インターネットが変える世界通貨の考え方―PayPal X Developer Conference Innovate 2010レポート

第3回インフラとしてのEコマース、そして開発者に向けたPayPalのメッセージ

インフラになってきたEコマース―Morning Keynoteより

2日目は、Andressen Horowitz、Co-founder and General PartnerのMarc Andreessen氏、Wall Street Journal Co-Exective EditorのKara Swisher氏、eBay Inc. President and CEOのJohn Donahoe氏の3名によるパネルディスカッションからスタートした。

Marc氏はWebブラウザ「Mosaic」「Netscape Navigator」の開発社としても有名で、他にもソーシャルWebアプリケーションフレームワーク「Ning」などのプロジェクトをスタートさせている。

Kara氏は現在Wall Street Journalに所属し、インターネットやWebに関するさまざまな記事を執筆している。

この2人とともにeBay CEOのJohn氏が加わり、ユーザ視点から見たインターネット通貨やEコマースに関するディスカッションが行われた。

左からKara Swisher氏、John Donahoe氏、Marc Andreessen氏
左からKara Swisher氏、John Donahoe氏、Marc Andreessen氏

Kara氏からは、Amazonと比較したeBayに関しての意見が出され、それに対してJohn氏はレギュレーションなどの面からeBayはアメリカ以外にもヨーロッパにも適しているという見解がなされた。

また、Webブラウザを開発しているMarc氏からは、全般論としてのUIの重要性が述べられた。John氏はそれに同意をしながらも、補足として「決済システムというのはUIが重要なのはもちろん、爆炎度の処理やセキュリティの確保が重要。eBay、そしてPayPalはこの点をとくに重要視している」とコメントした。これは、前日のTim O'Reilly氏も述べていたことで、インターネット上での経済圏が普及することにより、インターネット通貨やEコマースがインフラに近づいていくことを意味していると言えるだろう。

来場者が交流し、体験をした展示ブース

各種KeynoteやBreakout Session以外にも、2日間展示が常設された場所が用意されており、参加者たちが新技術を体験したり、参加者同士の交流を図っていた。

初日のキーノートに登場したBumpやPavementの展示ブース。皆、実際のデモに見入っていた
初日のキーノートに登場したBumpやPavementの展示ブース。皆、実際のデモに見入っていた
PayPal Labsのブース。PayPal X上のコーディングサンプルなど、開発者にはたまらない内容ばかり
PayPal Labsのブース。PayPal X上のコーディングサンプルなど、開発者にはたまらない内容ばかり
参加者自身で椅子を作れるコーナー。PayPal X Developer Conference Innovate 2010の参加の記念に
参加者自身で椅子を作れるコーナー。PayPal X Developer Conference Innovate 2010の参加の記念に
チョコレートコーナー。疲れた頭に糖分を
チョコレートコーナー。疲れた頭に糖分を

PayPalキーパーソンインタビュー

今回、gihyo.jpでは会期中、通常のイベントプログラム以外にもPayPalのキーパーソンへの取材をする機会を得た。ここではその模様をお届けする。

CTO、Scott Guilfoyle氏に訊く

最初に取材をしたのは、PayPal CTOのScott Guilfoyle氏。PayPalの開発体制やアジアの位置付けについて伺った。

PayPal CTOのScott Guilfoyle氏
PayPal CTOのScott Guilfoyle氏

現在、PayPalにはワールドワイドで約3,000人の社員がおり、そのうち1,800人がエンジニアリングを行っているそうだ。そして、現在提供されているユーザサービスの多くがJavaをベースにしており、⁠JavaエンジニアにはぜひPayPal Xで提供されるAPIを利用してもらいたい」とのこと。なお、⁠プラグインの実装に関しては、もちろんJava以外の言語で実装してもかまわない」という補足もあった。

最後に、日本のエンジニアにメッセージをお願いしたところ、⁠現在、アジアに関してはシンガポールが中心となっているが、PayPalはテクノロジーカンパニーであり、たくさんのオープンな技術を提供しているので、日本の開発者たちにも興味を持ってもらい、どんどん(PayPalの技術を)使ってもらいたい」というメッセージを残し、インタビューを締めくくった。

Global Product Strategy VP、Sam Shauger氏に訊く

次に取材を行ったのは、Global Product Strategy VPのSam Shauger氏。日本に向けた戦略や印象について質問をした。

Global Product Strategy VP、Sam Shauger氏
Global Product Strategy VP、Sam Shauger氏

Sam氏は冒頭に「日本は大きいマーケット」という前置きをした上で「アーリーアダプター」⁠ゲームや音楽」といった、日本の市場が持つ独自性について触れた。つまり、PayPalから見た日本の市場というのが、ユニークかつ日本ならではの大きな市場であると認識しているのだろう。

一方で、マイクロペイメントの展開など、Eコマースが今後ますますクロスボーダーになっていくことを強調した上で、ゲームやソフトウェアのマーケット、その他、デジタルコンテンツのマーケットとして日本市場に期待しているそうだ。

もう1つ、日本、そしてアジアの独自性として「モバイルの普及」を取り上げ、⁠これからはサイフを持たずにスマートフォンだけで生活するシーンが見られるのでは」という、未来予測も行っていた。

Sam氏は最後に改めて「日本の市場はとても重要。これからどんどん日本とのトランザクションを増やしていきたい」とコメントした。

President Scott Thompson氏に訊く

最後に、PayPal President Scott Thomson氏に話を伺った。

PayPal President Scott Thomson氏
PayPal President Scott Thomson氏

Samシと同じく、Scott氏も日本市場の重要性を認識しており、とくにコンシューマに向けたサービスに期待しているということを述べた。

一方で、Scott氏自身は「日本だけを特別視しているわけではなく、アジアの市場を意識し、その中でも現在最も伸びているのが中国だと認識している。現時点ではアジアNo.1のマーケットは中国だろう。日本はどちらかというとこれからの市場という認識だ」と述べ、さらに「アジアだけではなく、ブラジルなどの南米、アフリカなど、我々がまだまだリーチしきれていない市場が数多くある。しかし、それらすべてをクロスボーダーに繋げられるのがインターネットの力であり、私たちの技術だ」と、改めてインターネット通貨が持つ可能性、潜在能力を強調していたのが印象的だった。

その上で、⁠ご存知のとおり、今回のInnovateは開発者向けのイベントだが、これは、私たちは、開発者にはコードを書いてお金を生み出せる能力があると知っているからこそ開催しているものだ」と、Innovateの開催意義を述べた。

最後に「この先多くの開発者が、自身の技術とコードとともに国境を超えていくはずであり、その結果としてビジネスが拡大していく」とコメントし、インタビューを締めくくった。


今回、3者それぞれの立場からメッセージを頂くことができ、興味深い内容のインタビューとなった。その中で共通していたのが、⁠クロスボーダー」「エンジニアリング」というキーワードである。

今回のInnovateやPayPal Xをきっかけに、今後、開発者たちの活躍の場が、ますます広がっていくことに期待したい。

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