再生と、3次元GUIを操作できるタッチパネルが展示されていました。拡大・縮小・回転・移動といった動画処理が、高速にスムーズに行われていました。コンシューマが「動画を再生できる」ということに満足するのではなく、⁠その機器のGUIを使用することは心地よい」と感じることで満足を感じる時代が、このような要素技術の1つひとつによって実現されてゆくようです。

3次元GUIを操作できるタッチパネル
3次元GUIを操作できるタッチパネル

日立超LSIシステムズ

小型ノートPCのストレージとして、フラッシュメモリが利用される場面が多くなりました。HDD(ハードディスク)のように振動や衝撃で破損することはなく、動作による発熱もほとんどありません。

工場などで用いられるFA機器には、その現場の絶え間ない振動や温度変化の影響を受けずに動作し、消費電力は少なく、長期間の運用で故障しないことが求められます。HDDよりはフラッシュメモリのほうが好ましい選択肢なのですが、長期間の運用を前提とすると、フラッシュメモリのデータ書き換え耐性が問題になります。フラッシュメモリのデータ書き換え回数には、おおむね10万回という限界があるからです。

日立超LSIシステムズのSSD(Solid State Drive)⁠MS9730」の外形は、IDEインタフェースを持つHDDと全く同様ですが、データの記録に利用しているのはNANDフラッシュメモリです。内部にキャッシュメモリを搭載し、さらにフラッシュメモリへの書き換え回数を低減するアルゴリズムを開発することにより、従来のSSDの数倍~100倍の寿命が実現されています。

SSD「MS9730」「MS9720」
SSD「MS9730」と「MS9720」

現在、SSDはFA用途だけではなく、交通機関でのコンテンツ配信にも用いられています。今後はカーナビや携帯プレーヤなど、コンシューマにとってより身近な分野への使用が期待されます。

東京エレクトロンデバイス

東京エレクトロンデバイスでは、ナンバープレート認識、ステレオカメラによる物体形状認識・距離検出、さらに高精細IP監視カメラのリファレンスデザインが展示されていました。これにはSXVGA 30フレーム(JPEG)とVGA30フレーム(H.264)が搭載されています。小型カメラにも関わらず、従来の監視カメラの画像よりも数段に細かく表示しており、きちんと顔認識がされているのには驚きです。今後、監視カメラ市場においても、より高精細化が求められているそうです。

高精細IP監視カメラリファレンスデザイン
高精細IP監視カメラリファレンスデザイン

同社のブースでは、BIOS高速起動チューニングがなされWindows XP Embeddedが10秒程度で高速起動するデモや、組込み向けセキュリティ対策ソフトウェアなども数多く紹介されています。

マイクロソフト

マイクロソフトのブースで目を引いたのは、⁠.NET Micro Framework」を使用した車載機器のデモでした。Freescaleの32ビット・100MHzプロセッサで、CANを使った通信によって入力を取得し、グラフィックチップを利用せずにLCDを駆動して出力を行う、というものです。自動車のスピードメーターやエアコンに要求される動画を含めたGUI表示が、十分に実用に耐える画質で行われていました。コストの低いハードウェアでのGUI表示としては、驚くべきパフォーマンスでした。

さらに驚くのは、必要な開発工数です。これまでの1/2~1/3の開発工数で、PCアプリケーションを開発するのと全く同じように開発できた、ということでした。OSやライブラリは、⁠.NET Micro Framework」に用意されているものを利用することができるので、PCアプリケーションを開発するのと同様に開発を行えた、ということです。

.NET Micro Frameworkによるデモ環境
.NET Micro Frameworkによるデモ環境

今回は、新しい配送・販売システム「キューブ」の展示も行われていました。現在のところは、PASMOや携帯電話で個人認証を行い、個人間の荷物の受け渡し・衣類のクリーニングに伴う品物の受け渡しを行う無人システムですが、今後は主に駅を拠点とし、通信販売など物販への展開が予定されています。カメラやカードリーダーなどのデバイスを集約して連携させることによって、新しい決済システム・新しい個人認証など、要求されるサービスに柔軟に対応できるシステムが構築されていました。

配送・販売システム「キューブ」
配送・販売システム「キューブ」

なお、マイクロソフトでは、組込みシステム向けOS製品の名称を、2009年までに「Windows Embedded ~」で統一し、アンブレラブランドとしての「Windows Embedded」を展開してゆく予定だそうです。

NECエレクトロニクス

近年、映像機器に搭載される表示システムでは、急激な高解像度化が進んでいます。しかし、従来の画像を単に拡大するだけでは、表示がぼやけてしまい、目の肥えたコンシューマの満足から程遠いものとなってしまいます。NECエレクトロニクス「超解像 高画質化ソリューション」は、画素数の少ない画像を入力に、鮮明な高解像度画像を出力するためのソリューションです。

この処理はこれまで、動画の連続する数コマの画像を入力とし、画質にとって重要と考えられる部分を抽出して画像処理を行うことによって行われていました。今回の「超解像」処理は、ただ一枚の画像を入力としています。新規に開発されたアルゴリズムによって、⁠入力画像から、解像度の制約によってぼやけたと考えられるエッジを検出し、鮮明にして出力する」という処理が行われています。この処理を行うのは、⁠超解像エンジン」と呼ばれるハードウェアですが、動作に必要な消費電力は数十mWです。また、処理速度をビデオクロックの周波数まで抑えることができるので、ハイビジョン画像の解像度でも150MHzで処理できます。チップのサイズは、現在の半導体量産プロセスを用いれば1mmまで縮小できるので、携帯電話のヒンジの中に搭載することも可能です。

メリットは、美麗な画像が手軽に得られることにとどまりません。同じ品質の動画を、より少ないストレージ容量で保存することが可能になり、製品の部品点数も削減できるので、エコロジーへの貢献も期待されます。

超解像処理結果(右)と元画像(左)
超解像処理結果(右)と元画像(左)

サイバネット

サイバネットでは、モデルベース開発など上流設計から実装まで、幅広く紹介されています。一番正面では、モデルベース設計を適用した組込みシステム開発と題して、LEGO Mindstorms NXTを使った実機デモンストレーションがあり、多くの人が足をとめていました。

車輪移動型倒立振子ロボットのデモ
車輪移動型倒立振子ロボットのデモ

そのほかさまざまな業界で設計、シミュレーション環境として標準的に使用されているツール統合開発環境「MATLAB/Simulink」を中心として、数値計算によって解明するシミュレーション技術などが展示されていました。

フリースケール

車載機器は、極めてミッション・クリティカルであり、コストダウンへの厳しい要求に常にさらされている分野です。フリースケールが行っていたエアバッグ・システム・ソリューションのデモにも、車載機器への要求は色濃く反映されていました。こと安全にかかわるシステムには、誤動作が許されません。⁠エアバッグを動作させる」という処理には、人命が直接かかわるので、その用途に専用化したミッション・クリティカルなシステムが開発されることになります。

システム自体は、それほど複雑なものではありません。一軸加速度センサによる加速度の検出を入力とし、その入力を8ビット~32ビットマイコンで処理し、必要であれば「エアバッグを膨らませる」という制御を行うものです。従来は、マイコンにセンサが直結されてスター型の配線となっていました。しかし今回のフリースケールの展示では、配線がバス化されていました。マイコンとセンサの間・センサとセンサの間を接続する配線は2本だけ、という単純な構成ですが、これらの配線はデイジーチェーンとなっており、容易にセンサを増設できます。どこか1ヵ所が断線しても、システム全体の通信は維持されます。

配線をバス化して、配線数を削減することにより、自動車の重量を削減することができます。このことは、燃費のよい自動車の開発につながり、ガソリンなどの燃料利用の削減につながります。また、安全基準がより厳しくなり、一台の自動車に必要とされるエアバッグの数が増える場合にも、エアバッグ・システム自体がバス構成になっていれば、センサの増設を容易に行うことができるのです。安全な自動車は、このような個々のシステムによって支えられています。

エアバッグ・システム・ソリューション
エアバッグ・システム・ソリューション

モンタビスタ

モンタビスタのブースでは、開発環境・計測ツールの体験コースが好評でした。

MontaVista Linuxと開発環境・計測ツールをインストールしたPCが設置され、来場者は、実際に操作してみることを通じて、開発の実際を体験してみることができます。組込みLinuxクロス開発は、過去に経験がないと困難に感じられるものですが、開発環境やツールが充実した現在では、それほど困難なものではありません。しかし、体験してみなければ、⁠困難そうだな」という思い込みは破れないものでしょう。

体験コースは「基本操作編」「計測ツール編」の2つから構成されています。内容の1つひとつは、⁠クロス開発のターゲットデバイスを設定する」⁠ターゲットデバイスにファイルを転送する」といった基本に始まり、⁠ルートファイルシステムを構築する」⁠メモリリークを検出する」⁠各関数の動作時間を計測する」といった、実際の組込みシステム開発で必要とされる少し高度な作業までを含んでいます。

過去の組込みLinux開発においては、開発者に求められるのは、まず開発環境の整備でした。このため、組込みLinux開発に踏み込むことは、誰にでも可能なことではありませんでした。しかし、ディストリビュータによって開発環境が整備された現在、組込みLinux開発は、誰にでも入り込める開発分野となっています。そのような現状を知るためにも、このような体験コースを積極的に利用すべきでしょう。

モンタビスタブース
モンタビスタブース

まとめ

組込みシステムに関わる展示会では、現在のホットな技術的課題とその解決の数々を見ることができます。課題は、たとえばコンシューマのあくなき画質への要求であり、安全な社会システムであり、また、開発者がより容易に、より少ない労力で開発を行える環境です。

筆者は日ごろ、⁠組込みシステムは社会そのものである」と考えていますが、ESEC2008の会場で、組込みシステムと社会の関わりの深さを、これまでより大きく感じました。

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