パソナテックカンファレンス2008レポート

1日目AM メインセッション「現場がイキイキする人材マネジメント:渡辺千賀の流儀」、「OSS活用による実践的IT能力開発と、ITアーキテクト・ITスペシャリストへの道」

1日目の10日は「IT人材の未来 人材戦略を競争力へ ~IT人材が拓く企業の未来を考える11セッション~」と題して、これからのIT業界と人材戦略をテーマとしたセッションが開かれました。

会場となったUDXへの案内
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秋葉原UDXギャラリー
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メインセッション「現場がイキイキする人材マネジメント:渡辺千賀の流儀」

1日目のメインセッションは、同社シリコンバレーオフィス フェローでBlueshift Global Partners社長の渡辺千賀氏による「現場がイキイキする人材マネジメント:渡辺千賀の流儀」です。三菱商事、マッキンゼーを経て、シリコンバレーにて企業コンサルティングを行う渡辺さんは、日本企業とシリコンバレー企業の職場比較、日本のエンジニアの労働環境を良くするための方法について、事前に参加者から集めた質問に答える形で講演しました。

渡辺千賀氏
渡辺千賀氏

現場への権限委譲

まず多くの日本の企業が持つ問題点として、現場に権限を委譲しない点を挙げ、よくビジネスの基本とされる「ほう・れん・そう」⁠報告・連絡・相談)を新入社員以外にまで押しつけていることは行き過ぎであると述べます。これは現場ではなく、企業のトップを含め上司から決断するべきことで、下の者から権限委譲を求めることはあり得ません。⁠どこまで権限を委譲したらいいかわからない」という声もありますが、そこにこそ判断力が求められるわけで、管理職の責任であるといえるでしょう。

意見の主張

また、日本の組織は軍隊的で自由度が少ないという見方について、たしかに物事を決定する時点では上に従いますが、いざその決定を実行に移す際には、案外意に沿わない方向に動かない傾向があるとのこと。これに対して米国では、最初に検討する時点では下の者でも徹底的に自分の意見を主張しますが、一度決まってしまうと、たとえそれが明らかにおかしいとしても従います。これは、米国では直属の上司が部下を首にする権限をもつためで、⁠上司にへつらう部下」も日本より多いのではないかとのことです。

会議の時間と効率化

次に、会議の時間を減らし効率的に行うアイデアとして、シリコンバレーでは電話会議を増やしているという話がありました。電話でダラダラと会議するのは案外難しく、また話が紛糾しにくいという特徴があり、要点だけを効率よく話す環境を作りやすいそうです。顔を合わせられる環境ですらわざわざ電話会議にしている職場もあるとのこと。

そしてこうした改善を行っても、日本企業の場合1年もするとまた元の状態に戻ってしまいます。これを避けるためには、常に改善をし続けることが必要です。

労働のモチベーション

労働のモチベーションを上げるためには、やはり労働時間を短くするのが一番です。シリコンバレーのように、労働時間を自由に使い、在宅勤務を認めるのは難しいので、日本の企業でも実行できそうなこととして、出張に休暇をくっつけて、家族同行でそのまま旅行することをお勧めしたいとこと。米国ではよくあるそうです。個人で長期休暇をとる方法としては、やはり転職時に取るしかないでしょう。

そして、何より自分がやったことに応分の報酬(リワード)がもらえる体制にすることが重要です。全員一律の報酬では対応できません。日本では全員一律の報酬を与える傾向が高く、それではギークのような人を管理職にするといった間違った報い方になってしまいます。たとえばAppleでは、能力を認められた人はどんなプロジェクトに加わってもいい制度があります。このように、ある能力以上の人だけを集めたプロジェクトを作るという方法もあります。

企業を元気にする最大の秘訣

最後の話題は、企業を元気にする最大の秘訣について。それは「常に業績を上げること」です。成熟期の企業の業績を上げる特効薬はM&Aくらいしかないのが現状ですが、シリコンバレーでは、M&Aは技術を買うというよりそこにいる人材を目当てに行うことが一般的です。能力のある人を採用するためにM&Aを行うことは、普通の求人よりも実は効率が良いので、米国ではIT企業に限らず普通のレストランやモーテルでも普通にやっていることです。これは買収される側にもメリットがあり、多くの場合経営が変わったというのはイメージアップになります。シリコンバレーでは「UNDER NEW MANAGEMENT」⁠経営が代わりました)という看板がそこここで見られます。またこうした看板は、そのあたりの文具店で手に入るといったことが、スライドを元に紹介されました。

とはいえ、いくらこうした提言をしても日本社会自体は変わらないのでは、という意見もあります。これについては渡辺さんは楽観的に考えていて、東京の外国人住民登録の統計を見ると、10年後には小学生の10人に一人は外国人あるいはハーフとなることがわかります。黙っていても自然に日本の多様性は上がっていくのではないかとの結論で、講演を結びました。

1日目AMセッション「OSS活用による実践的IT能力開発と、ITアーキテクト・ITスペシャリストへの道」

三浦広志氏
三浦広志氏

メインセッションと同じ時間帯に行われたのが、株式会社NTTデータ基盤システム事業本部/独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)オープンソフトウェア・センター 三浦広志氏による「OSS活用による実践的IT能力開発と、ITアーキテクト・ITスペシャリストへの道~原理原則をふまえた実践的カリキュラムと、認定による人材活用~」と題したセッションです。

IPAが取り組む人材能力開発

三浦氏のセッションは前半と後半で2つの内容が取り上げられました。まず、前半ではIPAオープンソフトウェア・センターが取り組んでいる人材育成について詳細が紹介されました。IPAオープンソフトウェア・センターには人材育成ワーキンググループが設置され、三浦氏はその主査を務めます。

このワーキンググループでは、オープンソースソフトウェア(OSS)モデルのカリキュラム調査を行いながら、体系的な人材教育コースや資格認定といったものを策定することを目的としています。

OSS技術者の加速的な育成が不可欠

三浦氏はIPAでの取り組みや調査結果を元に、OSS利用普及を図るためには「OSS技術者の加速的な育成が不可欠」とコメントしました。また、OSS技術者の教育効果として、技術者のスキル習得だけではなく、⁠高度IT人材育成」に適した手段でもあり、IT業界への貢献につながると述べました。

そのために必要となるのが、モデルカリキュラムとコースウェアで、そのうち中堅IT人材とカテゴライズされる人材の育成については、4種類の職種─ITサービスマネジメント、アプリケーションスペシャリスト(エンタープライズ系⁠⁠、アプリケーションスペシャリスト(組込み系⁠⁠、ITスペシャリスト─に対して、企業が期待するITSSレベル3の達成が目的となるとのことです。

今後、平成20年度下期には、OSSモデルカリキュラム導入実証実験事業の推進が予定されており、今後の実証とともに高い効果が期待されています。

NTTデータにおける人材認定制度

続いて、三浦氏が所属するNTTデータにおける人材認定制度の紹介とともに、人材育成の方向性と効果について述べられました。

現在、NTTデータでは社内において次の4段階のレベル認定が行われています。

  • プリンシパル
  • エグゼクティブ
  • シニア
  • アソシエイト

同社では、単にスキル習得やキャリア構成の獲得だけではなく、実際のプロジェクトにおける実務経験を含めた形で認定しています。そのため、技術以外の現実的な要素を多数含めており、実務に耐えうる資格と言い換えることができます。

同社では「プロフェッショナルCDP」という名称で実施しており、現在、ようやくプリンシパルのレベルまで辿り着いたそうです。この点について、三浦氏は「NTTデータの人材認定制度は、実務経験を伴います。そのため、認定制度が始まってから2年経過し、ようやくこのレベルを認定できるまで裾野が広がってきました。今後、弊社ではさらなる人材教育、そして人材認定を行いながら高度IT技術者の育成を進めていきます」とまとめました。

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