「ソフトウェアテストセミナー」レポート

セッション6 トークセッション

2008年9月19日(金⁠⁠、目黒雅叙園にて、⁠ソフトウェアテストセミナー」⁠株)技術評論社主催、⁠株)サムライズ、⁠株)東陽テクニカ、日本アイ・ビー・エム(株⁠⁠、⁠株)日本オープンシステムズ、⁠株)パソナテック 協賛)が開かれました。その最後にトークセッションが設けられ、エキスパート達の豊富な経験に基づきながら笑いを交えたお話に、会場は大いに盛り上がりました。

セッション6・トークセッション:幸せなエンジニア生活に必要なこと ~目的意識と自分の時間の使い方

17時よりスタートしたトークセッションは西康晴氏(電気通信大学講師⁠⁠、二上貴夫氏(⁠⁠株)東陽テクニカ⁠⁠、大西建児氏(⁠⁠株)豆蔵⁠⁠、池田暁氏(日立情報通信エンジニアリング(株⁠⁠)によるディスカッションです。進行はソフトウェア・テストPRESSの緒方研一デスクが務め、西氏が司会役となりました。

Photo:蝦名悟
(Photo:蝦名悟)

出席者の自己紹介

まずは各自の自己紹介から。西氏は電通大での講師のかたわら、TEF(ソフトウェアテスト技術者交流会)など各種団体での活動も顕著です。二上氏は自社でソフトウェア開発関連の教育・技術支援に従事するほか、東海大学での授業やSESSAME(組込みソフトウエア管理者・技術者育成研究会)の理事、模型ロケットの打ち上げプロジェクト「Hamana」など多彩な活躍ぶりです。大西氏はテストを始めとするソフトウェア品質改善全般に関するコンサルティングを本業としつつ、テストや品質に関わるコミュニティ活動への積極的な活動でテスト手法・技術の普及・発展に努めています。池田氏は4名の出席者の中では最年少ながら、設計・テストツールの導入やプロセス改善に関する業務に携わりつつ、TEFを始め各種コミュニティや団体で積極的に活動しテスト技術の普及に努めています。

西康晴氏
西康晴氏

二上氏・大西氏・池田氏はコンサルティングに携わる点では共通していますが、池田氏は社内的なコンサルティング、二上氏と大西氏は社外的なコンサルティングという、若干の立場の違いがあります。

テストという仕事への取り組み方

業務としてのテストに関して、二上氏から「組み込みソフトのバグ頻度は30~50人/年程度ですが、IT系の場合は1~2人/年と、少なくともリリース直後は大きな差があります。IT系では品質改善は『ひたすら努力する』という姿勢がまだ大勢を占めています」との指摘がありました。これを受けて大西氏が「企業規模の大小では違いはなく、上層部の品質・開発に対する意識の差が現れるように感じます。作業のかなりの部分を手戻りに割かれており、⁠残業はバグのせい』といえるかもしれません」と現状を解説。

二上貴夫氏
二上貴夫氏

さらに西氏が「ツールやプロセスだけで改善されるわけではありません。私は『テストとは人間の賢さの限界への挑戦』だと捉えています」との持論を展開すると、池田氏も「私が相談を受ける社内ニーズのほとんどは、ツールを使わなくても解決できます。⁠ツールが必要か?』⁠実はプロセス改善が必要なのではないか?』といった見極めが重要だと思います」と、安直なツール依存への疑問を投げかけます。ここで二上氏から、⁠エンジニアにとってはツールとはソフトウェアですが、経営層からするとツールとはエンジニアなのです。エンジニア自身が主体性をもって上層部に訴求する姿勢が必要でしょう」との興味深い指摘がありました。

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仕事とプライベートとコミュニティ

仕事とプライベートとの関係について、西氏が「テストエンジニアとお酒を飲んで、境界値の話になると大いに盛り上がります」というエピソードを披露すると、皆心当たりがあるからか、会場が爆笑の渦に包まれました。

池田氏はTEFでの交流などに触れ、⁠最初のうちは話がわからなくても、回を重ねるうちに『門前の小僧』状態でだんだんわかるようになってきます。部署外や社外など外の世界を若い頃から積極的に見るようにするといいと思います」と、自らの経験を元に呼びかけます。西氏から3~40代の心境を問われた大西氏は、⁠3~40代は変なプライドを持っている場合が多いですね。若手が『こういう交流会に行きたいんですけど、不安なので一緒に行ってもらえませんか?』というように頼み事をする形にすると、誘いやすいかもしれませんね」と語りました。

また西氏から二上氏のプロジェクトには人が集まりやすいのはなぜかとたずねられ、⁠ひとは目的を明確にすると、集まりやすいですね。メッセージを上手く伝えると、共振・共鳴しやすいんだと思います」と、その秘訣を明かしました。

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参加者からの質問

ここで、参加者との質疑応答に。

まず最初に「ツール購入時に、上司を説得するいい方法はないか?」との質問があり、答えを求められた二上氏が「私を呼んでください」と会場の爆笑を誘います。

真面目な話として「得られることが予め確実な、上司を納得させられる成果を挙げると説得しやすいでしょう」と二上氏が答えると、大西氏は「フリーウェアでもいいので、まず効果を見せることが有効だと思います⁠⁠、池田氏は「導入の利点を複数用意しておき、トータルに見て効果が上がると示すことができれば、説得しやすいでしょう」と、3人とも目に見える効果の有効性を指摘しました。西氏は「普段からの人間関係も重要」⁠上司や経営者の視点でも考える必要がある」と補足するとともに、⁠組織の成長』という面も有効でしょう。工数減らしは人減らしにもつながりかねませんから、⁠手戻りやバグ直しが減る』といった切り口での説得が必要だと思います」と注意を促しました。

大西建児氏
大西建児氏

続いて、⁠テストの勉強はどんな点から始めるのがいいか?」との質問がありました。

大西氏は自身が携わる新人教育を引き合いにしつつ、⁠テストの対象をよく知ることが大事だと思います。また、算数や数学の復習や、論理学の勉強も役立つでしょう」と指摘。二上氏の回答は「テストの勉強に加えて、小説を読むと先の展開を読む力が身に付きます」という、ユニークな内容でした。二上氏のお薦めはアイザック・アシモフの「われはロボット」⁠原題「I, Robot⁠⁠)とのことです。池田氏が自身の経験として、⁠勉強する時はオンライン書店で関連書籍をまとめ買いする」と語ると、会場がどよめきました。池田氏はまとめ買いの理由を「たくさんの本を読むことで、テストの世界の広大さを知ることができます。初心者向けよりも高度な書籍が、世界をつかむのに役立ちます」と説明します。西氏は「テストとは昆虫採集のようなものです。過去のバグを見てその原因を尋ねたり考えたりし、常に『全体とは何か』を考えるといいでしょう」と道筋を示しました。

池田暁氏
池田暁氏

【まとめ】幸せなエンジニア像とは?

最後に、幸せなエンジニア像を出席者それぞれに尋ねました。

池田氏は「⁠⁠テストが好きだ』と胸を張って言えることだと思います」と語った後、自身の入院経験に触れて「自分が倒れた時に周囲が意気に感じて協力し力を貸してくれること」が幸せだといいます。大西氏は「やりたいことをやれるエンジニアになりたいと思いますね。そのためにはやりたくないことでもしっかりやることが大事です」と、日頃の地道な取り組みの大切さを説きました。

二上氏は「自分が幸せかどうかは、自分が会社や社会の中でどのような位置付けにあるか、自分自身の『座標』の取り方が重要だと思います」との考え方を示します。西氏はソフトウェアの設計時にUMLやロクロが頭の中にあるとした上で、⁠テストの醍醐味は、テスト計画の設計を物作りだと思えるかどうかにかかってくると思います」と語りました。

こうしてトークセッションは、大盛況のうちに幕を閉じました。

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